凪良ゆうは、大学生に読書を勧める寄稿で、まず「とりあえず困った」と書いた。同じくらいの年齢のころ、自分は学生でも勤め人でもなく、将来の夢もなかったからだ。そこから語ったのは、立派な人生訓ではなく、不安な子ども時代に物語へ逃げ込んだ経験だった。[5]
『流浪の月』『汝、星のごとく』で知られる凪良ゆうを知るとき、この「物語を必要とした読者が、書く人になった」という歩みは大切な入口になる。ただし、作者の人生に心を動かされることと、その小説が自分の好みに合うことは、分けて考えたい。
本記事では、公表された生い立ちとキャリア、本人の創作姿勢、ほかの作家との共通点・違いをたどり、最後に読む一冊を選ぶ。公開インタビュー、本人の寄稿、出版社の作品紹介を照合した作者ガイドであり、紹介する全作品を精読したレビューではない。作品の結末は明かさない。
冒頭の写真は、今治市が2025年8月のエール大使就任発表で配布したもの。右が凪良ゆうだ。今治は『汝、星のごとく』の取材で訪れたゆかりの土地であり、出生地とは異なる。[24]
凪良ゆうはどんな人か。生い立ちと、書く仕事を得るまで
凪良ゆう(なぎら・ゆう)は1973年、滋賀県生まれの小説家で、京都市在住。男性同士の恋愛を描くBL小説でキャリアを重ね、一般文芸へも執筆の場を広げてきた。『流浪の月』で2020年、『汝、星のごとく』で2023年の本屋大賞を受賞している。[1][3][6]
家族の経験を語る。ただし、小説の人物と本人は同一ではない
2023年のBusiness Insider Japanのインタビューで、凪良は小学5年生のときに母が家を出て、その後は親と離れて児童養護施設で暮らしたと語っている。別の記事では、10代から自活してきたこと、生活を一人で支えるのは想像以上に大変だったことも説明した。ここでの生い立ちは、本人が公に語った回想に基づく。[1][2]
こうした経験は、家族やケアを書くこととどう関わるのか。『汝、星のごとく』で描く若者の負担について、凪良は外から見つけた問題というより、自分にとって身近なものだったと説明する。また『わたしの美しい庭』のインタビューでも、早くから親と離れて暮らした経験が、家族の描き方に多少は影響しているのかもしれないと語っている。[1][12]
本人が示しているのは、経験と創作のつながりだ。「つらい生い立ちだから優しい小説を書く」「登場人物はすべて本人の分身だ」とまで説明しているわけではない。作品には創作上の構成があり、編集者とのやり取りがあり、そのときどきの関心もある。人生を知ったあとにも、人物の行動は作品の中で確かめる必要がある。

最初の夢は漫画家。書き始めたのは、物語への熱が戻ったから
公募ガイド社のインタビューでは、中学生のころに漫画誌『マーガレット』へ投稿したこと、編集者の厳しい講評を受けて心が折れたことが語られている。その後、大人になって、かつて好きだった田中芳樹の『銀河英雄伝説』に関する記事をネットで見た。創作への気持ちが戻ったものの、漫画には長いブランクがあり、文章で書き始めたという。[3]
小説家への道は、最初から文学賞を目指して設計されたものではなかった。書くことが楽しくなり、時間を使い続けたいと思ったことから、プロを目指すようになった。子どものころに読む楽しさを知った人が、今度は物語をつくる楽しさに引かれた、という順序である。[3][5]
「専業主婦から作家に」という一言では、キャリアが見えなくなる
凪良は、29歳で結婚し、生活と時間に余地ができたことが作家になる足がかりになったと、2026年のSTORYのインタビューで振り返っている。一方で、専業主婦だったのは人生の数年間であり、その前には10代から自活していた。本人も、専業主婦からデビューしたという紹介だけには違和感があると語る。[2][4]
凪良は同じインタビューで、40歳で離婚し、その後は自分の生活基盤を固めるために働いたと説明している。好きな仕事ができる喜びと、一人で食べていくための不安が、書く仕事の背景にあった。[4]
経済的自立は、作品にも繰り返し出てくる関心だ。ただし凪良は、立派な仕事や大きな収入を全員に求めているのではなく、意に沿わない関係から離れたいときに、自分の稼ぎが選択を支えると説明している。作者の経歴は、この関心を理解する材料になるが、読者自身に同じ生き方を求めるものではない。[2]
