配信やSNSの利用が広がる一方、映画館への支出も伸びている。博報堂など3社は2026年9月8日、全国15〜69歳1万人を対象にした調査を発表した。年間のコンテンツ支出は平均81,022円だった。ただし、デジタルで見た人が映画館で払ったという個人単位の因果までは、公開資料から確かめられない。まず分けるべきなのは、届いた人数と払った金額である。
用語メモ
- リーチ力:あるコンテンツを1年間に視聴・利用した推計人数。支出していない人も含む。
- 支出喚起力:コアファンによる年間の関連市場規模を、調査から推計した独自指標。実際の売上高そのものではない。
- 支出層:調査対象のコンテンツへ、過去1年間にお金を使った人。
「リーチ力」と「支出喚起力」は、同じ人気を測っていない
「コンテンツファン消費行動調査2026」は、ドラマ、映画、音楽、ゲームなど11分野への興味、利用、支出、ファン意識を聞いたインターネット調査である。調査期間は2026年2月26日から3月9日。全国7エリアを性別と年代の人口構成比に合わせて割り付け、有効回答1万人を集めた。
年間平均支出の81,022円は、前年を新しい基準で計算し直した85,052円より4,030円少ない。それでも2011年の調査開始以来2番目に高い。支出する人の数は横ばいから微減だった。3社は、無料コンテンツの増加やおすすめ機能によって、今の好みとは違う分野へ出会う機会が減った可能性を挙げる。これは調査結果から導いた説明であり、原因を実験で確かめたものではない。
二つの指標は用途も違う。リーチ力は、広告やタイアップで広く知らせたいときの参考になる。支出喚起力は、コアファンの人数と支出額から関連市場を推計し、商品や体験を企画するときに使う。後者のランキングは、推計ファン人口30万人以上かつ支出回答が10人以上のコンテンツだけを掲載する。数百億円という値も企業の決算上の売上ではなく、調査結果から全国規模へ広げた推定値として読まなければならない。
しかも、前年比較には二つの注意がある。2026年版は支出額の算定基準を変え、過去の数字も再計算した。2025年版も、2021〜2022年の市場区分などに誤りが見つかり、2026年8月31日に訂正されている。数字を見る前に、定義、母数、訂正履歴をそろえる必要がある。
デジタルは接触を広げ、リアルは支出機会になる
今回の調査では、映画の推定市場規模が前年比1.9%増え、劇場鑑賞などリアルな体験への支出は2021年以降で最高になった。一方、2019年からは音楽、映画、マンガ、アニメなどでデジタルコンテンツへの支出も伸びている。デジタルとリアルは、片方がもう片方を奪うだけの関係ではない。
日本映画製作者連盟の実績でも、2025年の映画館入場者は前年比30.7%増の1億8,875万6,000人だった。興行収入は32.6%増の2,744億5,200万円、平均入場料金の伸びは1.5%である。少なくとも映画館の売上増は、値上げだけでなく入場者の増加を伴っていた。
ただし、二つの統計が示すのは「デジタル支出も映画館支出も伸びた」という同時期の変化である。SNSや配信で知った人が、どの作品で、いつ、どの券を買ったかは分からない。公開資料だけで「デジタルがリアルの売上を生んだ」と断定すると、一段飛ばしてしまう。TVerの再生数と視聴者数を分けた分析と同じく、接触を示す数字と、人や支出を示す数字は別に扱うべきだ。
コンテンツ企画に持ち帰る3つの学び
1. 認知と売上に、同じKPIを置かない
無料動画やSNSは、まだ払っていない人へ作品を知らせる。映画館、ライブ、展覧会、グッズは、好きになった人が払う理由を作る。前者は到達人数、後者は購入者数、客単価、利益で測る。すべてを再生数だけで評価すると、どこで収益が生まれたかが見えない。
2. デジタルから支出までの橋を、自社で確かめる
公開調査は市場全体の仮説を作る材料であり、自社施策の効果測定ではない。広告接触、会員登録、来場、購入を、同意とプライバシーを守れる範囲でつなぐ。難しい場合は地域や期間を分け、施策がなかった場合との差を見る。DoorDashが広告で増えた売上を監査した例は、その考え方を具体化している。
3. 推定値は、定義と更新日を数字の隣へ置く
推定市場規模を企画書へ載せるなら、調査時期、対象者、サンプル数、掲載条件も書く。計算方法が変われば過去の数字を並べ直し、訂正があれば判断も更新する。大きな数字は決裁を動かしやすいからこそ、実売上か推定値かを省かない。
Sources / 参考資料
