ハローキティは、浴衣も着るし、スイカにもなる。日本マクドナルドが2025年7月に展開したハッピーセットには、夏をテーマにしたおもちゃ6種類と、キティを使ったスイカゲームが登場した。特定の映画の続編や、原作の一場面を商品化した企画ではない。[1]
サンリオの強さは、こうした「物語に縛られない自由」にあるのだろうか。確かに、筋書きを知らずに好きになれ、別の企業の商品にも入っていけることは強みになる。ただし、サンリオに物語がないわけではない。重要なのは、キャラクターらしさと、特定の筋書きへの依存を分けて考えることだ。
商品化と広告の具体例、サンリオの決算、同社が物語へ投資する動きを照合すると、「物語を作るほどIP(キャラクターなどの知的財産)が強くなる」とも、「物語を減らせば儲かる」とも言い切れない理由が見えてくる。
冒頭画像は、エンスカイが発表したトランプとカードスタンドの公式素材。画像の配布元はエンスカイの公式発表を参照。
- 入口:原作を読まずに、見た目や気分から好きになれる。
- 展開:守る個性を残し、衣装・用途・共演相手を変えられる。
- 収益:余白だけでは生まれず、認知、商品、流通、営業、監修が要る。
- 物語:使い方の条件を増やす一方、好きになる理由と見続ける動機を作る。
「設定がある」と「筋書きを知る必要がある」は違う
ハローキティには、名前も家族も好きな食べ物もある。公式プロフィールでは、本名はキティ・ホワイト、生まれた場所はロンドン郊外、双子の妹はミミィ。身長はりんご5個分で、ママのアップルパイが好きだと紹介されている。「設定のない記号」ではない。[2]
それでも、りんごの個数や家族の名前を覚えなければ、キティの小物を選べないわけではない。ある事件の前か後かを知らなくても、夏の浴衣姿を楽しめる。この入口では、キャラクターへの接触が、物語を順番に理解することから独立している。
ここでいう物語は、人物の行動と出来事がつながり、時間とともに関係が変化していく筋書きを指す。性格や世界観、企業の理念、持ち主の思い出まで含めて「物語」と呼ぶと、何が自由度を制限するのかが曖昧になる。キティの設定の豊かさと、商品を楽しむために必要な予備知識の少なさは両立する。
その違いは、エンスカイが2026年2月に発表した「ぴくキャラトランプ」にも表れている。キャラクターの輪郭を生かした札に、複数のデザインを載せる商品だ。公表された商品写真では、マイメロディが、お菓子や花と組み合わされている。札を一枚選び、眺める行動に、長いあらすじの説明は要らない。[3]

ただし、「予備知識なしで楽しめる」は、原作のあるIPにも当てはまる。作品を見ずにキャラクターグッズを買う人もいるからだ。分かれ目は、サンリオか他社かという会社単位ではない。その企画が、原作の出来事をどれだけ前提にするかである。
物語は、広告の制約と企画の材料を同時に生む
広告でIPを使うとき、筋書きへの依存が小さいほど、原作の一場面を再現する以外の企画を考えやすい。キティが浴衣を着る、おにぎりを作る道具になる、という発想は、夏の生活や商品機能から組み立てられる。ただし、これは公開された企画から読める構造であり、制作日数や起用の成約率を比較した結果ではない。
逆に、物語があるからこそ成立する広告もある。同じマクドナルドは2025年4月、「チキンタツタ」と『名探偵コナン』のコラボで、オリジナルの描き下ろしアニメーションCMを発表した。伝説の秘宝として商品を扱う30秒篇と、コナンらが夕方5時からのごはんタツタを求めて店へ向かう15秒篇だ。謎に迫る人物や作品の語り口が、商品の登場と販売時間を伝える仕掛けになっている。[5]
キティの夏のおもちゃが、受け手の日常へキャラクターを連れてくるとすれば、コナンのCMは、商品の情報を作品らしい出来事へ変えている。前者では用途や季節を動かす余地が大きく、後者では登場人物の役割や関係を生かせる。対象商品と企画形式が違うため、どちらの方が売れたか、安く作れたかを比べる資料にはならない。
| 企画 | 起点 | 生かせるもの | 確認すること |
|---|---|---|---|
| キティの夏のおもちゃ | 季節と生活の遊び | 衣装や用途の変化 | 見た目や個性を保てるか |
