制作会社が生成AIでつくった画像を納品する。クライアントはそれを広告やオウンドメディアで使う。そんな場面で、しばしば聞こえてくるのが「AIがつくった画像には著作権がないから、自由に使える」という理解である。だが、少なくとも日本の著作権法と文化庁の整理は、AI生成物を一律に「権利のない素材」とは扱っていない。人がAIを創作の道具として使い、表現の形成に創作的に関与したなら、著作物と認められる余地がある。

その境界が、国内の具体的な紛争で問われようとしている。2026年8月、AIで制作した美容室向けモデル画像を販売する株式会社Saiは、240点の画像を無断で利用・加工されたと主張して提訴した事実を公表した。まだ判決はなく、相手方の詳しい反論も公開情報からは確認できない。それでもこの訴訟は、制作現場に一つの問いを突きつける。AI画像の権利を判断するには、完成画像だけでなく、そこに至る人の判断を説明できなければならないのではないか。

判決はまだない。それでも「AIなら自由」という前提は置けない

朝日新聞は2026年8月17日、Saiが販売するAIモデル画像と酷似した画像が美容院の予約サイトに掲載され、同社が著作権侵害を主張して裁判に進んだと報じた。記事によると、Saiは性別、年齢、構図、背景、雰囲気などをAIへ指示する。複数の出力からベースを選び、手作業で修正した後、別のAIでも加工して商品化しているという。

翌18日、Saiは自社サイトで訴訟の詳細を公表した。同社の説明では、2026年7月8日、大阪地方裁判所第21民事部へ提訴した。事件番号は令和8年(ワ)第7318号で、求めているのは著作権侵害行為の差止めと画像データの廃棄などである。Saiは、プロンプト設計、生成画像の選択、手修正・加工、画像合成の積み重ねを「創作的寄与」として主張している。

ただし、これは原告側が公表した事実関係と法的主張である。Saiの発表によれば、相手方企業は同年5月29日、東京地方裁判所に損害賠償義務が存在しないことの確認を求める訴訟を起こした。その後、大阪地裁への移送が決まったという。相手方が個々の画像の著作物性、類似性、依拠性をどう争うのかは、公開情報だけではわからない。裁判所もまだ判断を示していない。

したがって、この時点で「AI画像の著作権が国内裁判で認められた」と書くことはできない。一方で、「AI生成だから無断で使ってよい」とも言えない。著作物性が争われる余地がある以上、利用者が権利の不存在を勝手に前提化すること自体が、実務上のリスクになるからだ。

問われるのは、プロンプトの長さより表現を決めた過程である

文化庁が2024年3月にまとめた「AIと著作権に関する考え方について」は、AIが自律的に生成したものは著作物に該当しない一方、人が思想や感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば、AI利用者の著作物になり得ると整理する。その判断軸が、人の「創作意図」と「創作的寄与」である。

ここで誤解しやすいのは、長いプロンプトを書けば、そのまま著作権が発生するわけではないことだ。文化庁は、長大でもアイデアを示すだけの指示は決め手にならず、創作的な表現を具体的に示す詳細な指示は肯定方向の事情になり得るとしている。

試行回数の多さ自体にも決定力はない。ただし、出力を確認し、指示を修正しながら試行を重ねた過程は評価される場合がある。複数案からの単純な選択だけでは足りないが、選択が表現形成の一部になっているなら、他の行為と合わせて考慮される。人が創作的な加筆や修正をした部分は、通常、その部分に著作物性が認められる。

つまり、問われるのは「AIを何回使ったか」ではなく、誰がどの表現を決め、出力へどう反映させたかである。Saiの訴訟では、同社が説明する制作工程が個々の画像にどのように結びつき、創作的な表現を形成したと認められるかが焦点になり得る。

