飛行機に詳しくない人の画面に、パイロットや整備士が普段の仕事を話す動画が現れる。動画を見た人は、会社名より先に社員の顔と話し方を覚えていく。
日本航空(JAL)が2023年に始めたYouTube「JAL、サブチャンネルはじめました。」は、2026年9月1日時点で登録者47.8万人に達した。日経クロストレンドによると、主な視聴層は20〜30代である。
人気の理由は、広告を軽い口調に変えたからではない。JALが伝えたい情報を、視聴者が見たい社員番組へ変える役割を社外にも置き、届いた後の反応まで次の企画へ返しているからだ。
宣伝より先に、社員を知る番組にした
JALには以前から公式YouTubeがあった。運営担当者は2025年12月のインタビューで、当時の役割を説明している。テレビCMなどの動画を保管し、宣伝や販促で使うことが中心だった。
そこでJALは、公式チャンネルをそのまま作り直さず、2023年春に別のサブチャンネルを開いた。狙ったのは、航空ファンではなく、JALや飛行機への関心が薄い人、搭乗機会が少ない人、20代前後の人である。
画面に出るのは、パイロット、客室乗務員、整備士、空港で働く社員だ。視聴者の代わりに質問するのは、顔を出さない外部ディレクターである。社外の人が「JALさん」と問いかけることで、広報が自社の長所を説明する動画との距離をつくった。
企画も一人で決めない。JAL側は会社として出せる内容かを確かめ、外部ディレクターは一般の視聴者が本当に見たいかを確かめる。モバイルバッテリーを預けられないという注意も、社員が荷物の重さを当てる企画と組み合わせた。伝える必要がある情報に、見る理由を加えたのである。
継続の方法も、社員の本業に合わせた。担当者インタビューでは、出演者を一日に集めて4〜6本を撮り、職種や動画の雰囲気が偏らない順で公開すると説明している。撮影から半年後でも見られる企画にして、会社の発表日だけに頼らない番組をつくった。
おすすめに載る技術より、見る人を一人に絞った
YouTube公式ヘルプは、おすすめ動画を選ぶ際に「見るか」「見続けるか」「満足したか」という反応を見ると説明する。投稿した会社の知名度だけで動画が広がるわけではない。
JALの運営担当者は、同じ再生回数でも、新しい視聴者が多い動画と常連が多い動画を分けて見ている。常連向けが続けば、次は初めて見る人が入りやすい企画を置く。再生回数の多い型だけを繰り返さない。
この運用は、JALがアルゴリズムを攻略した証明ではない。登録者が増えなかった場合との比較や、各施策が登録や搭乗へ与えた割合は公表されていない。
ただ、対象を「若者」だけで終わらせなかった。「JALをよく知らず、飛行機にも関心が薄い人」まで絞ったため、出演者、質問、企画の判断を同じ方向へそろえられた。
企業YouTubeは、再生回数の先にある行動まで見る
JALが見ているのは、再生回数と登録者数だけではない。担当者は、コメントの内容と数、外部調査によるブランドイメージの変化も確かめている。旅行でJALを選んだ、JALカードを作ったというコメントも記録する。ただし、コメントは視聴者の自己申告であり、購入率を示す数字ではない。
2026年2月からは、人気の過去動画を国内線と国際線の機内でも上映し始めた。JAL公式サイトによると、作品は3カ月ごとに更新する予定である。YouTubeで会社を知った人が、実際に飛行機へ乗った後も番組に触れられるようになった。
企業が持ち帰る判断は三つである。
- 誰に見せないかまで決める。 既存顧客や社員ではなく、今は会社に関心がない一人を言葉にする。
- 社内判断と視聴者判断を分ける。 正確さと会社の責任は社内が持ち、見る理由は社外の目で確かめる。
- 到達、関係、行動を分けて測る。 再生回数と登録者、コメントや調査、購入や応募を同じ成果にしない。YouTubeの数字は、再生回数、視聴の深さ、行動に分けて見る必要がある。
JALの事例が示すのは、企業YouTubeを動画倉庫ではなく、社員が繰り返し登場する番組として扱う考え方である。商品を先に見せるのではなく、人を知った後に会社を選べる時間をつくる。その順番が、航空に関心の薄い視聴者との距離を縮めた。
Sources / 参考資料
YouTube「JAL、サブチャンネルはじめました。」
JAL企業サイト「『JAL、サブチャンネルはじめました。』人気の過去作品が機内でもお楽しみいただけます」(2026-05)
PRマガジン「なぜJALは“あえてサブチャンネル”を選んだのか」(JAL運営担当者インタビュー、2025-12-05)
JAL trico「YouTube『JAL、サブチャンネルはじめました。』撮影の裏側」(2024-03-26)
YouTube Help「Understand your content performance for YouTube’s recommendation system」
YouTube Help「How YouTube recommendations work」
