世界で同じブランドを扱うなら、広告代理店も一社へまとめた方が速い。そんな単純な結論にはならないようだ。

The Coca-Cola Companyは2026年10月22日、世界のマーケティング運用体制を見直した結果を発表した。メディア業務は原則としてWPP Open Xが担う。ただし、北米はOmnicom、日本と韓国はdentsuである。クリエイティブはWPP Open Xが世界担当を続ける。1

これは代理店の勝敗だけを伝えるニュースではない。共通のブランド、データ、技術を持ちながら、媒体の計画と購入は市場ごとに分ける運用だからである。日本の企業が学べるのは、何社へ発注するかという答えではない。ブランド原則、データと技術、制作、媒体運用のどこを共通化し、どこを市場別に残すかを先に分けることである。

  • Coca-ColaはWPP Open Xを世界のメディア担当に残したが、北米、日本、韓国は例外とした。クリエイティブはWPP Open Xが世界を担当する。
  • 2021年からの設計も単純な一社集約ではなかった。世界担当、特定市場の補完担当、専門会社の名簿、共通データ・技術の4要素を組み合わせていた。
  • 新体制の成否は広告成果だけでは測れない。承認、データ、制作物、例外対応が会社をまたぐ際の時間と重複作業も確かめる必要がある。

世界、北米、日本で、媒体担当を分けた

2026年の発表を担当範囲で読むと、Coca-Colaは一つの仕事を丸ごと一社へ渡していない。

世界のメディア計画と購入は、北米、日本、韓国を除いてWPP Open Xが続ける。北米はOmnicomが担い、同社はWPP StudioXと連携する。日本と韓国はdentsuが継続する。世界のクリエイティブは今回の見直し対象ではなく、WPP Open Xが続ける。1

Coca-Colaのマーケティング体制を、世界共通のブランドとデータ、世界・北米・日本韓国の市場別メディア運用、評価の4層に分けた図。
Coca-Colaの2026年発表を、ブランド、データ・技術、媒体運用、評価の4層に分けた。2026年のデータ接続仕様は未公表である。 — CONTEXT編集部作成。出典:The Coca-Cola Company 2021年・2026年発表

ここでいう「メディア」は、広告をどの媒体へ、どの予算で、どの時期に出すかを計画し、枠を購入し、配信と効果を管理する仕事である。「クリエイティブ」は広告の企画や表現、制作を担う。両者は連動するが、同じ仕事ではない。

Coca-Colaは北米のOmnicomについて、メディア、データ、CRM(顧客関係管理)、ロイヤルティ施策、クリエイター活用を一つのつながった環境にまとめると説明する。一方で、どのデータをWPP StudioXと共有するのか、企画の最終承認を誰が持つのか、成果を両社へどう配分するのかは発表していない。1

したがって、今回確認できたのは担当範囲であり、実際の連携品質や成果ではない。新体制は12月1日から段階的に導入される。発表時点で「効率が上がった」「地域への対応が良くなった」とは判断できない。

2021年から、集約と例外を同時に設計していた

Coca-Colaが世界共通と市場別を組み合わせる考え方は、今回初めて現れたものではない。2021年にWPPをGlobal Marketing Network Partnerへ選んだ時点で、運用モデルは四つの要素に分かれていた。2

  • 世界担当:クリエイティブ、メディア、データ、マーケティング技術を全ブランド横断で扱う。
  • 補完メディア担当:特定市場で異なる能力を持つ会社を使う。
  • 戦略ロスター:所属を問わず専門的なクリエイターや会社へ発注できる名簿を持つ。
  • 共通データ・技術:五つの世界カテゴリー、九つの地域組織、各代理店を同じ環境でつなぐ。

2021年の公式発表はdentsuを「特定市場で独自の強みを持つ補完メディア担当」と位置づけた。2 つまり当時から、世界担当を決めることと、市場別の担当をなくすことは同義ではなかった。

共通化の目的は発注先の会社名を一つにすることではなく、世界のチームが同じブランド原則とデータで動けるようにすることだった。市場別の担当は地域の媒体、商習慣、消費者行動に合わせる。その間を共通のデータと技術でつなぐ。2026年の体制は、この考え方を残しながら、北米の担当会社を変えたものと読める。

Marketing Diveは、Coca-ColaのManolo Arroyo氏が10月21日のAssociation of National Advertisersの講演で、2019年には30%未満だったデジタル媒体の比率が2026年末には約70%になると説明したと報じた。3 これはCoca-Cola側の説明であり、今回の代理店再編だけが変化を生んだという証拠ではない。ただ、媒体構成が変われば、テレビ中心の時代と同じ分業では管理しにくくなることは分かる。

デジタル広告では制作物を納品して終わりではない。配信対象、頻度、購入データ、CRM、クリエイター投稿を見ながら継続的に調整する。表現を作る会社と媒体を運用する会社が違っても、判断に使うデータと変更の手順はつながっていなければならない。

北米の変更で問われるのは、会社間の接続である

北米でOmnicomを選んだことは、専門能力を市場に合わせる判断だとCoca-Colaは説明する。しかし、複数社を置くだけでは「最適な組み合わせ」にならない。実務では、仕事の境目ごとに引き継ぎが生じる。

