制作実績をポートフォリオへ載せてよいかは、自分が作った、すでに世に出たという二点だけでは決まらない。契約で著作権と実績掲載の定めを読み、秘密情報、第三者の素材や人物、自分の担当範囲を確かめる。掲載できる場合も、受注時に作品、媒体、時期、名前、確認方法の五つを書面で決める。どれか一つでも曖昧なら公開せず、発注者へ掲載案を示して同意を得る。

ただし、すべての案件で発注者の許可が法律上必須になるわけでもない。文化庁は、契約に実績紹介の定めがなくても、著作権が制作者に残っていれば、著作権法上は掲載できると説明する。一方、著作権を取引先へ譲渡していれば原則として同意が必要で、著作権が自分にあっても秘密保持義務には注意が要る。

本稿は2026年9月6日時点の日本の法令と公開資料をもとに、受託で文章、デザイン、写真、映像、音楽、Webサイトなどをつくる人の確認順を整理する。一般的な情報であり、個別案件への法的助言ではない。契約文や制作体制によって結論は変わる。

制作実績のポートフォリオ掲載許可は、5項目に分けて確かめる

納品したWebサイトが公開された後、その画面を自分のサイトへ載せる場面を考える。画面は誰でも見られる。しかし、スクリーンショットを保存して掲載する行為は、元の作品をもう一度複製し、インターネットで送信する行為になる。公開済みであることは、再掲載の許可と同じではない。

文化庁の著作権契約マニュアルでは、原稿、イラスト、写真などを実際につくった人が原則として著作者になる。報酬を受け取っただけで、発注者が著作権を得るわけではない。ここで分けたいのは、作品をつくった人である「著作者」と、複製や公開を認められる「著作権者」である。納品ファイルや紙の所有者が誰かとも別の話だ。

原則には例外がある。会社員が職務としてつくった作品は、条件を満たせば法人が著作者になる。映画は制作への関わり方と契約によって著作者と著作権者が分かれる。複数人が一つの表現を共同でつくった場合も、一人だけで作品全体の利用を決められるとは限らない。肩書や作業量だけで決めず、契約と実際の制作方法を合わせて確かめる必要がある。

契約と著作権から見た最初の分かれ道
状態著作権上の目安次にすること
実績掲載を認める定めがある契約で認められた範囲なら掲載できる媒体、時期、内容、クレジット、事前確認の条件を守る
掲載の定めはなく、著作権が自分に残る著作権法上は掲載できる余地がある秘密保持、第三者素材、人物、自分の担当範囲を確かめる
著作権を譲渡した、または独占的な利用を認めた契約上、自分では掲載できない可能性が高い掲載物と条件を示し、契約相手または権利者から書面で同意を得る
契約がない、帰属が曖昧、共同制作や職務著作に当たる可能性がある自分だけでは判断できない公開せず、発注者と関係者へ確認し、必要なら専門家へ相談する

著作者人格権が自分に残ることも、掲載できる根拠にはならない。氏名をどう表示するか、意に反する改変を受けないかを守る権利と、作品を複製して公開する権利は別だからだ。契約に著作者人格権を行使しないとの定めがある場合も、その範囲を確認したい。

文化庁のFAQは、著作権法上の「引用」に当たれば実績紹介できる可能性にも触れている。ただし、公表済みであること、目的上正当な範囲であること、引用部分と自分の説明を明確に分けることなどが問われる。作品そのものを魅力として大きく見せるポートフォリオでは、引用の条件を満たすか判断が難しい。許可を取らずに載せるための抜け道として使うべきではない。

著作権、秘密保持、第三者素材、個人情報、共同制作の5項目を順に確認し、一つでも不明なら掲載前に相手へ確かめる流れ
ポートフォリオ掲載では、著作権だけでなく、秘密保持、第三者素材、個人情報、共同制作を別々に確認する。編集部による概念整理。Diagram: CONTEXT

図は一般的な確認順であり、個別案件の法的結論を示すものではない。それでも順に確かめれば、「著作権は自分にあるから載せられる」と「許可がないから何も見せられない」という両極端を避けられる。次に残るのは、作品そのものとは別の情報と権利である。

公開済みの作品にも、見せ直せない部分が残る

完成した広告やサイトが公開されても、制作途中の資料まで公開されたわけではない。採用されなかった案、編集前の写真、取材の録音、顧客データ、予算、公開前の数値、社内の承認記録は、完成物を見る人には開かれていない。完成物の掲載許可から、これらの公開許可を推測してはいけない。

  • 秘密:成果物、取引関係、制作過程、数値のどこまでが秘密保持の対象か
  • 第三者の素材:写真、イラスト、フォント、音楽、映像、ソースコードなどの利用条件が再掲載を含むか
  • 人と情報:出演者、社員、取材相手、利用者の顔や氏名、個人情報を別の目的で示してよいか
  • 共同制作者:所属会社、代理店、編集者、撮影者、開発者など、作品全体に関わった人の同意や表示が要るか
  • 自分の担当:企画、執筆、撮影、デザイン、実装など、どこまでを自分の成果として説明できるか