| コナンのチキンタツタCM | 登場人物と作品らしい出来事 | 謎解きの語り口や共演 | 役割や関係と広告の行動が合うか |
物語で人物の価値観や関係が具体化すると、新しい広告で取らせる行動が、その人物らしいかを問う必要が生じる。結末の後の姿か、敵同士をどんな理由で同席させるか。こうした点は企画時の確認事項になり得る。一方、その条件を守ることで、ファンが細部を読み取れる広告にもなる。制約は、作品の魅力が蓄積した裏側でもある。
サンリオ側の自由にも、守る対象がある。2022年の公式インタビューで、当時キャラクターのクリエイション全般を担当していた山田周平氏は、ライセンス先に渡す基本デザインの制作と、先方が作ったデザインの監修を説明している。守る核はキャラクターの世界観で、ルールの背景を考える姿勢だという。自由度は放任ではなく、変えてよい部分を判断する仕事によって支えられている。[4]
ロイヤリティ964億円は、「余白」だけでは説明できない
サンリオのIPが収益を生んでいることは決算から確かめられる。2026年3月期通期の連結売上高は1,940億8,800万円で、その内数のロイヤリティ売上高は964億2,400万円。前期の707億3,800万円から36.3%増えた。連結売上高に占める割合は約49.7%になる。[6]

ここで「広告を取りやすい」と「IP収益を得やすい」を一つにしない方がよい。広告への出演・使用と、他社の商品へ絵柄などを使う許諾は、利用の場面が異なる。決算のロイヤリティ売上高は、キティが企業広告に起用された分だけを集計した値ではない。964億円を広告収入と読んだり、キャラクター商品の店頭売上高と読んだりすると、事業の大きさを取り違える。
権利元が使用を許諾し、取引先が商品を製造・販売する形なら、自社だけで商品を作り、売り場を増やす形とは異なる広がり方ができる。しかし、使いたいと思われる認知や魅力、相手の顧客に合う絵柄、商品品質を保つ監修、販売する企業との関係がなければ、使用料を受け取る契約にはつながらない。余白は選べる用途を増やしても、需要そのものの代わりにはならない。
同じ決算資料でサンリオは、国内ライセンスの伸びについて、有力なライセンシーとの商品供給、アパレルや飲食への拡大、複数キャラクターの起用、取引先による販促を挙げる。一方、米州では関税の影響で一部のライセンシーに生産・出荷の遅延や停止が生じ、伸びが鈍化したとも説明している。いずれも会社側の分析だが、収益がキャラクターの設計だけで決まらないことは読み取れる。[6]
営業の現場も、単純な使用許諾では終わらない。広告宣伝企画を担当する井上慶祐氏は、公式の採用インタビューで、テーマパーク、SNS、商品化を組み合わせる仕事を説明する。2024年の甲子園球場100周年とキティ50周年の企画では、契約や実施条件に加え、制作、運営、法務などの部門調整が必要だったという。筋書きに依存しない企画でも、取引と実行の手間が消えるわけではない。[11]
サンリオ自身が、物語を増やしている
「サンリオは物語を持たないIPの会社」という分け方には、サンリオ自身の活動から反例が出てくる。クロミはその一つだ。サンリオタイムズの2022年の説明では、2005年のテレビアニメ『おねがいマイメロディ』の中で生まれたキャラクターである。商品から始まる入口と、物語から生まれる入口は、同社の中に共存している。[4]
2025年7月24日には、マイメロディとクロミを主人公にしたNetflixシリーズ『My Melody & Kuromi』が配信開始となった。Netflixの公式発表によれば全12話、各話約13分。ケーキ屋を営むマイメロディと、その向かいで和菓子屋を営むクロミの関係から、冒険へ進む作品だ。ここでは、キャラクターを一目見るだけの接触に、一定の時間を過ごして関係を知る入口が加わる。[7]
サンリオは2024年公表の中期経営計画でも、ストーリー型IPの創出を成長施策に含めた。そこで挙げられる『フラガリアメモリーズ』は、ハローキティたちを主とする騎士の物語を、音楽などと組み合わせるプロジェクトだ。これは発表された方針と企画の確認であり、その投資がどれだけ利益へ結びついたかの検証ではない。[8][9]
