電池が弱くなった。画面が割れた。それでも、ほかの機能はまだ使える。そんなとき、一部の不具合で端末全体を手放さずに済むようにするには、何を設計すればよいのか。

今回の「今日のコンセプト」はオランダのスマートフォンメーカー、Fairphoneを取り上げる。対象は2023年8月に発表されたFairphone 5だ。「長く使える」という約束を、製品の構造と購入後の支援へどう具体化したかを見る。1

一部が古くなったことを、全体を手放す理由にしない。 これはFairphone 5の設計に対する編集部の要約であり、公式のコピーではない。修理、更新、保証を追うと、コンセプトの実現には、売った後もメーカーが引き受ける仕事があると分かる。

壊れた箇所だけを替えられる単位にする

Fairphone 5の発売時の公式タグラインは「Designed for you. Made fair」だ。同社は製品寿命のほか、素材調達、工場の労働条件、電子廃棄物にも取り組むと説明する。ここでは、そのうち長く使うための設計に焦点を絞る。12

会社の公式紹介でも、長い製品寿命とモジュール構造は継続した方針として示されている。その方針を、製品を世代ごとに改良する判断へ結び付けている。3

その判断が見えるのが、何を一つの交換部品にするかだ。発売発表では10の交換用部品を用意し、広角と超広角のカメラも、それぞれ単独で交換できるとした。電池だけを交換する、壊れたカメラだけを替えるという選択肢を、製品の中につくっている。1

Fairphone 5本体の周囲に、取り外した画面、電池、カメラ、背面カバーとねじを並べた様子
Fairphone 5の画面、カメラ、電池などを取り外して並べた公式写真。出典:Fairphone公式Flickr。 — 「Modularity - 16x9」 / Fairphone / CC BY-SA 2.0(縮小・WebP変換。同ライセンスで提供)

ここで変えているのは、不具合に対して交換する範囲である。長持ちする素材を選ぶだけでなく、傷む速さが違う部品を切り離し、まだ使える部分を残せるようにした。顧客が「使い続けたい」と思ったとき、製品全体の買い替え以外の行動を選べる。

ただし、分解できることだけでは修理は始まらない。合う部品を入手でき、故障箇所を見分け、作業を終えられる必要がある。Fairphoneの公式説明はモジュール構造に加えて、部品、修理手順、作業を助ける視覚的な案内を組み合わせている。2

「どこまで壊れたら、何を替えるのか」。この設計上の単位を変えることも、コンセプトを商品へ具体化する方法になる。

修理を顧客の努力だけに任せない

部品の分かれ方が合理的でも、顧客が作業中に迷えば修理は止まる。Fairphone 5の実機を分解したiFixitの2023年12月の記事には、その迷いに関わる細部が記録されている。

たとえば、上部モジュールの接続部を覆う小さなカバーはモジュールにつながった構造になった。外した部品をなくす心配を減らす工夫だ。一方、内部の基板配置には外すべきでないケーブルへ手を伸ばせてしまう箇所もあり、警告ラベルや接続先の表示で案内している。5

Fairphone 5の画面、本体、カメラ、電池、背面カバーを離して配置した公式分解イメージ
Fairphone 5の部品の重なりを示す公式分解イメージ。出典:Fairphone公式Flickr。 — 「Fairphone 5 exploded - black」 / Fairphone / CC BY-SA 2.0(縮小・WebP変換。同ライセンスで提供)

「自分で直せる」という表現が指す体験には、開ける、外す、部品を置く、元へ戻すという行動がある。カバーのつなぎ方や表示は、その一つひとつに作用する。理念への共感だけでは埋まらない、作業の途中の不安を扱っていると読める。

支援の入口も必要だ。現在の公式修理案内はまず症状を診断し、選択肢を確認してから修理へ進む構成になっている。自分で作業する場合は、対応する部品、工具、正しいガイドをそろえる。複雑な問題などでは修理拠点へ送る経路も用意している。4

この二つの経路には意味がある。自分で直したい人と、端末を開ける作業を避けたい人は同じではない。修理可能な製品をつくっても、全員に同じ技能や時間を求めれば、継続利用の条件は狭くなる。利用者が担う作業の範囲を選べることが、構造を実際のサービスへつなぐ。

もちろん負担は残る。部品を選び、到着を待ち、修理の時間や費用を確かめる必要がある。公式案内でも、保証の対象外の修理には費用が生じ、見積もりへの同意を得て進めるとしている。「直せる」と「無料で、すぐ、誰でも直せる」は分けて読む必要がある。4

iFixitはFairphone 5を修理のしやすさで10点満点と評価した一方、分解当時の指紋センサー交換の難しさも記している。高い修理評価はすべての部品を同じ容易さで直せる証明ではない。まして、全利用者が長く保有したという実績でもない。5