発注者が掲載を認めても、発注者自身が第三者の写真や音楽を再許諾できるとは限らない。素材サイトから取得した画像、購入したフォント、出演者の写真、別会社が書いたコードには、それぞれ別の契約や利用条件がある。完成画面を一枚載せるだけでも、画面内に何が含まれるかを見直す。

生成AIを使った素材も、生成した本人だから無条件に再利用できるとは限らない。入力に使った資料、サービスの規約、人が加えた創作、既存作品との近さを分けて記録する必要がある。確認方法は、AI生成画像の著作権と制作記録を扱った記事で詳しく整理している。

秘密保持は、未公開資料だけの話でもない。公開後のサイトを載せられても、「自分がこの会社から直接受注した」という取引関係は秘密のままという契約があり得る。社名を業種名へ変えても、時期、商品、数値、画面を合わせれば相手を特定できる場合がある。匿名化は文字を伏せれば終わりではない。

反対に、発注者名を出せないからといって、自分の仕事がすべて消えるわけではない。許可された範囲で、担当した工程、解いた課題、比較した案、判断した理由を説明できる。ただし、チームの成果を一人の成果のように見せれば、採用側へ誤った情報を渡す。権利確認と同時に、事実として正しいクレジットを残す必要がある。

受注時に、作品・媒体・時期・名前・確認方法を決める

権利の範囲が発注時に書かれない問題は、想像上の注意ではない。公正取引委員会と中小企業庁は2026年6月、広告制作の取り引きに関する集中調査で71件の指導を行った。知的財産権を譲渡・許諾させる旨を、発注時に示していない例があった。依頼内容に含まれない知的財産権を、無償で譲渡させた例も確認された。

この調査は、取適法(旧下請法)が適用される広告業者と中小受託事業者の取り引きが対象だ。すべての個人クリエイターや契約へ、そのまま当てはまる数字ではない。ただ、制作を進めた後で権利の範囲を決める商慣行が、現に行政の指導対象になっていることはわかる。

フリーランス法の対象となる業務委託では、発注者は取引条件を直ちに書面やメールなどで示す必要があり、口頭だけでは足りない。ただし、法律がポートフォリオ掲載の許可を自動で与えるわけではない。次の仕事で実績を使う必要があるなら、その条件を自分から合意へ加える。

文化庁は2025年12月、美術・工芸分野の契約ガイドブックを発行した。同書は実績開示について、開示の時期、作品の一部を使えるか、クレジットを含む開示内容を契約で決めるよう勧める。職種が違っても、合意する対象は次の五つへ具体化できる。

  • 作品:完成物の全体、画面の一部、静止画、動画、文章、制作途中の資料のどれを使えるか
  • 媒体:公開Webサイト、SNS、採用応募用PDF、営業資料、面談中の画面共有のどこで見せるか
  • 時期:発注者の公式公開後か、解禁日があるか、掲載期間や削除時期をどうするか
  • 名前:発注者名、案件名、自分の担当、共同制作者、使用素材をどこまで表示するか
  • 確認方法:掲載前に誰へ何を送り、承認や修正、公開後の変更・削除をどの連絡手段で残すか

たとえば、「発注者が一般公開した後、完成画面三点を自分のWebポートフォリオと応募用PDFへ掲載する。発注者名、自分の担当、共同制作者を表示し、未公開案、素材ファイル、個人情報、非公開の数値は含めない。公開前に掲載案を担当者へ送り、書面で承認を得る」と書けば、単に「実績利用可」とするより判断しやすい。

これは条項の完成例ではなく、話し合う項目を見える形にしたものだ。業種、成果物、既存の基本契約によって適切な文言は変わる。「送付後、返事がなければ承認」と扱いたい場合も、その方法自体を先に合意していなければ、沈黙を同意とみなさないほうがよい。

契約書を一からつくる負担を減らすため、文化庁は著作権契約書作成支援システムを公開している。利用許諾や権利帰属を選びながら、ひな形をつくれる。ただし、出力された文面が自分の案件へそのまま合うとは限らない。実績掲載の五項目を加え、既存の基本契約と矛盾しないかを確認する。

掲載を認められない案件なら、契約前にその意味も判断できる。報酬や知名度だけでなく、次の応募で使える証拠が残るか、代わりに何を示せるかを比較する。実績公開は納品後のおまけではなく、キャリアへ持ち帰る条件の一つである。

過去案件は、許可を取り直し、見せ方を三段階に分ける

すでに終わった案件は、最初から契約をやり直せない。まず、掲載したい順に一覧をつくる。案件名、契約書、著作権の帰属、秘密保持、公式公開日、第三者素材、人物、自分の担当、希望する掲載媒体、承認記録の保管場所を一行ずつ埋める。空欄は許可ではなく、確認が必要という印である。