たとえば、世界共通のキャンペーン案を北米へ展開するとする。WPP Open Xが全体の表現を作り、WPP StudioXが制作を支え、Omnicomが北米の媒体、CRM、ロイヤルティ施策、クリエイター活用を扱うなら、少なくとも次の判断が会社をまたぐ。

  • 世界共通の表現で変えてよい部分と、変えてはいけない部分。
  • どの顧客データを、どの目的と権限で共有するか。
  • 媒体の反応を受けて、誰が制作物を修正できるか。
  • ブランド毀損や誤配信が起きたとき、誰が止め、誰が説明するか。
  • 世界共通指標と北米固有指標が食い違ったとき、どちらで判断するか。

この接続点が曖昧なら、会議と確認が増える。反対に、すべてを一社へ寄せても、社内のブランド、商品、法務、データ、営業が別々に承認すれば速くなるとは限らない。会社数と意思決定の速さは同じ指標ではない。

ブランドガバナンスの実務を整理した記事でも、すべてを本部承認にするのではなく、影響の大きさで現場判断、相互確認、責任者承認を分けた。代理店運用も同じである。どの会社かより先に、どの変更を誰が決められるかを定義する必要がある。

成果の測り方も二層に分けたい。広告の到達、購入、再購入といった市場成果に加え、企画から配信までの日数、差し戻し回数、同じ素材の重複制作、データ照合にかかる時間、問題広告を止めるまでの時間を測る。売上が伸びても運用負担が増え続けるなら、体制が持続するとは限らない。

日本でdentsuが続く理由は、発表だけでは分からない

Coca-Colaは、日本と韓国でdentsuがメディア担当を続けること、両市場は今回の見直し対象ではなかったことを明らかにした。ただし、対象外にした具体的な理由や、他市場との評価差は公表していない。1

ここに日本市場の特徴を後付けし、「だからdentsuが選ばれた」と断定してはいけない。確認できるのは、Coca-Colaが日本・韓国を世界共通のメディア担当から外し、既存担当を維持した事実までである。

一方、日本の媒体運用でも接続先は増えている。JIAAは2025年の市場動向として、インターネット広告が広告ビジネスの主戦場となり、媒体社や広告会社の競争が激しくなったと整理する。顧客IDに紐づくデータを使うリテールメディアやコマースメディア、検索の生成AI回答、広告運用の自動化、AIによる制作も変化として挙げている。4

これらは日本担当の選定理由ではない。しかし、日本で世界共通の制作物を配信するにも、テレビ、検索、SNS、動画、店舗、イベントをまたぐ運用が必要だという背景は示す。世界で同じブランドを見せることと、日本の媒体を同じ買い方にすることは別問題である。

ユナイテッド航空の日本語アプリを扱った記事では、現地化を言語だけでなく、価格と通貨、販売と決済、利用中の例外対応まで分けた。マーケティング運用にも同じ視点を使える。広告表現が同じでも、媒体の購入、顧客データの扱い、店頭との接続、問題発生時の対応は市場ごとに異なる。

日本企業が海外展開を考える場合も、「本社で統一するか、現地へ任せるか」の二択にしない方がよい。ブランドの意味や禁止事項は共通にする。媒体の選び方や価格、販売導線は市場ごとに判断する。データの定義と報告形式はつなぐ。例外を認める場合は、例外の範囲と本社へ戻す条件を決める。この分け方なら、統一と現地化を同時に扱える。

世界と地域をつなぐ3つの学び

1. 発注先ではなく、仕事の層を先に分ける

「一社へ集約」「複数社で競争」という言葉だけでは、実際の運用は決まらない。ブランド原則、データと技術、制作、媒体運用、評価に分け、各層の責任者を一枚にする。

小さく試すなら、現在の一つのキャンペーンを選び、企画、制作、配信、計測、修正、停止の決定者を書き出す。会社名が重複していることより、責任者が空白の工程を先に直す。

2. 市場別の例外には、接続方法を付ける

例外は現地へ自由を与えるだけでは成立しない。共通のブランド原則とデータへ、何をどの形式で戻すかを決める必要がある。Coca-Colaの2021年モデルが補完メディア担当と共通データ・技術を同時に置いた点は、この接続を考える材料になる。2

自社では現地で変更できる表現、共有する指標、データの利用目的、緊急停止の連絡先、本社承認へ戻す金額やリスクを決める。例外を口頭の慣例にしない。

3. 売上と同時に、連携の摩擦を測る

新しい体制が12月1日に始まっても、短期の広告成果だけで優劣は決められない。商品、価格、競合、季節、媒体費も結果を動かすからである。

体制そのものを確かめるなら、企画から配信までの日数、差し戻し、重複制作、データ照合、問題発見から停止までの時間を見る。四半期ごとに市場成果と運用負担を並べ、どの接続点で止まったかを確認する。

Coca-Colaの再編が示したのは、世界規模のブランドでも、すべてを同じ会社、同じ市場運用へ揃えていないことだ。共通にするのはブランドの約束と接続の基準であり、市場別に残すのは媒体と顧客へ届く具体的な方法である。日本企業に必要なのも統一か現地化かを選ぶことではない。どの層を共通にし、例外をどの基準でつなぐかを説明できる運用なのである。

Sources / 参考資料