BLから一般文芸へ。キャリアと作風の、変わった部分と続く部分
凪良ゆうは、一般文芸で突然現れた作家ではない。先にBL小説で長く書き、人物の心理と物語の構造を磨いてきた。そのうえで、恋愛の結末に収まりきらない人生や、社会との摩擦へも執筆の範囲を広げた。[1][8]
デビュー年が2006年と2007年で違う理由
2006年には、中編「恋するエゴイスト」が『小説花丸』冬の号に掲載された。2007年には初著書『花嫁はマリッジブルー』を刊行している。雑誌掲載を起点とするプロフィールと、最初の本を起点とするプロフィールがあるため、二つの年が使われる。[5][6]
| 時期 | 主な出来事 | 読者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 2006〜2007年 | 雑誌掲載、初著書刊行 | BL小説からキャリアが始まる |
| 2014年 | 『美しい彼』刊行 | 一組の関係を追うシリーズの入口ができる |
| 2017年 | 『神さまのビオトープ』刊行 | 一般文芸へ執筆の場が広がる |
| 2019〜2020年 | 『流浪の月』『わたしの美しい庭』刊行、『流浪の月』が本屋大賞受賞 | 名前をつけにくい関係や暮らしが広く読まれる |
| 2022〜2023年 | 『汝、星のごとく』刊行・本屋大賞受賞、続編『星を編む』刊行 | 恋愛の時間と、その周囲の人生を読む入口が広がる |
| 2024〜2026年 | 作者ガイド『ニューワールド』、新装版の復刊、新作『多類婚姻譚』 | 創作の来歴、過去作、今の関心を別々に追える |
刊行年と受賞年は別である。『流浪の月』は2019年刊行・2020年受賞、『汝、星のごとく』は2022年刊行・2023年受賞。年表は主な転機を選んだもので、全著作の書誌一覧ではない。[6][7][14][16][23]
BLで学んだのは、人物の気持ちと展開をつなぐ技術
凪良は、自分のデビュー当時に経験したBL小説の編集上の約束として、明確なハッピーエンドや性描写が求められたことを語る。その中で、展開から逆算して心理を組み立てる方法を学んだという。一方、人物の気持ちに合わない展開を先に置くことには、違和感もあった。[3][8]
この経験は、いまのBL小説すべてに同じ約束があることを意味しない。また、凪良のBL作品に性描写がないという意味でもない。大切なのは、出来事だけを並べず、人物がそこへ至る気持ちをどこまで描くか、という制作の姿勢だ。
一般文芸へ進んだことも、BLを卒業したという説明にはならない。『美しい彼』のシリーズは続き、入手しにくかった初期BL作品を新装版で届ける企画もある。書く題材の広がりと、以前からの読者への作品提供が、並行している。[8][16]

人物の「そうする理由」を積み重ねる
たとえば『汝、星のごとく』では、恋人二人の視点を交互に置く。凪良は、すれ違いを単純な男女差ではなく、仕事への向き合い方や、会う時間に求めるものの違いとして説明している。人物を性別や立場だけで分けず、その人固有の事情へ近づくための方法である。[29]
『流浪の月』については、出来事が事件として報道されると、当事者間の細かな事情が失われ、被害者と加害者というラベルへ変わってしまうことを、作者が語っている。読者に求められるのは、出来事を忘れて何でも許すことではなく、その分類だけで人を理解したつもりにならないことだ、と読める。[11]
『わたしの美しい庭』では、血縁のない人たちが日々をともにし、屋上の縁切り神社に、事情を抱える人が訪れる。「つながる」だけでなく、つらい関係を断つことも、生き方の選択になる。作者自身も、絆がつらいなら無理をしなくてよい、という趣旨を語っている。[12][13]
インタビューから見えるのは、迷いながら構成を直す書き手
人物としての凪良ゆうを「優しい人」「繊細な人」と一語で決めるより、制作の具体を見るほうが確かだ。公募ガイド社のインタビューでは、プロットを通したあとでも初稿が使えず、書き直しを求められた経験を語っている。町田そのことの対談では、『汝、星のごとく』のプロットが5万字に及び、筋道を立てておかないと不安だったとも説明した。[3][10]
