2026年9月1日、電通、電通デジタル、SB Intuitionsが研究結果を公表した。生成AIが書いた広告コピーをプロ64人が採点し、評価は11万6532件にのぼった。

AIは短時間で案を増やせる。だが、数百案から何を残すかは別の仕事だ。今回見えたのは、人の選び方を学んだAIも、経験のない商品では判断を外しやすいという限界である。

本稿では、広告コピーAIの役割が「書く」から「選ぶ」へ広がった経緯と、導入前に人が決めておくべきことを整理する。

用語メモ

  • LLM-as-a-Judge:文章を作るAIに、別の文章を採点させる方法。今回はコピー候補の選別に使う。
  • Sarashina:SB Intuitionsが開発する日本語向けの大規模言語モデル。今回の共同研究で使われた。
  • what-to-say / how-to-say:何を伝えるかを決め、伝わる表現へ変える広告制作の順序である。

広告コピーAIがつまずいたのは、書くことより選ぶことだった

広告コピーは、商品の特徴を短くする作業ではない。まず誰に何を伝えるかを定める。次に、気づきや言葉の調子を選び、覚えられる表現へ変える。

AIは後半の案を大量に出せる。その分、良い案を見分ける仕事が詰まりやすい。情報科学技術フォーラム(FIT2026)の発表要旨も、生成候補の品質評価には専門家の判断が必要だと課題を置く。

電通は2015年から広告制作でAIを研究してきた。2024年の「AICO2」は、コピーライターが考えた約1万作品だけでなく、意図や考え方も学習した。自分で案を採点し、基準を超えたものだけを出す機能も持っていた。

今回は採点の根拠をさらに細かくした。64人が共通の基準で生成コピーを評価した。「最初に目を止めるか」「生活者への気づきが深いか」「言葉選びが合うか」といった観点を、AIが使える指標にした。

つまり、人が書いた完成作を集める段階から、人が案を選ぶ途中の判断を残す段階へ進んだ。AI時代に企業が蓄えるべきものは、コピー案の本数だけではない。なぜ残し、なぜ落としたかという記録である。

未知の商品では、人とAIの採点が離れた

研究チームは、評価データの一部とコピーライターの基準を入れた指示文を使い、AIの採点を検証した。学習や調整をした業種・商品では、人の評価と一定の正の相関があった。

ところが、検証していない業種・商品では相関が下がった。指示文を直すだけでは、幅広い分野に使いにくいことも確認された。AIは「良いコピー」を広く覚えたのではなく、経験した範囲で人の選び方に近づいたと見るべきだ。

限界も残る。発表では、相関係数、対象となった業種数、採用したAIごとの差を開示していない。評価者も電通のコピーライターであり、その基準が他社や生活者にも同じように通じるとは確認されていない。

さらに、今回測ったのは人の採点との近さである。広告を見た人の記憶、好意、購入が上がったかは示されていない。企業は「AIが高得点を付けた案」と「事業で役立った表現」を同じ成果にしてはならない。

クリエイティブ・AI活用を考える3つの学び

1. 完成案より、選んだ理由を残す

電通の研究が使ったのは、優れたコピーの一覧だけではない。64人による11万6532件の評価と、その観点である。自社でAIを使うなら、採用案だけでなく、誰がどの理由で落としたかを記録できるかを先に決めたい。

2. 得意な商品と未経験の商品を分けて試す

人の評価に近づいたのは、学習や調整をした範囲である。新商品や別業種へ移すときは、同じ指示文を流用せず、人の再評価を入れる。どの範囲を超えたら、専門家へ戻すかを公開前に決める必要がある。

3. コピーの採点と広告の成果を別々に測る

言葉として良いことと、生活者が動くことは同じではない。まず専門家が表現を確かめる。次に、記憶や購入など目的に合う数字を比べる。AI企業に編集者が必要な理由も、案を増やす速さより判断の責任を重く見る点でつながる。

AIがコピーを書くほど、人の仕事が消えるとは限らない。人は一案ずつ書く役割から、判断の物差しを言葉にし、未知の商品でずれを見つける役割へ移る。企業が次に問うべきは、何本つくれたかではなく、選び方を更新できる人がいるかである。

Sources / 参考資料