物語を加える価値は、なぜその人物を好きなのかを、行動や関係の積み重ねで説明できることにある。続きを待つ、好きな場面を話す、同じ場面を知る人とつながる。こうした接触を設計できる半面、人物が何をし、誰とどう関わったかという具体的な約束も増える。映像やゲームを作り続ける投資も必要になる。
したがって、商品や広告で入りやすくすることと、物語で関わりを深めることは、異なる役割として設計できる。キティのグッズを買う全員に作品の視聴を求める必要はなく、作品を好きになった人がグッズへ進んでもよい。物語の有無を二択にするより、どの入口で、どれだけの理解を求めるかを見る方が、サンリオの展開を捉えやすい。
IPづくりで決めたいのは、何を固定し、何を開くか
サンリオから企業のキャラクターづくりへ持ち帰れるのは、設定を少なくすればよいという教訓ではない。まず「このキャラクターだと分かる理由」を残し、そのうえで起用先が変えられる場所を決めることだ。エンスカイのカードスタンドのように、飾る楽しみとカードを支える機能が重なる商品では、持ち主の行動の中で新しい役割が生まれる。[3]

ただし、余地を残すことと、協業の制作を省くことも違う。2018年の「リサとガスパール」とキティのコラボでは、キティのデザイナー山口裕子氏が3度フランスを訪れ、原作者夫妻と油絵7作品を共同制作した。うち2作品が当りくじの景品に使われた。自由な組み合わせも、原作者とデザイナーが新しい絵を作る工程を経て、商品へつながった。[10]
自社IPを企画するなら、起用候補の三つの商品やサービスを並べてみるとよい。それぞれで、衣装、持ち物、共演相手、話し方をどこまで変えたいかを書く。次に、その変更で失われてはいけない性格や関係を一つずつ挙げる。どの商品でも同じ長い設定説明が必要なら、接触の入口が重すぎる可能性がある。逆に、何を変えても構わないなら、記憶される核がまだ弱い可能性がある。これは効果を実証済みの手法ではなく、本記事の比較から導く企画時の確認方法だ。
| 判断すること | 確かめる問い |
|---|---|
| 最初の接触 | あらすじを知らなくても選ぶ理由があるか |
| 起用の自由 | 衣装や用途を変えても、そのキャラクターらしさが残るか |
| 物語への投資 | 見続けたい行動や関係を描けるか |
| 事業の継続 | 監修、供給、販売、次の接触を誰が担うか |
この検討を深めるなら、CONTEXTのブランドストーリーとブランドナラティブの違いが、語り手の決めた話と受け手が参加する余地の整理になる。また、映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』の分析は、かわいい見た目の奥にある物語が、受け止め方を変える例として読める。
物語は、自由を絞る。その具体性が、好きになる理由にもなる。サンリオの事例から考えたいのは、物語を捨てるか増やすかではなく、知らなくても近づける入口と、知るほど深まる関係をどう両立させるかだ。企業の広告も商品も、キャラクター自身も生きる余地は、その配分にある。
Sources / 参考資料
2. サンリオ:ハローキティ:プロフィール
3. エンスカイ / PR TIMES:サンリオキャラクターズのトランプとカードスタンドの受注開始
4. サンリオタイムズ:なが〜く愛されるキャラクターを支えるクリエイティブの秘密!
5. 日本マクドナルド:チキンタツタ×名探偵コナン、2025年4月16日から期間限定販売
6. サンリオ / 適時開示資料:2026年3月期 通期 決算説明資料(2026年6月23日)、pp.8、12、14
7. Netflix:My Melody & Kuromi:予告編・キーアート、配信日発表
8. サンリオ:中期経営計画(2024年5月14日)、pp.15、29
9. サンリオ:フラガリアメモリーズ:INTRODUCTION
10. サンリオ、ソニー・クリエイティブプロダクツ:リサとガスパールとハローキティ:共同制作と商品化(2018年1月10日)
11. サンリオ:キャリア入社社員インタビュー:井上慶祐
