コンビニの店内に並ぶ画面が、テレビCMと同じ計画表の上に載った。
電通は2026年7月13日、自社の統合メディアプランニングツール「クロスメディア・プランナー」に、リテールメディアのデータを初めて搭載したと発表した。第一弾はファミリーマートの店内サイネージ「ファミマTV」である。
変わったのは媒体そのものではない。同じ画面の上で予算配分を比べられるようになった、という買い方のほうだ。
リテールメディアの事例を探すと、導入店舗数と広告主数の話が並ぶ。だが今回の要点は規模ではなく、どの物差しに載ったかにある。
コンビニのサイネージが計画ツールに載った
クロスメディア・プランナーの運用が始まったのは2015年8月である。テレビを中心に、複数の媒体をまたいだ出稿計画を組むためのツールだった。
2023年11月にコネクテッドTVと屋外広告が加わった。そして2026年7月、リテールメディアが入った。
拡張の順番には筋がある。テレビの隣にまず別の動画の画面が並び、次に家の外の画面が並び、最後に店の中の画面が来た。

搭載されたファミマTVは、全国約1万1500店舗に展開されている(2026年6月末時点)。運営するゲート・ワンによれば、設置は約1万1580店舗まで伸びた(2026年7月現在)。
ゲート・ワン側の発表は、できるようになったことをこう書いている。テレビ広告やデジタル広告と同じ指標を用いて、ファミマTVを含めた広告プランの作成や効果シミュレーションができる。
「同じ指標」という言い方が肝心だ。媒体の選択肢を増やしたのではなく、比較の土俵に乗せたという意味になる。
2026年8月31日には、ゲート・ワン、データ・ワン、電通の三社が業務提携を発表している。約6000万の広告IDと10兆円規模の購買データを、電通側と本格的に連携させる内容だ。
電通は2025年11月にリテールマーケティング局を新設している。組織を先に作り、その約8か月後にデータを載せた形だ。
共通の単位はGRPではない
では物差しの中身は何か。電通のリリースは、統合・重複リーチと、広告認知、ブランド認知、購入意向といった態度変容の指標を挙げている。
視聴率に基づくGRPではない。人がどれだけ重なって届いたかと、その結果として態度がどう動いたかを単位にしている。
この選択は現実的だ。店内のサイネージには番組も編成もない。視聴率という概念をそのまま持ち込むことはできない。
一方で、認知や購入意向なら媒体を問わず測れる。テレビでもデジタルでも店内でも、同じ質問で聞くことができる。
測り方も一つではない。ゲート・ワンは、アンケート調査に加えて、POSに紐づいたIDでの購買実績の検証と、AIカメラによる視認率の測定を挙げている。
公表されている平均視認率は63.8%である。画面の前を通った人のうち、どれだけが実際に見たかという値だ。
注意したいのは、これが業界共通の測定基準ができたという話ではない点だ。第三者機関の認証や標準規格が定まったわけではない。
起きたのは、買い手側の計画ツールに載ったという事実である。標準化より先に、実務上の共通通貨のほうができつつある。
買い手の表に載るということは、他の媒体と同じ列で削られる可能性も引き受けるということでもある。比較されない枠は、比較で負けることもない。
店内だけに触れた人の効果
効果の側にも、テレビと並べた数字がある。ゲート・ワンとデータ・ワンは2025年8月26日、ビデオリサーチのテレビ視聴データと組み合わせたブランドリフト調査を公表した。
対象は20〜60歳、調査期間は2025年6月の1か月間。広告主は第一三共ヘルスケアで、サイネージとテレビで同じ系統の商材を扱っている。
結果として、店内サイネージだけに触れた人でも、テレビCMだけに触れた人とほぼ同等の効果が確認されたとしている。
ただし接触者の内訳は偏っている。テレビCMのみに触れた人が51.7%、両方に触れた人が10.4%、サイネージのみが6.5%だった。
母数の小さい層の結果である点は差し引く必要がある。それでも、テレビと店内を同じ設計で比較できたこと自体が新しい。
ゲート・ワンは、インテージの調査を基にしたブランドリフトの実績も公表している。サービス認知率は平均で27ポイント、サービス利用意向は平均で22ポイント上がったという。
規模の面では、ファミマTVの週間リーチは6400万人とされている(約1万500店舗、2025年7月時点)。すでにマス媒体と同じ桁にある。
媒体認知率も出ている。ファミリーマートの発表によれば平均約56%で、10〜20代では約70%に届く。広告主は440社を超え、2022年度の4.5倍になった。
認知率が高いのは、店に来た人が繰り返し同じ画面に触れるからだろう。到達の頻度が高い媒体は、少ない出稿でも覚えられやすい。
セブンは別の道を選んだ
同じ時期に、セブン‐イレブンは違う組み方を選んでいる。2026年6月11日、電通とサイバーエージェントを株主に迎えた合弁会社「セブン‐イレブン・アドコネクト」の設立に合意した。
出資比率はセブン‐イレブン・ジャパンが80%、電通とサイバーエージェントが各10%。事業開始は2026年9月1日である。
電通は統合プランニングの知見を、サイバーエージェントはAIを使ったクリエイティブ制作とプラットフォーム開発を担うとされている。
母体は約2万2000店舗と、約2800万人のアプリ会員(2026年5月時点)。サイネージの導入店舗は2025年時点の3700店舗から、2026年度中に8700店舗へ増やす計画だ。
セブンは、リテールメディアを含む新規事業で2030年度に200億円の収益を目指すとしている。設備を先に敷き、そのうえで枠を売る計画だ。
発表会で語られた見立ては率直だった。1日約2000万人が来店する店舗をメディアとして捉えれば、視聴率15%ほどの大きなメディアになる。そう考えた、と担当者は述べている。
ファミマは買い手側のツールに乗り、セブンは自前の座組みを作った。物差しを借りるか、自分で作るかの違いである。
どちらも前提は同じだ。店内の画面を、テレビと比較可能な単位で売りたい。
市場の側も動いている。電通の「2025年 日本の広告費」は、プログラマティックDOOHが本格普及の段階に入り、店舗内サイネージなどリテールメディアへの連携も加速したと記している。
ただし市場そのものの規模を示す公式統計はまだない。日本の広告費にリテールメディアという費目はなく、屋外やPOPに分かれて計上されている。
広告主から見れば、判断材料は増える。同時に、認知から購買までを一つの表の上で見るという仕事が新しく発生する。
認知を担う枠と、購買の直前に効く枠では、評価の時間軸が違う。同じ表に載せた途端に、その差をどう扱うかが問われる。
選ばれる手前の設計が変わるという点では、AIが商品を選びはじめた流れや、自社サイトが参照先として扱われはじめた動きと地続きだ。
店内の画面は長く、効果が測りにくい枠として扱われてきた。測り方が決まった瞬間に、予算の並び順が変わる。
Sources / 参考資料
