クイズナイトで参加者が最初に見るのは、相手のプロフィール写真ではない。テーブル中央の問題を読み、同じチームの人と答えを相談する。会話は「何を話すか」を探す前に、もう始まっている。

米国のイベント販売サービスEventbriteは2026年7月、出会う意図を示したクイズイベントが前年同期より403%増えたと発表した。麻雀、野鳥観察、ピラティス、植物交換でも、趣味と出会いを組み合わせた催しが増えている。参加者が恋人候補だけを見比べるのではなく、先にやることが決まった場だ。

ただし、この数字だけで「Z世代がマッチングアプリをやめた」とは言えない。 起きているのは、プロフィールを選んでから会う方法だけでなく、同じ活動をしてから相手を知る方法が伸びていることだ。アプリ自身も、会場を見つける入口へ変わり始めた。

403%増えたのは、出会いの言葉を添えた米国のクイズイベント

403%という数字は、人の数でもZ世代の割合でもない。Eventbriteが2025年1〜6月と2026年1〜6月を比べ、米国内で完了した一般公開の対面イベント数を数えた結果である。

対象になったのは、趣味と出会いの両方を掲げた催しだ。タイトルや説明には「singles」「mixer」「come solo」「find your people」など、交流の意図を示す語が入っている。同社が公開した6形式では、イベント数と参加者数が次のように動いた。

比較表
形式イベント数参加者数読み方
クイズナイト+403%+388%開催数と参加者がほぼ同じ速さで増加
麻雀の集まり+235%+272%開催都市が前年の6倍に拡大
野鳥観察+131%+82%一人でも参加しやすい屋外活動が増加
ピラティス交流会+84%+87%運動後の交流時間を組み合わせる形式
植物交換・テラリウム+117%+24%小規模な近隣イベントが増加
陶芸・クラフト+38%+116%開催数より既存イベントの集客が伸長

ここで注意したいのは、Eventbriteが各形式の実数を公開していないことだ。仮に5件が25件になっても、500件が2515件になっても、増加率は同じ約400%になる。急増は確認できるが、市場全体の大きさはわからない。

参加者の年齢別内訳も示されていない。これはEventbrite上で特定の語を使った米国イベントの変化であり、「米国のZ世代全体」や「日本の若者」の行動をそのまま表す数字ではない。

同社はイベントを販売する側でもある。403%は有力な兆候だが、単独で結論にはできない。

趣味が先にあると、会話と断り方の負担が軽くなる

それでも、クイズや麻雀が出会いの場として伸びる理由は説明できる。一般的なマッチングアプリでは、写真や短い紹介文から相手を選び、メッセージを送り、会う約束をする。最初から「恋愛相手として選ぶか」が前面に出る。

趣味イベントでは順番が逆になる。参加者はまず、問題を解く、牌を覚える、鳥を探す、土に触れる。相手を評価する前に同じ対象へ目を向けるため、会話の材料と共同作業が最初から用意されている。

  • 恋愛が成立しなくても時間が無駄にならない。 クイズや運動、制作そのものを楽しめる。
  • 自己紹介より行動が先に見える。 考え方、聞き方、助け方を同じ作業のなかで知れる。
  • 一対一から始めなくてよい。 チームや友人と参加でき、合わなければ会話を終えやすい。

Eventbriteの2026年調査では、若年層の58%が、交流をイベントの主目的ではなく副次的な要素にしたいと答えた。69%は、複数の関心を組み合わせた催しを求めている。

同社の調査である点は差し引く必要がある。それでも「交流会へ行く」より「好きなことをしに行き、結果として話す」ほうが、参加する理由をつくりやすい。

これは安全や相性を自動的に保証しない。参加費、移動、会場の雰囲気は新たな壁になる。少数派の趣味を持つ人や、集団の場が苦手な人にはアプリのほうが合う場合もある。

イベント数の増加から、交際の成立率や関係の継続までは確認できない。

アプリ側も、プロフィールを並べるだけの場所から外へ出ている

マッチングアプリへの疲れを示す数字はある。Match Groupの2026年4〜6月期では、Tinderの日次利用者数が前年同期より4%減った。同社全体の有料利用者も6%減り、CEOは離れていった独身者を呼び戻すことが次の課題だと説明している。

一方で、同じ四半期にHingeの月間利用者数は13%、売上高は22%増えた。ひとつのアプリが減速しても、オンラインで相手を探す行動全体が同じ方向へ減っているわけではない。

少し前の基準も、アプリがすでに生活へ入っていることを示す。Pew Research Centerは2022年、米国成人6034人を調査した。18〜29歳の53%が、出会い系サイトやアプリを使った経験を持っていた。

交際相手がいる同年代では、5人に1人が現在の相手とオンラインで出会っていた。2026年の増減を示す数字ではないが、対面イベントの伸びだけでアプリの役割が消えたとは判断できない。

さらにTinderは2026年3月、ロサンゼルスで「Events」を試し始めた。アプリ内で陶芸やクイズなど近くの催しを探し、参加に関心を持つ独身者を確認できる機能である。

4〜6月期の発表によれば、試験対象となった18〜24歳のアクティブ利用者の71%がイベント欄を使い、対象都市は米国と欧州でさらに9都市増えた。

友人と二人組で別の二人組とつながる「Double Date」も、最初の一対一が持つ緊張を弱める試みだ。アプリ企業は対面イベントを競合として退けるのではなく、自社のなかへ取り込んでいる。

日本で真似るべきはイベント名ではなく、出会いが自然に始まる条件

日本を「アプリ離れ」と呼ぶ根拠は、今回の米国データからは得られない。こども家庭庁は2024年、15〜39歳の2万人を調査した。既婚者2000人が配偶者と出会った場所の首位は、マッチングアプリの25.1%だった。

職場や仕事関係、アルバイト先の20.5%を上回る。米国の403%と日本の25.1%は、片方がイベント数の前年比、もう片方が既婚者の出会い方であり、直接比較できない。

両方から読めるのは、アプリが消える未来ではなく、出会い方が一つに定まらない状態である。

若者向けのサービスやイベントをつくる側が持ち帰れるのは、「クイズ会を開けば恋愛が生まれる」という表面ではない。次の条件を一つずつ満たせるかだ。

デジタル庁は2025年、マイナンバーカードでアプリ利用者の本人確認を強める取り組みを紹介した。対面へ移っても、安全をアプリだけの仕事にせず、会場の運営までつなげる必要がある。

  • 恋愛が生まれなくても、参加者が来てよかったと思える活動があるか。
  • プロフィールでは見えない振る舞いを、無理なく知れる共同作業があるか。
  • 一人参加の説明、本人確認、行動規範、スタッフへの相談、退出のしやすさが用意されているか。
  • オンラインを滞在場所にせず、発見、予約、再訪、連絡を助ける入口として使えているか。

企業の意図を顧客の記憶と体験へ変えるブランディングという観点でも、最初の接触は広告やプロフィール画面だけでなくなった。

誰かと同じ問題に悩み、同じ作業を終えた経験そのものが、その場やサービスを覚える理由になる。

403%は、マッチングアプリ終了までのカウントダウンではない。人を先に選ぶ出会いから、同じことをしている人を後から知る出会いへ、入口が増えたことを示す数字である。

画面は舞台であり続ける必要がない。人が会える場所へ向かう扉になればよい。

Sources / 参考資料