テレビ番組の編集者が、過去の取材映像から「雨の駅前で話す人」を探す。ファイル名が分からなければ、複数のサーバーやクラウドを順番に開くしかなかった。
AvidとGoogle Cloudは2026年9月11日、新しいMedia Composerを発表した。テレビや映画向けの映像編集を、Google Chromeから使える。映像を一つの倉庫へ移すのではない。別々の場所に残したまま、AIで探し、ブラウザで編集へ進める。映像制作のクラウド化は、まずファイルではなく「探し方」を動かし始めた。
用語メモ
- Avid Media Composer:テレビや映画の現場で使われる映像編集ソフト。本稿では新しいブラウザ版を指す。
- Avid Content Core:社内サーバーや複数のクラウドにある映像を、同じ入口から探して扱うサービス。
- 意味による検索:ファイル名ではなく、映像の内容や会話を文章で説明して探す方法。
- 高解像度での仕上げ:編集用の軽い映像で順番を決めた後、元の高画質素材へつなぎ直す作業。
Avid Media Composerのブラウザ版は、素材を探して編集へ渡せる
編集者はChromeを開き、Content Coreが管理する映像を検索する。探せるのは、誰かが付けたファイル名だけではない。GoogleのAIが取り込み時に会話を書き起こし、映像の内容を文章にする。編集者は見たい行動やせりふを普通の言葉で入力できる。
見つけた素材は、ブラウザ上のMedia Composerへ呼び出す。AIには、会話と映像をそろえる、素材箱を整理する、記録を足すといった準備を頼める。生成AIで補助映像を作ったり、ストック映像を探したりする機能も編集画面に入る。
ただし、AIが作品の良し悪しを決めるわけではない。Avidが2026年4〜6月に自社顧客の編集者120人を調べたところ、79%が仕事でAIを使用していた。もっとも多い用途は、60%が挙げた音声の文字起こしである。87%は、AIの価値を「表現したいことへ早く近づく助け」に置いた。これはAvid利用者への小規模な自社調査であり、編集者全体の傾向とは断定できない。
大容量の映像を移す前に、保管場所と権限をつなぐ
今回の変化は、編集画面がブラウザに入ったことだけではない。Content Coreは、社内サーバーや三つの主要クラウドに対応する。Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azureである。分かれた素材へ、同じ検索入口を置く。Avidは、すべての映像を一つの保管先へ移さなくても、版の履歴や承認を扱えると説明する。
大容量の映像では、この順番が重要だ。先に全ファイルを移せば、転送時間と保管費用がかかる。権利や地域の規則で、別の場所へ動かせない映像もある。AvidのSite Engineは、高画質素材を利用企業のクラウド内に保つ。そのうえで、Content Coreへつなぐ考え方である。
ただし、元の置き場所に残ることと、外部へ送られないことは同じではない。Avidの利用案内は、AI検索などを使う場合の条件を示す。Content Coreへ追加した素材がGoogleへ送られ、AIで処理されることがある。利用は同意を前提とし、望まない場合は該当機能を使わないよう案内している。
一方、発表資料にはブラウザ版Media Composerの料金、対象契約、対応する編集機能の全一覧がない。意味による検索の精度や、誤った説明を直す方法も公表されていない。Content Coreは提供中だが、新しいAI連携の一部は9月11〜14日のIBC2026で初めて実演される。導入判断には、発表された流れと自社で使える範囲を分ける必要がある。
映像制作へAIを入れるための3つの学び
1. 最初に動かすのは、素材ではなく探し方である
複数の倉庫へ同じ検索入口を置ければ、全素材の移転を待たずに編集を始められる。これは映像以外の社内資料にも使える考え方だ。まず「どこへ移すか」ではなく、「誰が、何を、どの言葉で探せないか」を洗い出したい。
2. AIには作品の完成より、準備の時間を渡す
Avidの120人調査では、利用が多かったのは文字起こしだった。素材の整理、記録、検索は正解を人が確かめやすい。映像生成の派手さだけでなく、編集者が探す時間や付け直す記録がどれだけ減ったかを測るべきだ。画像AIで修正場所を伝える方法でも、人が残す部分を決める役割は同じである。
3. 検索できる範囲と、使ってよい範囲を分ける
AIが素材を見つけても、番組や広告に使えるとは限らない。出演者の同意、音楽や映像の権利、公開地域、期限を別に確認する必要がある。制作実績を公開する前の確認項目と同じく、「見つかった」と「使える」の間に承認を置く。導入前には、AIと編集者が見られる素材の権限も試したい。
Sources / 参考資料
Avid「Avid Content Core expands at IBC2026」(2026-09-08)
Avid「Avid Content Core 2026.04.18|The platform launch」(2026-04-18)
Avid「Avid and Google Cloud Announce Partnership」(2026-04-16)
Avid Knowledge Base「Usage Data Sharing In Avid Content Core」(2026-04-20更新)