また2024年のインタビューでは、人物に近づくために香りや音楽のプレイリストで環境を整えると語っている。一般文芸に進んでから執筆以外の仕事が増え、かつてのような刊行ペースを保てない不安もあったという。これらは、その時点の本人の説明であり、毎日の生活や性格を外から診断したものではない。[8]
作品のテーマが繰り返されることについても、凪良自身は悩んだことがある。担当編集者に、それが作家のテーマと作家性だと言われたと振り返る。題材が変わっても、自分の人生をどう選ぶかへ戻ってくる。その一貫性を読みたいなら、作者を続けて追う理由になる。[1]
どの作家と似ていて、どこが違うか。五人との比較で入口を探す
似た作家を知ることは、好みを移すための手がかりになる。ただし、「この人が好きなら必ず合う」という保証ではない。ここでは、本人が影響を語った作家、本人が比較した作家、編集部が作品紹介から比べる作家を分ける。
| 比べる作家 | 共通する入口 | 違いを確かめる焦点 |
|---|---|---|
| 山本文緒 | 恋愛と仕事・家族の負担が同時にある人生 | 日常の選択から入りたいか、関係への社会のまなざしから入りたいか |
| 江國香織 | 恋愛や結婚が一般的な枠に収まらない | 関係の形に関心があるか、そこから暮らしや仕事まで追いたいか |
| 町田そのこ | 家族や孤立を抱える人物、読みやすい文章の呼吸 | 相手を信じることと、信じきれなさを残すことの違い |
| 朝井リョウ | 「普通」や多様性を考え直す問い | 自分の理解の限界を揺さぶられたいか、一人の人生を長くたどりたいか |
| 青山美智子 | 居場所や他者との出会いが、暮らしを変える | 次の一歩へ進むきっかけを読みたいか、関係から離れる選択も読みたいか |
この表は、作品単位の読書案内であり、五人の全著作を分類するものではない。とくに朝井・青山との違いは編集部の整理であって、凪良が両者との違いを語ったという意味ではない。[9][10][19][20][21][22]
山本文緒と江國香織。恋愛を、人生そのものとして読む
凪良は、20代に山本文緒、江國香織、山田詠美、林真理子らの小説を読み、深く心を動かされたと語っている。山本文緒と江國香織は、読者の好みの類似だけでなく、本人の読書の来歴にも入っている。[9]
山本文緒の『自転しながら公転する』では、母の看病のために実家へ戻った32歳の都が、仕事と恋愛と家族の世話に迷う。恋愛だけを切り離して考えられない点は、『汝、星のごとく』への自然な入口になる。ただし、都の生活の選択と、暁海・櫂の二人の時間は同じ物語ではない。仕事やケアの具体が気になる人は、この二冊を並べて問いの違いを確かめられる。[6][19]
江國香織の『きらきらひかる』は、一般的な夫婦像と異なる関係を描く作品として、出版社が紹介している。結婚という名前と、実際の関係が一致しないことへの関心は、凪良作品の入口にもなる。一方、経済力、家族への責任、職場といった生活の条件まで読みたいなら、『汝、星のごとく』や『多類婚姻譚』で、どの問題に自分が引かれるかを確かめるとよい。[6][14][20]
町田そのこ。似た文章の呼吸でも、信頼への姿勢が違う
凪良と町田の対談では、互いの文章が自然に入ってくることを二人が語っている。凪良は文章のリズムが似ていて読みやすいと話し、町田は、同じ景色でも凪良は自分と違う場所に美しさを見つけると評した。これは、実際に相手の作品を読む二人の発言である。[10]
一方、2024年のインタビューで凪良は、自分と町田の違いを、人をどこまで信じるかという姿勢に見いだしている。凪良は信じきれない部分を残しながら関係のために努力するほうで、町田は相手を信じる、と説明する。これは凪良から見た比較であり、町田の小説に疑いや痛みがないという意味ではない。[9]
相手を信じることで関係が開く物語に引かれるのか、わかり合えない部分を残して一緒にいる物語に引かれるのか。同じ家族や孤立を扱う作家でも、この期待の差が読書の相性を分けうる。
朝井リョウ。「多様性を尊重する」で話を終えたくない読者へ
