フィンランドのヘルシンキ中央図書館Oodi(オーディ)には、本を読む場所と、ミシンや録音設備を使う場所が同じ建物の中にある。公式サイトは誰にでも開かれた非商業の公共空間と位置づける。本を借りる予定がなくても、学び、働き、休むために立ち寄れる図書館だ。1

今日のコンセプトはこの図書館の「市民の居場所」を取り上げる。ヘルシンキ市はOodiを、利用者とつくった誰もが使えるリビングとして紹介している。その考えを、建物の雰囲気だけでなく、できること、予約方法、職員が助ける範囲まで具体化した点に注目したい。3

Oodiを「市民が読む・つくる・共に過ごすための場所」と捉える。これは公式のコピーの引用ではなく公開資料を基にした編集部の整理だ。ブランドや店舗の企画でも問われる、言葉と体験をどう一致させるかを考える。

使っていない人の希望も設計に入れる

Oodiの企画では、既存の利用者が図書館に望むことだけでなく、まだ図書館を使っていない人の希望も集めた。ヘルシンキ市の記録によると、職員は公共の場所へ出向き、普段の利用者ではない人とも話した。施設の中で待っているだけでは出会えない相手を、企画の入口に加えたのである。3

公式のサービスデザイン紹介では、2012年のキャンペーンに2,300件を超えるアイデアが集まったとする。同じ年には10万ユーロの使い道となる四つの試行を、市民が決めた。2

その試行には、街の工房や、落ち着いて過ごせる場所などが含まれていた。市の説明では、これらはOodiの計画者が参照する実験やモデルとなった。利用者の希望は建築コンペの条件にも反映され、静けさ、家族向けサービス、互いに学ぶこと、手を動かして学ぶことなどが検討された。Oodiは2018年12月5日に開館した。3

ここから学べるのは、「みんなの居場所」という広い言葉を、利用者がしたい行動へ分ける方法だ。落ち着いて本を読みたい人と、誰かとものをつくりたい人では、必要な環境が違う。「居心地がよい」という感想だけを集めても、音、机、道具、他人との距離を決める材料にはなりにくい。

ただし、意見を多く集めれば、すべての希望を採用できるわけではない。Oodiで確認できるのは、希望を集め、小さな試行と設計の条件へつないだ過程だ。参加者全員の希望を等しく実現したことや、その方法だけが来館を増やしたことまでは、この記録からは分からない。

コンセプトを検討する企業でも、すでに買っている顧客への満足度調査に加え、利用していない人が何をしたくて、どこで諦めているかを聞ける。集めた要望をすぐにコピーへ圧縮せず、まず試せる行動やサービスへ置き換える、という順序が参考になる。

静かに読む人と活動する人を三つの階へ

Oodiは異なる使い方を三つの階に配置している。公式の建築紹介では動きのある1階、活動や学習の2階、読書とくつろぎを中心にした3階という違いを説明する。設計したALA Architectsも、三つの階の関係を建築の中心的なコンセプトとしている。45

1階には複数の入口があり、ロビーやイベントの場が置かれる。ALAの説明では、外の広場が建物の中へ続くように計画され、短時間の訪問や通り抜けにも対応する。何かを長く借りたり、予約したりする用事だけが、来館の理由になるわけではない。45

2階にはスタジオ、ゲーム室、作業や会議の場所、工房などがある。3階には本と読書のための席があり、街を望むバルコニーも設けられた。ここで読み取りたいのは、設備の豪華さよりも利用者の行動と場所の対応である。4

Oodiの3階で、大きな窓沿いに並ぶ椅子に座って本を読む人たち
Oodiの3階。窓際に読書の席が並ぶ。出典:Oodi公式メディアバンク。 — © Kuvatoimisto Kuvio Oy / Helsingin kaupunki
三つの階に配置された行動と環境
階中心になる行動設計で支えること
1階立ち寄る・会う・催しに参加する広場との連続、複数の入口、ロビー
2階つくる・学ぶ・一緒に作業する工房、スタジオ、作業や会議の場所
3階読む・くつろぐ本、読書の席、街への眺め

「誰でも使える」を、全員が同じ過ごし方をする空間へ置き換えなかった。その点がこの事例の具体的な工夫だと考えられる。会話したい人に黙ってもらうだけでも、静かに読みたい人に我慢してもらうだけでもなく、異なる行動を受け止める場所を用意している。

この配置が騒音や混雑をどの程度減らしたかは、今回の資料では測れない。また、3階全体が常に無音だと理解するのも正確ではない。現在の施設案内には、2階にも予約せず使える読書室が載っている。建築の大きな方針と、一人ひとりが使う場所の案内は、両方を確かめる必要がある。7

