画像や動画をつくり、PDFを読む。Adobeはその道具で知られる会社だ。2026年9月3日、同社はアニール チャクラヴァーシー氏を12月1日付の次期CEOに選んだ。氏が率いるのは、最大の制作・文書事業ではない。
選ばれたのは、企業が顧客データを見て、内容をつくり、届け、結果を測る仕事を支える事業の責任者である。詳しい選考理由は非開示だ。だが、今回の人事と2026年の製品群を重ねると、Adobeが制作の前後まで売ろうとしていることが見える。
用語メモ
- アニール チャクラヴァーシー氏:2020年にAdobeへ入り、カスタマーエクスペリエンス統合事業部門と世界の営業を率いてきた次期CEO。
- Digital Media:Creative CloudやAcrobatなど、画像、動画、文書をつくり、扱う事業。
- Digital Experience:企業が顧客データ、配信、分析を扱う事業。現在の顧客体験事業につながる。
- GenStudio:広告や記事などを、企画、制作、承認、配信、計測まで管理する企業向け製品群。
Adobeは最大事業ではなく、売上の約4分の1を担う責任者を選んだ
Adobeの2025年度売上は237.7億ドルだった。Creative CloudやAcrobatを含むDigital Mediaは176.5億ドルである。株主向け資料によると、全体の約74%を占める。Digital Experienceは58.6億ドル、約25%である。
つまり、売上の大きい側から後継者を選んだ人事ではない。チャクラヴァーシー氏は、2020年からDigital Experienceを率いてきた。世界の法人営業も担い、今回、Adobe取締役会から次期CEOに選ばれた。現CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏は12月1日以降、会長として移行を支える。
ただし、「小さい事業が主力を置き換える」とは言えない。チャクラヴァーシー氏は制作製品を含む全製品の法人営業も担当してきた。取締役会が公表した選考過程は「厳格だった」という説明までで、候補者や評価項目は明らかにしていない。
それでも人事の向きは、Adobeが先に出した製品と一致する。焦点は、画像を一枚つくる機能だけではない。制作物が企画から顧客へ届くまで、途中で止まる仕事を減らすことである。
Adobeは制作の前後にある承認、配信、計測まで製品に入れた
Adobeは2026年4月、GenStudioに企画、制作、管理、配信、効果分析をつなぐ機能を追加した。Brand Intelligenceは、ブランドの決まりを読むだけではない。担当者が過去に承認、修正、却下した記録から、次の制作物を確かめる材料を学ぶと説明している。
6月に一般提供したCX Enterprise Coworkerは、担当者が目標を入力すると対象者を選ぶ。内容をつくり、複数の配信先へ送る計画も組む。人は計画を承認し、公開後の数字を確かめる。同社は権限や同意のルールも作業へ引き継ぐとしている。
ここで売っているのは、生成AIの速さだけではない。企画書が制作へ渡り、法務やブランド担当が確認し、配信後の結果が次の企画へ戻るまでの仕事である。次期CEOが率いてきた事業は、この流れを法人へ売る役割を担う。
Adobeは、2万社超のブランドが企業向け製品を使うと説明する。Adobe Experience Platformは、年1兆件超の体験を支えるという。ただし、これは導入企業数と処理規模である。GenStudioが制作費や売上をどれだけ変えたかを示す共通の比較結果ではない。
サイバーエージェントがデザイナーへ実装まで求めた職種変更も、つくる人の仕事が前後へ広がる例だった。Adobeの人事は、同じ変化が道具を売る会社の経営側にも及んだ事例として読める。
AI時代の制作・マーケティング組織を考える3つの学び
1. 組織図は、製品の変化より遅れて動く
AdobeはCEO交代前から、制作、承認、配信、計測を同じ製品群へ入れていた。人事だけを待って戦略を読むのでは遅い。自社でも、新製品がどの部門の仕事をまたぎ始めたかを先に追いたい。
2. つくる速さより、途中で止まる場所を測る
生成AIで画像を早くつくれても、確認や配信で止まれば顧客へ届く日は変わらない。Adobeが承認記録や権限まで扱うのはそのためだ。制作時間に加え、修正回数、承認日数、配信までの日数を測る必要がある。
3. CEO人事を戦略の確定証拠にしない
約25%の事業からCEOを選んだ事実は、優先順位を考える手がかりになる。一方、制作事業を縮める計画や詳しい選考理由は公表されていない。次は9月10日の決算説明で、投資、売上目標、責任範囲がどう語られるかを確かめたい。
Sources / 参考資料
アドビ「2026年12月1日付でアニール チャクラヴァーシーが社長兼CEOに就任」(2026-09-04)
Adobe, “2026 Letter to Stockholders”
Adobe, “Adobe Introduces Brand Intelligence and Expands GenStudio” (2026-04-20)
Adobe, “Adobe Announces General Availability of CX Enterprise Coworker” (2026-06-10)