朝井リョウの『正欲』は、想像できる範囲の多様性だけを尊重することへの問いを、公式紹介の中心に置いている。凪良も『多類婚姻譚』のインタビューで、多様性の尊重を大切にしながら、その言葉が人を攻撃する武器になる場合にも目を向けている。既に知っている正しさへ人物を回収しない点に、比較の入口がある。[15][21]
ただし、似た題材だから同じ読み心地になるわけではない。どちらも人物の人生を描くが、『正欲』の紹介からは、読者の理解の範囲そのものを問う入口が見える。『汝、星のごとく』では、二人の恋愛と、仕事や家族に向き合う時間が入口になる。問いから入りたいか、ある人物の生活から入りたいか、という違いとして比べられる。これは両者の作家全体の優劣や、痛みの強さの順位ではない。[6][21]
青山美智子。あたたかい物語を探す人ほど、何が救いなのかを分ける
青山美智子の『お探し物は図書室まで』では、仕事や暮らしに迷う人が、司書の選書をきっかけに自分を見つめ直す。凪良の『わたしの美しい庭』でも、日々の居場所と、他者との出会いが重要になる。誰かの助けによって暮らしの見え方が変わるという入口は近い。[13][22]
一方、『わたしの美しい庭』には、関係をつなぐだけでなく、負担になる縁から離れるという問いがある。あたたかさを「人とつながれば解決すること」と捉えると、この違いを見落とす。次へ進むきっかけが欲しいのか、離れてもよいと考える余地が欲しいのか。二冊を選ぶときには、その期待を分けると判断しやすい。[12][13]

凪良ゆうが合う人、いまは選ばなくてもよい人。三つの判断軸
相性は、読者の性格や人生経験から決めるものではない。人物に何を求めるか、どんな読後感が欲しいか、いま何を読みたくないかを分けて考える。次の判断軸は、作者の説明と作品紹介をもとにした編集部の案内であり、読者調査の結果ではない。
人物に賛成できなくても、その理由を読みたいか
凪良作品への入口が多いのは、「自分なら選ばない」と思う行動についても、なぜその人がそうするかを知りたい読者だろう。恋愛、家族、社会のラベルが、当人の経験と食い違うことがあるからだ。[6][11][12]
反対に、人物の行動に一貫して賛成できることや、善悪の判断がはっきり示されることを読書に求めるなら、違和感が残る場合がある。ただ、それは読み方の失敗ではない。不倫、家族の負担、執着などをどう受け止めるかで、登場人物への評価が分かれる余地がある。
理解しようとすることは、肯定することと同じではない。関係を救いとして読む一方で、周囲の人への影響は十分に扱われているか、と問う読みも成り立つ。「この選択は自分には受け入れにくい」と考えながら読めるかどうかが、一つの分かれ目になる。
心理の積み重ねを味わいたいか、出来事が早く進んでほしいか
凪良は、自分の心理描写について、丹念に積み重ねながら、一つひとつが重くなりすぎないようにしていると説明する。同じ文章を、心理描写がしつこいと感じる人も、淡々としていると感じる人もいるという。[9]
したがって、「文章が美しいから誰にでも読みやすい」と保証することはできない。人物が迷っている時間そのものを読みたい人には、この密度が価値になる。事件の解決や展開の速さを優先する人には、立ち止まる時間が長く感じられるかもしれない。
ただし、凪良の小説に謎や大きな出来事がないわけではない。『すみれ荘ファミリア』には、下宿に現れる人物の正体や、周囲の秘密が関わる。『滅びの前のシャングリラ』には、世界の終わりという大きな設定がある。一冊で作者全体の速度や作風を決めないほうがよい。[17][18]
救いが欲しいのか、痛みまで考えたいのか
『わたしの美しい庭』のような居場所をめぐる作品と、『滅びの前のシャングリラ』のような終末を描く作品では、触れる出来事が違う。『美しい彼』も、クラスでの立場の差や、相手への強い執着を含む。二度の本屋大賞受賞という共通のラベルだけで、同じ安心感を期待しないほうがよい。[7][13][17]
家族の負担、差別、いじめ、犯罪や暴力などの題材を、いまは読みたくないという判断もある。これは作品への評価とは別の選択だ。出版元のあらすじや公式試し読みで、題材と文章の密度を確かめてから選べる。