自社の企画に引き寄せるなら、異なる要望を平均して一つの曖昧な体験にする前に、場所、時間、利用の段階で分けられないかを考えたい。たとえば相談と自分で選ぶ時間を両立させる店なら、接客の濃さを一律に決めず、どこで声をかけ、どこでは待つかまで検討できる。これはOodiの実施例ではなく、本事例から考えられる応用だ。

「誰でも使える」を予約と支援の範囲まで決める

Oodiの工房は、利用者が自分で学び、つくるための場所である。機器を並べるだけでなく、予約、費用、職員の支援について公式に説明している。理念を実際のサービスへ変えるときは、こうした利用条件もコンセプトの一部になる。6

工房の機器は市の予約サービスVaraamoで予約する。機器の利用は無料だが、使う材料には料金がかかる。図書館カードが必要かどうかや予約条件は、機器ごとの案内で確認する仕組みだ。「公共空間が無料で開かれている」ことは「すべての設備を予約も費用もなく使える」こととは違う。6

Oodiの工房で、2人がシートを扱う機器の前に立っている公式配布写真
工房の利用を紹介する公式写真。利用できる機器と条件は予約案内で確かめる。出典:Oodi公式メディアバンク。 — © Suvi-Tuuli Kankaanpää / Helsingin kaupunki

職員の支援にも範囲がある。工房のサービス方針では経験の程度にかかわらず利用開始を助ける一方、問題が起きたときは職員それぞれの技能と、使える時間の範囲で利用者と学ぶとしている。すべての作品を職員が完成させるという約束にはしていない。6

この範囲を先に伝えることは、利用者の期待を整える。初めての人が助けを求められることと、何でも代わりにしてもらえることは別だ。前者を支えながら後者を約束しない条件があれば、利用者にも職員にも、自分が何を担うかが見えやすくなる。

提供できないものを案内する姿勢も見る必要がある。2026年10月19日の調査時点で、工房の公式ページはレーザーカッターの故障と一時的な利用停止を告知していた。設備紹介に名前が載っていることと、いま予約できることは同じではない。6

施設全体も無制限の利用を認めてはいない。公共区画で利用者が独自に催しを開くことや、機器のそばで食べることなどにはルールがある。多くの人に開くという方針は、他の人の利用も守る運営と組み合わされている。8

ブランドが「気軽に相談できる」「自由に試せる」と掲げるときも、相談できる内容、予約の要否、費用、断る場合まで見直したい。広告では敷居が低く見えても、受付で初めて条件が分かるなら、利用者が受け取る体験とずれる。言葉を変える前に、受付の案内や予約条件を直せる。

自社で試すなら何を変えるか?

Oodiから借りられるのは、大きな図書館の設備一式ではなく利用者に約束する行動を、複数の具体的な判断へつなぐ考え方である。公立図書館の公共的な役割と、売上から費用を回収する店舗では成立条件が違う。無料の範囲をそのまま真似ても、同じ体験を続けられるとは限らない。

利用実績と効果も分けて読みたい。2025年12月28日の公式まとめでは、その年の来館は270万回超、資料の貸出は約55万件、2階の機器・スタジオ・会議室などの予約は6万件超だった。本以外の利用も実際に行われていると分かる一方、来館回数は利用者の実人数ではない。これらの数値だけで満足度やコンセプトの因果効果は測れない。9

Oodiのガラス張りのロビーで、テーブルを囲みチェスをする人たちの公式配布写真
ロビーでチェスをする様子を紹介する公式写真。読書以外の過ごし方も見える。出典:Oodi公式メディアバンク。 — © Suvi-Tuuli Kankaanpää / Helsingin kaupunki

自社のコンセプト案を検討するなら、次の順で一つの利用場面を確かめるとよい。

  • 顧客ができるようになる行動を、一つ書く。「豊かな体験」のような評価語だけでなく、誰がどこで何をするかまで置く。
  • その行動と衝突する、別の顧客の希望を挙げる。両方を守るなら、空間、時間、接客、利用の手順のどこを分けるかを考える。
  • 商品、設備、料金、案内、職員の権限を照合する。一つの約束から、何を採用し、何を引き受けないかを決める。
  • 小さく試し、意図した行動ができたか、途中で諦めた理由は何かを確かめる。認知や来場だけでなく、使えたかどうかを別に見る。

一文をつくる段階ではブランドコンセプトの役割と作り方も参照できる。存在理由や将来像との区別に迷う場合は、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの違いが整理の助けになる。

Oodiの事例で確かめたいのは、コンセプトを掲げた後に、入口、居場所、設備、利用条件のどの選択が変わったかだ。自社の案でも、受付で伝える一言や、予約画面の条件まで選べるかを試す。そこで決められないことが残るなら、さらに短いコピーを探す前に、誰のどの行動を支えるかへ戻る必要がある。

Sources / 参考資料