旅行先のホテルを何十件も比べる。保険の用語を読み解く。家電の型番差を調べる。検索結果のページを往復する代わりに、生成AIへ条件を伝え、候補を整理してもらう人が増えている。2026年に公表された複数の国内調査は、比較や理解が難しい領域でAI相談が使われていることを示す。
ただし、“AIで買い物をする人が51%”と“AI利用者の旅行相談が57%”は同じ分母ではない。 Visaの調査、電通デジタル、デロイト トーマツの調査は、対象者、質問、AI利用の定義が異なる。数字を一列に並べると、実態を大きく見せてしまう。
共通して見えるのは、AIが参考情報や相談相手として使われる一方、決済や最終判断を全面的に任せる行動はまだ限定的なことだ。消費者がどこでAIを使い、企業は何を準備すべきかを、調査条件とともに読み解く。
旅行57%、金融・保険56%は“AI利用者が購買で相談した領域”
電通デジタルの調査では、生成AI利用者のうち約3分の1が購買行動でAIを使った経験を持つとされる。利用領域では旅行計画が57%、金融・保険が56%と高かった。これは全生活者の57%がAIで旅行を買ったという意味ではない。
旅行は日程、人数、場所、予算、移動、キャンセル条件を同時に比べる。金融・保険は用語や条件が難しく、商品間の違いを理解しにくい。AIは自然文で条件を受け取り、比較軸を整理できるため、検索語を何度も変える負担を減らす。
一方、AIの説明が最新の料金や規約を正確に反映するとは限らない。旅行の空室、金融商品の手数料、家電の型番は変わる。相談で候補を絞った後、提供会社の公式ページで日付、価格、対象、例外を確認する必要がある。
51%という数字は、Visa調査の質問条件で読む
Visaの国内発表は、2026年2月に行った調査で、買い物にAIを利用する回答が51%だったと紹介する。対象者の条件や“利用”に含む行為を資料で確認し、他調査のAI利用者限定の割合と混ぜない。調査会社、時期、設問が違えば数字は一致しない。
Visaは、利便性への期待とともに、正確さ、信頼、購入前の確認が障壁になることも示す。AIが候補を示しても、偽サイト、古い価格、条件の見落としがあれば決済に進めない。回答の質だけでなく、公式販売元と安全に接続する仕組みが必要だ。
デロイト トーマツの調査でも、若い層ほどAIの提案を参考にする傾向が見える一方、購入判断の委任は低い。高級品2.7%、化粧品2.3%、旅行1.7%、家電1.6%など、全面的に任せる行為は小さい。相談と代理購入を同じ“AIコマース”にまとめない。
- 相談:条件を伝え、比較軸や候補を整理してもらう
- 参照:レビューや仕様の要点を理解する助けにする
- 確認:公式サイトで価格、在庫、規約、提供者を確かめる
- 委任:AIに商品選択や購入実行まで任せる。現状は限定的

企業サイトは、AIにも人にも比較できる情報を出す
AI検索で選ばれるために特別な宣伝文を増やすより、商品名、価格、更新日、対象地域、在庫、返品、解約、保証を一貫して公開する。仕様表の項目名を統一し、旧モデルとの違いを説明する。人が比較しやすい情報は、AIが正確に要約する助けにもなる。
旅行や金融のように条件が多い領域では、向いている人だけでなく、向いていない人を示す。最安値だけを強調せず、追加料金や例外を同じページに置く。AIが断片だけ引用しても誤解が広がりにくい情報設計が、ブランドの信頼を守る。
構造化データやFAQは発見を助けるが、内容の正確さの代わりではない。更新担当、更新頻度、変更履歴を決め、古いキャンペーンを残さない。AI回答で誤情報を見つけたら、モデルへ直接順位操作を求めるのではなく、参照された元ページと自社の公式説明を直す。
購買支援は、AI経由の売上だけでなく“迷いが解けたか”を見る
AI経由の流入は、参照URLが表示されない場合や、アプリ内で比較が終わる場合があり、通常のアクセス解析だけでは見えにくい。購入者アンケートでAI利用を尋ね、ブランド検索、直接流入、指名クーポンと合わせて推定する。完璧な帰属を無理に作らない。
カスタマーサポートの質問も手掛かりになる。AIで調べた後に、料金の確認、比較表の意味、保証範囲を尋ねる人が増えたなら、その箇所が不安点である。問い合わせを減らすことだけを目標にせず、誤解を修正して安心して選べたかを見る。
高額、健康、安全、金融に関わる商品は、人への引き継ぎを用意する。AIの候補整理が便利でも、個別事情に応じた判断や契約説明まで同じ精度でできるとは限らない。相談の入口を広げ、重要な確認では担当者と公式文書へ戻す二段構えが現実的である。
「AI 購買相談 調査」を調べるときに確認したいこと
検索結果を読むときは、まず「AI 購買相談 調査」に関する情報を、誰が、いつ、どの条件で公表したのか確認したい。本稿では電通デジタル AIを活用した購買行動調査、デロイト トーマツ 消費者行動調査、Visa Japan AIを活用した買い物調査を照合した。企業の公式発表は企画内容や提供条件を確かめる一次情報になる一方、自社の施策を説明する資料でもある。魅力的な表現を、そのまま第三者による効果検証と読み替えない。
次に、数字の分母、対象期間、対象地域、比較相手をそろえる。発表資料に人数や割合があっても、購入者全体なのか調査回答者なのか、単月なのか累計なのかで意味は変わる。記事やSNSで短く引用される過程では、但し書きが落ちやすい。元ページの表題だけでなく、調査概要、注記、利用条件まで戻り、公開されていない成果は「不明」と残す。
施策の流れは「条件を伝える → 候補を比較 → 人が最終確認」と整理できる。ただし、前の段階の人数が多ければ、後の段階も成功したとは限らない。認知、参加、利用、継続、売上、ブランド想起は別の指標である。自社で参考にするときは、どの一段を改善したいのかを決め、その前後だけでも計測する。ニュースの話題量を事業成果の代用にしない。
最後に、2026年9月8日時点の公開情報であることを意識したい。期間限定企画は終了し、商品、料金、対象店舗、ランキング、調査結果は後から更新される場合がある。実際に参加・購入・契約する際は公式の最新案内を確認する。企画分析として読む場合は、当時公表された事実、そこから導く解釈、まだ測られていない効果を三つに分けると、表面的な成功事例の模倣を避けられる。
- 確認できた事実:公式資料に日時、条件、対象、数字が明記されている
- 本稿の解釈:確認できた事実から、体験や事業の仕組みを読み解いている
- まだ分からないこと:売上、継続率、因果関係など、公開資料だけでは判断できない
- 実務での次の一手:自社の顧客と目的を決め、小さな検証で差を確かめる
この事例を、単発の話題づくりではなく継続的なブランド接点として考えるなら、エージェンティックコマースとは何かと日本のAI検索利用率を分母から読むもあわせて読むと、判断の軸を置きやすい。
2026年の調査は、AIが旅行、金融・保険、家電など比較の難しい買い物で相談相手になっていることを示す。一方、51%、57%、56%は分母と設問が異なり、購入委任の割合はまだ低い。企業は順位対策より、価格、条件、例外、更新日を比較可能にし、AI相談の後で人が確かめられる公式情報と窓口を整えるべきである。
Sources / 参考資料
