2026年8月21日、サイバーエージェントが「AIXデザイナー」という職種を定義した。AIXは「AI eXperience」を指す。

同社の説明では、AIXデザイナーはAIを前提とした開発プロセスに参画する。ビジネス課題の発見とユーザー体験の設計から、実際に動くプロダクトの実装・改善までを担う。

生成AIを制作の効率化に使う話ではない。デザイナーの担当範囲そのものを、画面の手前から本番環境の側へ広げる定義である。

本稿では、この定義が何を変えたのか、そして同じ週に動いたエンジニア職種の刷新と合わせて、AI時代の制作職に何が起きているのかを整理する。

用語メモ

  • AIXデザイナー:AI前提の開発プロセスに参画し、課題発見・体験設計から実装・改善までを担うデザイナー。サイバーエージェントによる定義である。
  • AI成熟度Level 4:同社が置く5段階指標の第4段階。要件策定から本番環境への展開まで、開発プロセスが完全に自動化された状態を指す。
  • ビジネスリードエンジニア(BLE):2026年8月28日に新設されたエンジニア職種。「どう作るか」だけでなく「何を作るか」から関わる役割である。

「AIXデザイナー」の定義は、デザイナーの範囲を実装まで広げた

まず、定義の中身を確認したい。公表資料が挙げるのは、AIとエンジニアリングの原理を理解すること、ユーザー体験と開発の仕組みを両方設計すること、AI駆動の開発でプロダクトの改善を牽引することである。

つまり、企画から実装、改善までを一人が通す前提になっている。デザイナーが作った案を、別の職種が実装する順序を置いていない。

同社は「AIXデザイン室」も設立した。求められるスキルと役割の明確化、育成機会の提供、習熟度を評価する仕組みの構築までを担う組織である。

Phase 1では、社内から選抜したデザイナーに約1か月の実践プログラムを実施する。AIエージェントの活用、エンジニアリングの基礎、プロダクト開発の実践が内容として挙がっている。

ここで見落とせないのは、定義と同時に評価の器を作った点だ。新しい職種名を掲げるだけなら宣言で終わる。評価の仕組みまで組織の仕事として置いたことが、この発表の実質である。

執行役員でクリエイティブを統括する佐藤洋介氏は、AIはクリエイティブを代替するのではなく支えるものであり、人が本質的な価値創造に集中できるようになると述べている。ただし、これは会社側の位置づけであり、実際に職域が広がる現場でどう受け止められるかは別の話だ。

同じ週に、エンジニアの職種も「何を作るか」へ動いた

この発表を単独で読むと、デザイナー職の拡張という話に見える。だが、7日後の動きを並べると、見え方が変わる。

2026年8月28日、同社はエンジニア向け評価制度「JBキャリアプログラム」を全面刷新した。2019年の策定以来、初めての全面改定である。

刷新の柱が、新職種「ビジネスリードエンジニア(BLE)」の新設だ。BLEは事業の現場に深く入り、課題発見と要件定義から設計・実装・運用までを一気通貫で担う。

同社はエンジニアのキャリアを4つのコースに整理した。エキスパートエンジニア、テックリードエンジニア、ビジネスリードエンジニア、エンジニアリングマネージャーである。育成と採用を担う「Business Bridge室」も設けた。2028年卒の新卒採用からはBLE枠を設ける予定という。

ここで、両者の向きを見比べたい。デザイナーは「作る」から実装の側へ動き、エンジニアは「どう作るか」から「何を作るか」の側へ動いている。

AIが埋めたのは制作の速度ではない。埋まったのは、職種と職種のあいだにあった受け渡しの工程である。両側から人を寄せる設計を、会社が同じ月に二度発表したことになる。

企業の中で職域が引き直される動きは、企業の中に「編集者」が増えている理由でも見た構図に近い。専門職の名前は残りながら、担当する範囲だけが静かに移っていく。

この変化は、制作を外部に発注している企業にも関係する。発注の単位が「デザインの納品」で切られているかぎり、受け渡しの工程は社外との境界に残り続けるからだ。

同社が内側で消そうとしている工程は、多くの企業では会社と会社のあいだに置かれている。どこまでを一つの依頼として渡すかは、AIの導入とは別に決めておく必要がある。

背景にあるのは「2028年に完全自動化」という目標である

なぜ職種を定義し直す必要があるのか。背景には、2025年10月の社内イベント「CA BASE VISION 2025」で掲げた目標がある。

2028年までに、全社の開発プロセスを完全自動化する。同社はプロダクト開発チームのAI成熟度を5段階で置き、2028年には全プロダクトが最低でもLevel 4に到達することを目指す。

Level 4は、要件策定から本番環境への展開までを完全に自動化した状態だ。開発の工程がそこまで自動化されるなら、工程ごとに人を配置する職種の切り方は成立しにくくなる。

計測も始まっている。同社は約1,200名のエンジニアのAI活用レベルを測っており、Level 3「AIオーケストレーター」をAI時代への対応のスタートラインと位置づける。全エンジニアが2027年3月までにLevel 3へ到達することを目標としている。

第1回の「AIランキング」は2026年6月に公開され、44組織が参加した。7月には対象を広げて第2回を実施している。「AI駆動開発 いい学び」講座の受講率は95%に達したという。

自動化の効果としては、GitHub Copilotを導入した2023年4月以降、エンジニアの生産性が約1.5倍になったとしている。

ただし、限界も明示しておきたい。AI活用レベルの計測は自己申告式のアンケートであり、テストではない。同社は数値化よりも振り返りと自覚を優先すると説明しているが、外部から見れば水準を比較できる指標ではない。

AIXデザイナーについても、公表されているのはPhase 1の実施計画までである。対象人数、育成後の配置、成果の測り方は開示されていない。読む側は、これを実績ではなく設計思想の公開として扱うのが妥当だ。

生産性が約1.5倍という数値の測り方も、公表資料では確認できない。開発の工程が変われば、比較する前提そのものが動く。他社が示す倍率をそのまま自社の期待値に置き換えるのは避けたい。

クリエイティブ組織が先に決めるべき3つのこと

1. ツールの導入より、職域の線を書き直す

多くの企業が生成AIの導入を、制作ツールの選定として進めている。だが今回の一連の発表が示すのは、先に動かすべきなのが職種の定義だという判断だ。誰がどこまで責任を持つのかを書き直さないまま、ツールだけを増やしても、受け渡しの工程は残る。

2. 定義とセットで、評価と育成の器を用意する

サイバーエージェントは職種を定義すると同時に、専門組織と評価制度を置いた。新しい役割を求めるなら、その役割で成果を出した人がきちんと評価される経路が要る。呼び名だけを変えて、評価軸が旧来のまま残ると、現場は動かない。

3. 目標値と実績値を混ぜて読まない

2028年の完全自動化も、2027年3月のLevel 3到達も、現時点では目標である。確認できている実績は生産性が約1.5倍という水準と、講座の受講率である。自社の検討材料にするときは、他社が掲げた目標を到達点として扱わず、どこまでが計画かを分けて読みたい。

制作職にとって、この動きは仕事が減る話としてだけ読むべきではない。作る工程が自動化されるほど、何を作るかを決める判断と、出したものを検証する責任が前に出る。企業が次に問われるのは、AIを何本使ったかではなく、職域と評価の設計をどこまで書き直せたかである。

Sources / 参考資料