読むときに確かめたいのは、「苦しかったか」だけではなく、その苦しさが自分の考えを深めるものだったか、それとも今回の読書で求めていたものと違ったかである。後者なら、別の作品へ移っても、いまは作者を追わなくてもよい。
どの作品から読むか。最初の一冊と、追い続けるための道案内
発表順に全部読む必要はない。最初は、いま考えたい問いに近い一冊を選ぶ。以下は公式紹介と作者の発言から整理した入口であり、読後感を保証する推薦順位ではない。
| 作品 | 入口になる関心 | 先に知っておきたい条件 |
|---|---|---|
| 『わたしの美しい庭』 | 家族の形、日々の居場所、つらい縁から離れること | 血縁のない暮らしや生きづらさを扱う。単に明るい話だけではない [13] |
| 『流浪の月』 | 世間のラベルと当事者の経験の食い違い | 少女と成人男性に関わる出来事と、その後の社会のまなざしを扱う [11] |
| 『汝、星のごとく』 | 愛情と仕事、家族への責任が両立しないとき | 若い二人の長い時間をたどる恋愛・人生の物語 [6] |
| 『美しい彼』 | 一組の関係をシリーズで追うこと、強い恋とすれ違い | 男性同士の恋愛。学校内の立場の差や執着を含む [7] |
| 『すみれ荘ファミリア』 | 家族と秘密、人物の印象が変わること | 下宿の住人たちの秘密が関わる。現在の講談社版はその後の話も収録 [18] |
| 『滅びの前のシャングリラ』 | 世界の終わりに、何を選んで生きるか | 終末と犯罪・暴力を含む。静かな恋愛小説のつもりで選ばない [17] |
| 『多類婚姻譚』 | 現代の結婚、価値観や経済条件の食い違い | 五編の連作短編集。2026年5月刊行の文芸新作 [14][15] |
迷うなら、居場所について読みたいときは『わたしの美しい庭』、恋愛と生活をじっくり考えたいときは『汝、星のごとく』、相手への気持ちと関係の変化をシリーズで追いたいときは『美しい彼』が、候補になる。まず一冊の題材と文章に触れ、合わなかった理由を分けてから次を選ぶ。
『汝、星のごとく』が気になったら、そのあとに『星を編む』
『星を編む』は、『汝、星のごとく』の周囲の人物や、その後を描く三つの中編からなる。北原の過去、櫂を支える編集者たち、暁海と北原のその後という構成なので、初読の入口として単独で選ぶより、本編を読んでから進むほうが関係を追いやすい。[27]

本編を読んだあとに、恋人二人の話の外で何が続いていたかを知りたくなるなら、続編を読む理由がある。一方、作者の別の題材を知りたいなら、続編より先に『わたしの美しい庭』や『滅びの前のシャングリラ』へ進んでもよい。
『汝、星のごとく』の結末やタイトルを詳しく考えたい場合は、CONTEXTの考察記事で扱っている。こちらは原作の結末を含むため、本編を読む前には注意してほしい。
作品だけでなく、作者を追いたくなったら『ニューワールド』
『ニューワールド 凪良ゆうの世界』は2024年刊行の作者ガイドで、作家や漫画家、音楽家との対談、全作品を振り返るインタビュー、担当編集者の座談会などを収める。人物への興味が湧いた読者が、作品の外へ進むための一冊になる。[23]
凪良が敬愛する山本文緒との対談や、町田そのことのやり取りから創作を知りたいなら、こうした本を読む意味がある。ただし2024年刊行の本なので、2026年の新作まで含む現時点の全著作ガイドではない。作者の来歴を知る資料と、最新の作品情報は分けて追う。[14][23]
新作・続編・新装版を分けると、追う負担を減らせる
2026年10月13日時点では、同年5月27日発売の『多類婚姻譚』が、最近の文芸の関心を知る作品になる。作者は、自分らしく生きることと誰かとともに生きることの食い違いを描きたかったと説明している。結婚へ至る物語を期待するだけでなく、それを選ぶ前に立ち止まる人の問題を読む入口だ。[14][15]
一方、9月29日発売の『恋愛犯』は、キャラ文庫「凪良ゆう作品集」の新装版第5弾であり、初めて発表された新作ではない。初期BL作品の復刊企画では、過去の本を持っている読者も、収録内容や追加の番外編を確認してから購入を判断できる。たとえば新装版『未完成』では、単行本未収録だった番外編二本の追加が出版社から告知されている。[16][26]
