好きなスニーカーを買おうとして、ブランドの公式サイトだけを見る人もいれば、スポーツ店で何社かを履き比べる人もいる。企業が自社サイトを強くすれば、顧客データを持ち、商品の見せ方も価格も管理しやすい。ただし、まだブランド名を決めていない人の前から、商品が消えることもある。

2026年9月4日、S&P Dow Jones Indicesは、NikeをS&P 100から9月21日の取引開始前に外すと発表した。直接の説明は、四半期ごとの入れ替えで各指数を対象の時価総額帯に合う顔ぶれにするというものだ。D2C戦略が理由で除外された、とは公表されていない。

一方でNikeは、別の一次資料で自社の問題をかなり具体的に語っている。デジタル売上を優先し、ブランドへの欲求をつくる投資より、すでにある需要を成果報酬型の広告で取りに行った。卸売店との関係と店頭の棚も弱くなった。この記事では、指数の決定と経営戦略を無理につながず、なぜNikeが卸売とブランド投資を戻しているのかを読む。

NikeのS&P 100除外予定は、D2C戦略への採点ではない

S&P 100は、米国の大型優良企業を100社規模でまとめた株価指数である。S&P 500より会社数が少なく、米国の巨大企業を代表する顔ぶれとして使われる。今回の入れ替えではDell Technologies、Palo Alto Networks、Arista Networks、Sandiskが入り、Nike、Honeywell Aerospace、Simon Property Group、Colgate-Palmoliveが外れる予定だ。NikeがS&P 500からも外れる、という発表ではない。

発表文は、各社をなぜ選んだかを個別には説明していない。「D2Cに失敗したから」「ブランド力が落ちたから」と一つの原因を置くのは推測になる。株価指数の委員会は時価総額、流動性、代表性などを見て構成を変える。マーケティング施策は売上や利益、投資家の期待を通して時価総額へ影響しうるが、その道筋には商品力、競争、中国市場、為替、関税、景気も入る。

だからこの記事でできるのは二つの事実を並べるところまでだ。第一に、Nikeは9月21日にS&P 100から外れる予定である。第二に、Nike自身がデジタル優先、成果報酬型広告、卸売との関係について修正を進めている。両者の時間は重なるが、前者が後者への公式な罰だとは確認できない。

自社サイトを強くする間に、店頭で比べてもらう場所が減った

Nikeは2020年、Consumer Direct Accelerationを発表した。デジタルを使い、自社と重要な取引先をまたいで一貫した顧客体験をつくる方針だった。発表時点では「卸売を全部やめる」計画ではない。それでも実行の重心はNike Directとデジタルへ寄り、取引先の選別や商品の供給見直しが進んだ。

D2Cには理由がある。メーカーが自社の店やサイトで直接売れば、どの商品を誰が見て買ったかを把握しやすい。新商品の背景を深く説明でき、会員との関係も続けられる。卸売業者へ渡す取り分を減らせる場合もある。指名買いが多く、欲しい商品が決まった顧客には便利だ。

しかし小売店は販売の外注先だけではない。ランニングシューズを探す人が複数ブランドを手に取り、店員へ相談し、知らなかった商品に出会う場所でもある。2024年3月の決算説明でNikeは、卸売先が新商品を実店舗へ広げ、消費者の通り道にブランドを置く役割を持つと説明した。新作Air Max Dnを市場全体の4,000店舗で立ち上げる計画も示している。

ここでいう「有効接触面積」は、Nikeが公表したKPIではない。CONTEXT編集部が、まだ指名していない人がブランドを知り、他社と比べ、購入できる入口の数と質を表すために置く言葉である。公式サイトの訪問者数だけではなく、店頭の棚、スポーツ大会での物語、検索前に触れる広告、店員の説明まで含む。物理的な面積を測った数字ではない。