もう一つ、著作物性と侵害の成否は別問題である。原告画像が著作物だとしても、相手方の画像に創作的表現の共通性があるか、原告画像に依拠してつくられたかが検討される。逆に、あるAI生成物に著作権が成立しなくても、実在人物の肖像、商標、契約上の利用条件など、別の権利や制約が消えるわけではない。「著作権がないかもしれない」を「何をしてもよい」へ飛躍させてはいけない。

納品時に必要なのは、「AI使用」の申告だけではなく権利の来歴である

この整理を受託制作へ置き直すと、権利確認は納品直前のチェックでは遅い。企画、生成、編集、納品の各段階で、次の情報をつなげて残す必要がある。

  • 使用したAIサービス、モデル、プラン、利用日と、その時点の利用規約
  • 入力したプロンプト、参照画像、追加学習素材と、それらを使う権限
  • 採用案を選んだ理由、再生成時に変えた指示、手作業で加えた修正
  • 類似画像検索、実在人物・ロゴ・キャラクターなどの確認結果
  • 最終画像の利用範囲、改変可否、再利用条件、クレジット、保存期間

文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」も、業務利用者に対し、利用するサービスの仕組みや規約を確認し、公開前に既存著作物との類似性を調べるよう勧めている。生成に用いたプロンプトなどを確認可能な状態にすることも挙げている。

これは侵害を避けるためだけではない。生成物の著作物性を取引先へ説明するうえでも、生成過程の記録が役立つと明記されている。

素材サイトで購入した場合も、「ロイヤリティフリー」と「著作権フリー」を混同しない方がよい。前者は一般に、定められた条件内で追加の使用料を払わず使えるライセンスを指し、権利が存在しないことを意味しない。購入画面の表示だけでなく、AI生成物であるか、商用利用や改変が可能か、独占性があるか、第三者から申立てがあった際に誰が対応するかまで確認したい。

実務では、一枚ごとに長い報告書をつくる必要はない。案件単位の「AI利用シート」を用意し、ツールと規約、入力素材、生成ログ、手修正、類似性確認、利用条件を一枚にまとめればよい。重要なのは、画像ファイルと権利情報を別々にしないことである。

契約は「権利を保証する」一文より、確認と事故対応を分担する

契約書でも、「成果物の著作権はすべて発注者に帰属する」とだけ定めるのでは足りない。そもそも著作権が成立する範囲、制作者や従業員の関与、AIサービスの規約、第三者素材のライセンスによって、移せる権利の範囲は変わる。

少なくとも、生成AIの利用可否、事前承認の要否、入力禁止情報、制作記録の提出範囲、類似性確認の担当を定めたい。権利申立てがあった場合の停止、差し替え、費用負担も分けて決める必要がある。

たとえば、法務確認前のたたき台としては、次のような条項が考えられる。

受託者が本業務に生成AIを利用する場合、使用するサービス、利用範囲および最終成果物への含有の有無を発注者に開示する。受託者は、利用規約を確認し、権限のない第三者著作物および秘密情報を入力しない。受託者は、プロンプト、参照素材、主な選択・修正工程を合理的な範囲で記録し、求めに応じて提示する。第三者から権利侵害の申立てがあった場合、当事者は使用停止、差し替え、原因調査および対外対応を協議する。成果物に著作権が成立する範囲で、その取扱いは別途定める。

この文案の狙いは、制作者へ無限定の保証を負わせることでも、発注者を免責することでもない。誰が何を確認し、問題が起きたときに制作物を止められるかを決めることにある。案件の用途や損害規模によって適切な責任分担は変わるため、実際の条文化には弁護士の確認が必要だ。

Saiの訴訟がどのような結論に至るかは、まだわからない。だが、制作現場が判決まで待つ必要はない。「AI生成だから権利がない」という神話は、法廷で崩れたのではなく、もともと実務の土台にできないほど粗い理解だった。

生成AIを使うなら、人が表現を決めた過程を残し、使う権利と守る責任を成果物と一緒に納品する。これからの制作会社に必要なのは、AIを使わない証明ではなく、AIをどう使ったかを説明できる工程設計である。