情報を追うときは、刊行日だけでなく「新作か」「続編か」「新装版・文庫化か」を、出版社の書籍ページで見る。『美しい彼』を読むなら徳間書店Charaの作品情報、文芸の新作なら担当出版社の公式情報、作者の考えを知るならインタビューや対談、という分け方ができる。話題になった本をすべて買わなくても、読みたい変化だけを追える。
凪良ゆうを読むかどうかは、経歴への共感や受賞歴だけでは決まらない。自分と違う選択をする人物の事情を知りたいのか。答えの出ない関係を考える時間が欲しいのか。その二つに引かれるなら、いまの自分に近い題材を一冊選び、文章の密度が合うかを確かめるところから始められる。
調査と比較の範囲
本人の公開インタビュー・寄稿、出版社の書誌と公式紹介を中心に制作した。独自取材や、紹介作・比較作家の全著作の精読は行っていない。本人の回想と創作意図、第三者からの評価、編集部の相性判断を区別している。非公表の本名、学校名、家族や交際の情報は推測していない。比較と読む候補は特定作品を入口にした案内であり、作者全体の格付けではない。資料の確認基準日は2026年10月13日。
Sources / 参考資料
2. Business Insider Japan:「20代は死ぬほど悩んだ」。凪良ゆうに聞く“自分を生きる”ための方法
3. Koubo / 公募ガイド社:W選考委員版「小説でもどうぞ」凪良ゆうインタビュー(2023年夏号特集の別版)
4. STORY / 光文社:作家・凪良ゆうさん「今の世の中、「結婚」にこだわる必要ありますか――?」
5. 全国大学生活協同組合連合会 / 読書のいずみ:著者からのメッセージ「物語という巣穴に籠もる」凪良ゆう
6. 講談社 / PR TIMES:講談社の凪良ゆう『汝、星のごとく』が2023年本屋大賞を受賞
7. 徳間書店 Chara:美しい彼(小説)書籍情報
8. Real Sound Book / 立花もも(PR記事内の作者インタビュー):凪良ゆう「多様性のなかにはちゃんと“普通”も含まれる」作家生活17年を振り返って(前編)
9. Real Sound Book / 立花もも(PR記事内の作者インタビュー):凪良ゆう「多様性のなかにはちゃんと“普通”も含まれる」作家生活17年を振り返って(後編)
10. 講談社 tree / 小説現代:『汝、星のごとく』刊行記念対談! 凪良ゆう×町田そのこ(後編)
11. 文藝春秋 本の話:凪良ゆうインタビュー:「好きに書いていいよ」が生んだ『流浪の月』
12. 文藝春秋 本の話:凪良ゆうインタビュー:“なじめない”人々の共同体『わたしの美しい庭』
13. ポプラ社:わたしの美しい庭(ポプラ文庫)作品紹介
14. 講談社:多類婚姻譚 書誌・収録作品・作者コメント
15. 講談社 / 担当編集者による作者インタビュー:一緒に生きる。わかりあえないあなたと。凪良ゆうが描く多様性時代の婚姻
16. 徳間書店 / PR TIMES:初期BL作品20作超を新装版として復刊。「凪良ゆう作品集」第1弾『未完成』
17. 中央公論新社:滅びの前のシャングリラ 特設ページ
18. 講談社:すみれ荘ファミリア(講談社版)書籍情報
19. 新潮社 / 山本文緒:自転しながら公転する(新潮文庫)作品紹介
20. 新潮社 / 江國香織:きらきらひかる 作品紹介
21. 新潮社:朝井リョウ『正欲』作家生活10周年記念作品 特設サイト
22. ポプラ社 / 青山美智子:お探し物は図書室まで 作品紹介
23. 中央公論新社:ニューワールド 凪良ゆうの世界(電子書籍)内容・目次
24. 今治市 / PR TIMES:凪良ゆうさんが今治エール大使「IMABALINA Ambassador」に就任
25. ポプラ社 / PR TIMES:『わたしの美しい庭』の全面帯が完成、春の装いで再展開
26. 徳間書店 Chara:恋愛犯(凪良ゆう作品集 新装版第5弾)書籍情報
27. 講談社 / 小説現代編集チーム 伊藤蓮矢:『汝、星のごとく』で語りきれなかった3編の「愛の物語」
28. 今治市 / PR TIMES:本屋大賞受賞作を星のごとく彩った「おんまく」花火(2024年の発表)
29. 講談社 tree / 吉田大助:『汝、星のごとく』/凪良ゆう 制作秘話インタビュー
