実在する社長が収録していない新製品の効能を話すように見える30秒動画を、生成AIで作ったとする。日本法人が国内サイトへ載せる、YouTubeへ投稿する、EU拠点が広告に使う。同じファイルでも、確認する法令と規約、表示する場所は同じではない。

AI生成コンテンツの表示が必要かは、AIを使った事実だけでは決められない。公開地域と公開者の立場、生成・改変した対象、実在の人や出来事に見えるか、人がどこまで確認したか、掲載先の規約を一件ずつ分けて判定する。

日本ではAI法と政府指針だけを見て、すべての生成物に同じ可視ラベルを貼るとはならない。一方、EU AI法は提供者による機械可読の印と、公開に使う者による人向け表示を分ける。YouTubeは現実に見える重要な生成・改変を投稿時に申告させる。[1][2][4][7]

本稿は2026年10月21日時点の公開資料を基に、企業の編集・広報担当者が公開前に論点を分ける手順を示す。個別案件の適法性を確定するものではない。適用地域、人物の権利、広告表現、契約が絡む場合は、公開を止めて担当法務へ確認する。

まず、生成物ではなく「公開案件」を一行にする

最初に書くのは `AI画像を使った` ではない。誰が、どの生成物を、どこで、何の目的で、誰に見せるかを一行にする。法令は地域や当事者の立場を見て、プラットフォームは掲載先での見え方を見ている。ファイル名だけではどちらも判定できない。

  • 公開者:日本法人、EU拠点、取引先、個人クリエイターの誰か
  • 公開先:自社サイト、広告、YouTube、SNS、配信サービスのどこか
  • 生成物:テキスト、画像、音声、動画のどれを、どこまで生成・改変したか
  • 見え方:実在の人物、場所、出来事、発言、証拠のように受け取られるか
  • 目的:報道、商品訴求、採用、娯楽、社内資料など、何の判断に使わせるか
  • 人の関与:原資料との照合、編集、承認と、最終責任者は誰か

例の動画なら、`日本法人の広報担当が、実在する社長の姿と声をAIで生成し、未収録の効能説明を国内向け商品ページとYouTubeで公開する` と書く。ここまで具体化すると、AIの表示だけでなく、効能の根拠、本人の許諾、広告としての誤認、YouTubeでの申告を別々に確認できる。

次に、三つの印を分ける。画面で読者に見せる可視表示、ファイルへ埋め込む機械可読の来歴情報、社内だけに残す制作・承認記録である。どれか一つを付けたから、ほかの義務や誤認が消えるわけではない。

この一行を、法令、業界・プラットフォームの規約、自社の自主開示方針の順に通す。後ろの方針で前の義務を弱めることはできない。反対に、法令上の一律義務が確認できない案件でも、読者の誤認を防ぐために自主表示する余地は残る。

誰が何をどこへ出すかを書いた後、日本での公開、EUでの利用、YouTubeへの投稿へ分岐し、関連法令、EU AI法第50条、プラットフォーム規約を確認して、可視表示、機械可読情報、制作・承認記録を残す流れ
同じ生成物でも、公開案件によって確認先は変わる。日本の法令、EU AI法、YouTube規約を一つの共通ルールにまとめない。 — Diagram: CONTEXT編集部(内閣府、消費者庁、EU、YouTubeの公開資料を基に作成)

日本では、AIラベルの有無だけで適法性は決まらない

2026年10月21日時点で、本稿が確認した日本のAI法本文と政府指針は、AIを使ったすべてのコンテンツへ一律の可視表示を課す形ではない。AI法は研究開発と活用の責務や基本的な方向を定め、政府指針は主体の規模、立場、AIのリスクに応じた対応を求める。[1][2]

政府指針は必要かつ技術的に可能な範囲で情報を開示し、後から検証できるようにして透明性を確保する考えを示す。対策は用途と影響度に応じるリスクベースである。偽・誤情報については、AI生成物だと判断できる電子透かしや来歴管理などの技術を開発し、必要に応じて実装するよう促す。[2]

ここから `日本では表示しなくてよい` とは言えない。AI法とは別に、広告、個人情報、知的財産、名誉や肖像、契約、各業界の規則が適用され得る。公開案件に合わせて、担当法務や所管機関の資料へ確認先を移す必要がある。

消費者庁は、商品・サービスの品質や価格を実際より著しく優良または有利に見せ、消費者を誤認させる不当表示を景品表示法が禁じると説明する。効果や性能の表示では、合理的な根拠を示す資料の提出を求められる場合もある。[3]