契約書が見つからなければ、発注メール、注文書、利用規約、チャット、納品時の確認を探す。口頭で「載せていい」と言われた記憶だけで公開せず、現在の担当者へ書面で取り直す。会社の担当者が変わっている場合は、その人に承認権限があるかも確認したい。

  • 掲載したい画像、文章、動画、URLをそのまま確認できる案
  • 公開サイト、SNS、応募用PDFなど、載せる媒体と公開範囲
  • 公開開始日と、必要なら終了日
  • 発注者名、案件名、自分の担当、共同制作者の表示案
  • 未公開情報、個人情報、第三者素材をどう外したか
  • 公開前の最終確認、公開後の修正・削除の連絡先
  • 承認、条件付き承認、掲載不可のいずれかを返信してほしい旨

返信が来なければ、公開しない。依頼文を送った事実と、掲載を認める返事は別である。承認されたら、メールや電子契約を案件一覧からたどれる場所へ保管し、公開した画面と日付も残す。許可に期間や条件がある場合は、見直す日も記録する。

許可の範囲に合わせた三つの見せ方
見せ方使う場面必要な確認
一般公開自分のWebサイトやSNS不特定多数への公開、検索表示、掲載期間まで認められているか
相手を限った提示応募先だけのPDF、パスワード付きページ、面談での画面共有限定共有でも第三者への開示と複製に当たり得るため、その範囲を認められているか
案件を使わない代替個人制作、架空課題、秘密を含まない一般的な手順の説明元案件の表現や非公開情報を持ち出さず、自分で説明できる材料だけか

パスワードをかければ無許可でよい、ということにはならない。閲覧者が少なくても、応募先という第三者へ見せる点は変わらないからだ。一般公開は不可でも採用面談だけなら可、完成画面は不可でも担当内容の文章は可という合意を、発注者から得てはじめて使い分けられる。

掲載不可なら、無理に案件を薄く加工せず、自分で権利を持てる作品をつくるほうが早い場合もある。広報・クリエイター向けスクールと講座の比較では、添削を受けながら記事、バナー、LP、動画などを完成させる選択肢を整理した。架空課題であることを明示し、実在企業の仕事に見せないことも大切だ。

確認前にすでに掲載していたと気づいた場合は、新たな拡散を止め、何を、いつから、どこへ載せたかを記録する。そのうえで契約と権利を確認し、削除要請や損害の主張を受けているなら、一人で法的結論を出さず専門窓口へ相談する。

次の仕事では、作品名と一緒に自分の判断を示す

なぜ、ここまでして実績を残すのか。デザイン会社Goodpatchは、2026年8月5日更新のキャリア採用情報で、デザイナーには一部職種を除いてポートフォリオを求めている。作品だけでなく、取り組んだ背景と意図、課題への向き合い方も見るという。これは一社の採用基準であり、すべての企業を代表するものではない。それでも、完成画面だけでは候補者の判断まで見えないという採用側の課題を具体的に示す。

  • 前提:公開してよい範囲で、誰のどんな課題に取り組んだか
  • 担当:自分が決め、つくり、確かめた部分と、他者が担った部分
  • 判断:比較した案、選んだ理由、制約のなかで変えたこと
  • 結果:確認できる数値や反応を、期間、母数、比較対象とともに示す。確認できなければ成果を推測しない
  • 根拠:掲載許可の範囲、承認日、見直す日を、公開画面とは別に管理する

担当範囲を書くことは、実績を小さく見せる作業ではない。チームのなかで何を任され、どこで判断したかを正確に示す作業である。AIXデザイナーの記事で見たように、制作職の仕事は企画から動くものをつくる工程まで広がっている。職種名だけで伝わらない時代ほど、自分が動かした範囲を説明する価値が増す。

一度得た許可も、永久とは限らない。キャンペーンが終わる、サイトが閉じる、担当会社が変わる、人物が退職する、素材の利用期間が切れる。半年または一年ごとに、リンク切れだけでなく、許可条件と表示内容が現在も合うかを見直したい。

本稿の確認順は、個別契約の有効性や侵害の有無を判定するものではない。文化芸術に関わるクリエイターや事業者は、文化庁の「文化芸術活動に関する法律相談窓口」で弁護士へ相談できる。発注者との契約トラブルを抱えるフリーランスには、厚生労働省委託事業の「フリーランス・トラブル110番」があり、無料・匿名で相談できる。ただし、同窓口は契約書全体の作成や網羅的な確認、代理交渉までは行わない。

今日できることは、載せたい案件を一つ選び、契約、著作権、秘密、第三者、自分の担当という五つの欄を埋めることだ。空欄があれば、作品をアップロードする前に、見せたい現物と条件を添えて確認を送る。強いポートフォリオは、有名な案件を並べた棚ではない。何を見せてよいかを確かめ、自分がした仕事を正確に説明できる記録である。

Sources / 参考資料