ブランド広告、卸売の店頭、自社の店とサイトの三つが、知らない人に見つけてもらう入口になることを示す概念図
「有効接触面積」は公開されたNike指標ではなく、発見・比較・購入の入口を整理する編集上の言葉である。Diagram: CONTEXT編集部

成果報酬型広告は、需要をつくるより先に需要を刈り取りやすい

2024年12月、復帰したCEOのElliott Hillは決算説明で、投資がブランド需要をつくる側から、デジタル事業の成果報酬型広告で需要を取る側へ移ったと述べた。広告をクリックして買った人を計測できる施策は、短期の売上との関係を説明しやすい。予算会議では、テレビ、スポーツ支援、店頭体験より効率が良く見えることがある。

ただし広告の画面で「購入」を記録できても、その人が最初にNikeを欲しいと思った理由まで広告がつくったとは限らない。選手を見た記憶、友人の靴、店頭での試着、過去の製品体験が先にあり、最後のクリックだけを成果報酬型広告が受け取ることもある。ブランディングとマーケティングの違いで整理したように、記憶をつくる働きと交換を起こす働きは重なるが、同じではない。

NikeのCFOも同じ決算説明で、Nike Digitalが需要を育てる場所より、需要を取って卸売先と競う場所になったと説明した。デジタルの値引き品比率が前年より上がり、成果報酬型広告も増えていた。短期売上を取るための値引きと広告が続けば、正価で新商品を選ぶ理由を弱め、取引先の棚を取り戻す費用も生む。

これは成果報酬型広告をやめる話ではない。既に比較を終えた人へ在庫のある商品を知らせる、離脱した購入を戻す、地域ごとの反応を見る用途には強い。問題は、計測しやすい最後の一歩だけを全体の成果と見なし、まだブランド名を検索していない人へ理由を届ける支出まで削ることである。DoorDash Adsの増分監査のように、「広告経由で売れた」と「広告がなければ売れなかった」を分ける必要がある。

卸売とブランド投資を戻しても、回復したとはまだ言えない

Nikeは現在、Nike Directと卸売を一体で育て、消費者が選ぶ場所に最良の商品と見せ方を置く方針へ戻している。2025年5月期は売上高463億ドルで前年比10%減、Nike Directは188億ドルで13%減、卸売は259億ドルで7%減だった。需要創出費は通期で9%増えた。修正には先に費用がかかり、棚と信頼は一度の商談では戻らない。

2026年5月期は売上高464億ドルで報告ベース横ばい、為替影響を除くと2%減だった。卸売は275億ドルで報告ベース6%増、Nike Directは177億ドルで6%減、Nike Brand Digitalは12%減である。卸売の反転は確認できるが、会社全体の成長回復を一つの年度だけで断定するには早い。中国と欧州・中東・アフリカの減収、商品構成、関税など別の条件も残る。

自社のD2Cを見直すなら、チャネル別売上比率だけで判断しない。新規客が最初に知った場所、比較した場所、正価で売れた割合、同じ顧客を自社と卸売が奪い合っていないかを見る。ブランド広告は検索数や指名率の変化、店頭は試着から購入まで、自社サイトは継続購入や会員関係という別の仕事を持つ。

ブランドアーキテクチャを考えるときと同じく、一つの入口で全部の役割を担わせると、数字は単純でも顧客の動きは細くなる。直販か卸売か、ブランド広告か成果報酬型広告か、という二択ではない。誰に知ってもらうか、どこで比べてもらうか、誰が購入後の関係を持つかを分け、その合計が広がっているかを見る。

NikeのS&P 100除外予定は、経営戦略への一行の判決ではない。ただし、Nike自身の説明は、見えやすい直販売上とクリック成果へ寄せすぎる危険を示す。ブランドが強いから直販できるのであって、直販しただけでブランドが強くなるわけではない。次に見るべきは、指数へ戻る日より、指名していない人が店頭や物語で新商品へ出会い、正価で選ぶ動きが戻るかである。

Sources / 参考資料