部品を残せても、更新が止まれば使い続けにくい

スマートフォンには、外から見えないもう一つの寿命がある。電池や画面を替えられても、ソフトウェアの安全性を保てなくなれば、使い続ける判断は難しくなる。Fairphoneは製品を長く支えるうえでハードウェアとソフトウェアを同じように重視すると説明する。6

Fairphone 5では産業・企業向けの用途を想定したQualcommのQCM6490を採用した。発売発表はこの選択を長期のソフトウェア支援に結び付けている。当時の約束は発売から2031年までの少なくとも8年間の支援で、2033年まで延ばすことは目標としていた。「10年間の実績」や「今買えば8年間」と読み替えてはいけない。1

設計の評価軸を処理性能だけに置けば、チップを支える期間は目立ちにくい。長く使う約束から見れば、部品メーカーとの関係や更新を続けられる体制も選定基準になる。広告で未来を語る前に、未来の作業を引き受けられる構成を選ぶ必要がある。

その作業は一度では終わらない。公式の工程説明ではAndroidの元になるソフトウェアを端末に適合させ、Google、社内、通信などの確認を更新ごとに繰り返す。2026年10月21日の調査時点では、同社サイトにFairphone 5の2026年9月のセキュリティ更新が掲載されていた。現在も更新の記載があることと、2031年までの約束を果たし終えたことは別である。6

ここから学べるのは、製品を売る時点の完成度と、提供し続ける能力を一緒に企画することだ。交換部品の保管や調達、問い合わせ対応、更新の検証は、次の新製品を売るためだけの仕事ではない。過去の購入者との約束を守るためにも残る。

「何年使える」の起点と、引き受ける範囲を決める

長期支援を説明するときは、何の期間なのかも問われる。ソフトウェアの更新期間と、故障時の修理費をどこまで負担するかという保証期間は、別の約束だ。

Fairphone 5は発売時に5年保証を打ち出した。ただし、2026年10月14日以降の公式保証規約では、2023〜2025年購入分は標準2年と延長3年、2026〜2027年購入分は標準2年と延長1年と区別されている。17

延長には店頭購入またはオンラインでの受け取りから3か月以内など所定の登録条件があり、電池は延長の対象外だ。対象地域も限定され、日本の利用者へそのまま適用できる案内ではない。7

この違いは長く使うという方針の評価と、購入者が受けられる条件の確認を両立させる必要を示す。同じ商品名でも、購入時期や部品によって約束の範囲が違う。ブランド担当者が古い紹介文を使い続ければ、支援の実態と、顧客が期待する条件がずれることもある。

今回確認できたのは、交換可能な構造、修理経路、更新の記録、保証制度である。これらによって平均の保有年数が何年延びたか、廃棄量がどれだけ減ったかという因果効果は、本記事の調査では確かめていない。性能への不満や価格、好みが買い替えの理由になる場合もあり、修理可能性だけで継続は決まらない。

自社の企画へ応用するなら、まず顧客が使うのをやめる具体的な出来事を一つ選ぶ。家具なら一部分の破損、サービスなら担当者の交代などだ。これはFairphoneの実施例ではなく、本事例から考える応用である。そこから、次の順で約束を確かめたい。

  • 何を残し、何だけを交換・変更できれば継続できるかを決める。商品単位、契約単位、担当者単位を固定したまま、言葉だけで長期利用を求めない。
  • 継続するために顧客が行う作業と、企業が引き受ける作業を分ける。手順、部品や情報の入手先、任せたい人の窓口まで書く。
  • いつからいつまで、どの条件で提供するかを決める。費用、対象外、終了時の案内を、宣伝文と実際の窓口で照合する。
  • 継続を支える担当と予算を置き、小さく試す。認知や購入だけでなく、途中で諦めた箇所、所要時間、修理・再開できたかを確かめる。

継続購入とブランドへの態度を分けて見る考え方は、ブランドロイヤルティの記事でも整理している。物を長く使う事例では買い直す回数だけで関係の強さを測れない。抽象的な希望を利用条件まで具体化する別の実例として、ヘルシンキの図書館Oodiの設計も参照できる。

他社が借りられるのは、継続を妨げる出来事から、設計と運営を考え直す方法である。Fairphoneが積み重ねた端末設計、供給先との関係、更新を続ける体制は、一文のコピーのようには移せない。自社が「長く使える」と言うなら、顧客が困った日に、何を残せるか、誰が対応し、その仕事をいつまで続けるかまで答えを用意したい。

Sources / 参考資料