生成AIを使えば、画像、コピー、動画の案を短時間で大量につくれる。情報が増えるほど、完成された広告を見るだけの体験は似やすくなる。ブランド戦略会社manage4が2026年に発表した「ブランドナラティブレポート」7・8月号は、生活者が参加しなければ完成しない“加工できない体験”に注目した。
ここでいう参加は、投稿キャンペーンにハッシュタグを付けることだけではない。場所へ行く、手を動かす、偶然に出会う、自分で選ぶことで、同じ企画でも人ごとに結果が変わる体験である。 レポートは、飲食、音楽、カメラ、移動など複数の事例を横断して、その共通点を読む。
ただし“ブランドナラティブ”は一つの公的定義がある指標ではなく、発行者が事例を解釈するための枠組みである。掲載事例が売上やブランド好意を高めたと一括で証明されたわけでもない。概念を万能語にせず、参加が何を変え、誰を除外するかまで考える。
7・8月号は、“加工できない体験”を複数事例から抽出した
manage4の発表によると、同社が蓄積する約1,000件の事例から、2026年7月と8月に注目した動きをまとめた。新ぱち食堂、Spotify Reserved、写ルンですに関わる企画など、商品カテゴリの異なる事例を、生活者の参加という共通軸で並べる。
レポートが問題にする“加工”は、AIによる編集だけを否定する言葉ではない。画面上で見栄えよく複製できる情報と、その場にいた本人の身体、時間、選択がないと成立しない経験を区別する。後から写真にして共有できても、経験そのものは同じに複製できない。
この視点は、派手なイベントを開けばよいという話ではない。注文する、撮る、聴く、集めるなど、商品やサービスの利用行動が意味を持つことが重要だ。参加が広告の外付けではなく、価値を受け取るための工程に組み込まれている。
AI時代に希少になるのは、情報ではなく本人の時間と選択
AIで説明文やイメージを増やせると、情報不足は減る。一方、利用者がどれを自分に関係あると感じるかは難しくなる。自分で場所へ行き、選び、他者と同じ時間を過ごした経験は、受け身の閲覧より記憶に残りやすい可能性がある。
参加型体験には、予測できない余白がある。同じ曲を聴いても隣の人や順番が違い、同じカメラでも撮る場面が違う。ブランドが完成した意味を配るのではなく、使う人が自分の物語を持ち帰る。ナラティブは企業の長いコピーではなく、生活者が語り直せる経験になる。
ただし、リアルな体験をデジタルより常に優れていると決め付けない。移動できない人、時間が合わない人、身体的な制約がある人を排除する場合がある。オンライン参加、後日の記録、別の感覚で楽しめる選択肢を用意し、希少性を不便さで作らない。
- 閲覧型:ブランドが完成した情報を届け、生活者が受け取る
- 参加型:生活者の選択や行動で、結果が人ごとに変わる
- 共有型:体験後に写真や言葉で他者へ伝える
- 継続型:次の利用やコミュニティ参加へ関係が続く

参加を求めるなら、行動の負担に見合う返礼が要る
企業にとって投稿や来場はデータと宣伝になるが、生活者には時間、移動、個人情報、創作の負担がある。“一緒につくる”という言葉だけで無償の労力を当然にしない。何が得られるか、作品やデータをどう使うか、誰に帰属するかを示す。
参加の自由度も調整する。完全な白紙を渡すと、慣れた人しか楽しめない。選択肢が一つなら、参加した感覚がない。入口では簡単な選択を用意し、深く関わりたい人には制作、対話、共同編集の機会を広げる。参加の段階を分ける。
ブランドは、望んだ投稿だけを採用するのではなく、予想外の使い方や批判を受け止める必要がある。生活者に完成の一部を渡すなら、結果を完全には管理できない。安全と権利の線を守りつつ、企業の想定と違う解釈を学びに変える覚悟が求められる。
評価は参加人数より、体験後に何が変わったかを見る
参加型施策は、来場者数や投稿数が分かりやすい。しかし、人数が多くても待ち時間が長く、同じ写真だけが量産されれば、本人の体験は浅い。参加前後のブランド理解、記憶、再訪、会話の内容を小規模でも確かめる。
一人ひとりの結果が違うほど、統一KPIは難しくなる。定量では参加完了率、再訪率、紹介率を見て、定性では何を自分で選んだと感じたか、ブランドがなくても同じ体験だったかを聞く。共通の目的と個別の物語を両方残す。
AIはこの体験の敵ではなく、準備や振り返りを助けられる。好みに応じた入口を提案し、会場のアクセシビリティを案内し、参加後の記録を整理する。ただし、本人の代わりに参加したふりをして投稿を量産すれば価値は薄れる。AIが支える部分と、人が自分で行う部分を意図的に分ける。
「ブランドナラティブレポート」を調べるときに確認したいこと
検索結果を読むときは、まず「ブランドナラティブレポート」に関する情報を、誰が、いつ、どの条件で公表したのか確認したい。本稿ではmanage4 ブランドナラティブレポート7・8月号発表、Spotify for Artists Fan Study、富士フイルム 写ルンです 公式ページを照合した。企業の公式発表は企画内容や提供条件を確かめる一次情報になる一方、自社の施策を説明する資料でもある。魅力的な表現を、そのまま第三者による効果検証と読み替えない。
次に、数字の分母、対象期間、対象地域、比較相手をそろえる。発表資料に人数や割合があっても、購入者全体なのか調査回答者なのか、単月なのか累計なのかで意味は変わる。記事やSNSで短く引用される過程では、但し書きが落ちやすい。元ページの表題だけでなく、調査概要、注記、利用条件まで戻り、公開されていない成果は「不明」と残す。
施策の流れは「余白を用意 → 生活者が参加 → 個別の記憶になる」と整理できる。ただし、前の段階の人数が多ければ、後の段階も成功したとは限らない。認知、参加、利用、継続、売上、ブランド想起は別の指標である。自社で参考にするときは、どの一段を改善したいのかを決め、その前後だけでも計測する。ニュースの話題量を事業成果の代用にしない。
最後に、2026年9月8日時点の公開情報であることを意識したい。期間限定企画は終了し、商品、料金、対象店舗、ランキング、調査結果は後から更新される場合がある。実際に参加・購入・契約する際は公式の最新案内を確認する。企画分析として読む場合は、当時公表された事実、そこから導く解釈、まだ測られていない効果を三つに分けると、表面的な成功事例の模倣を避けられる。
- 確認できた事実:公式資料に日時、条件、対象、数字が明記されている
- 本稿の解釈:確認できた事実から、体験や事業の仕組みを読み解いている
- まだ分からないこと:売上、継続率、因果関係など、公開資料だけでは判断できない
- 実務での次の一手:自社の顧客と目的を決め、小さな検証で差を確かめる
この事例を、単発の話題づくりではなく継続的なブランド接点として考えるなら、ブランディングとマーケティングの違いとブランドエクイティとは何かもあわせて読むと、判断の軸を置きやすい。
ブランドナラティブレポートが示すのは、AIでコンテンツを増やせるほど、本人の時間と選択が入る体験が区別されるという見方だ。参加は投稿数を稼ぐ仕掛けではなく、生活者が価値を完成させる工程である。負担、権利、参加できない人への代替を整え、体験後の理解と再訪まで見ることで、流行語ではないブランド運営へつながる。
Sources / 参考資料