例の動画に `AI生成` と書いても、裏づけのない効能を実在の社長が話したように見せる問題は解決しない。AIラベルは制作方法を知らせるが、商品説明の真実性や本人の同意を保証しない。表示の要否と、表現を公開してよいかを別の欄で判定する。

一律の義務がない場面で、何を自主的に知らせるかは、企業は生成AIの利用をどこまで開示すべきかで扱った。そこでは読者の判断を変える影響から方針、個別表示、機械可読情報を設計する。本稿はその前段で、外部ルール上の要否を確かめる。

生成画像の権利確認も表示とは別である。生成AI画像を使うときの著作権確認フローのように、学習元の推測で終えず、入力素材、類似性、利用条件、人物の許諾、制作記録を確認する。ラベルを付けても、権利処理は代替できない。

EUでは、提供者の「印」と公開者の「表示」を分ける

EU AI法第50条の透明性義務は2026年8月2日から適用されている。ここでは、AIシステムを市場へ提供する `provider` と、そのシステムを自らの権限で使う `deployer` を分ける。日本語でどちらも事業者とまとめると、誰が何を実装・表示するかを取り違える。[4][5]

合成した音声、画像、動画、テキストを生成するAIシステムの提供者は、出力を機械が読める形式で印付けし、人工的に生成・操作されたと検出できるようにする。標準的な編集を補助するだけの場合や、入力データまたは意味を大きく変えない場合などは、この義務の対象外となる。[4]

公開に使う側は人向け表示を別に見る。実在の人物、物、場所、組織、出来事に相当程度似て、本物または真実だと誤認させる画像、音声、動画はディープフェイクに当たり得る。これを生成・改変して公開に使う者は、人工的に生成・操作されたことを明確に表示する。[4][6]

公益に関する事柄を公衆へ知らせる目的で公開するAI生成・改変テキストにも、公開に使う側の表示義務がある。ただし、人によるレビューまたは編集管理を経て、自然人か法人が公開物の編集責任を負う場合は、このテキスト表示義務の例外となる。ディープフェイクの表示に同じ例外をそのまま当てはめない。[4][5]

明らかな芸術、創作、風刺、フィクションなどに含まれるディープフェイクは、作品の表示や鑑賞を妨げない適切な方法で、生成・改変の存在を知らせる限定的な扱いになる。創作物だから無表示でよい、という例外ではない。[4][6]

EUが示したラベル用アイコンは任意であり、第50条の表示要件そのものは任意ではない。アイコンを置いただけで法令遵守が確定するわけでもない。人が最初に接する時点までに明確に認識できるか、再共有やダウンロード後も表示が残るか、アクセシビリティを満たすかを設計する。[6]

欧州委員会が2026年6月に公表した行動規範は、提供者向けの印付け・検出と、公開に使う側のラベルを二つの部に分ける。参加は任意だが、第50条の義務は任意ではない。署名者は行動規範の措置で遵守を示しやすくなり、署名しない組織は別の方法が十分であることを個別に示す必要がある。自社や利用サービスが署名者一覧にあるかに加え、提供者と公開に使う側のどちらとして対応するかを確認する。[5][8]

欧州議会の会見場でAI政策について説明する欧州委員会上級副委員長Henna Virkkunen
欧州委員会で技術主権・安全・民主主義を担当するHenna Virkkunen上級副委員長が、2026年7月にAI関連の行動計画を説明する記者会見。第50条の表示判断に使う根拠は、AI法、ガイドライン、行動規範の各原文である。 — Photo: Henna Virkkunen / European Commission Audiovisual Service / Conditions of use © European Union, 2026, licensed under CC BY 4.0(原寸1200pxをトリミングせずWebP変換。1536px版は表示用に拡大)

EU域外の企業でも、AIシステムの出力がEUで使われる場合などは適用範囲に入り得る。単に日本語サイトを海外から閲覧できるという一事だけで結論を出さず、公開者、提供形態、出力の利用地を案件ごとに確認する。[4]

例の動画をEU拠点が広告へ使うなら、実在する社長がしていない発言をしたように見えるため、ディープフェイクの表示論点を法務へ渡す。利用した生成サービス側の機械可読の印があるかと、EU拠点が視聴者へ何を表示するかは、別々に確認する。

YouTubeは、現実に見える改変を投稿時に申告する

YouTubeはAIで現実的なコンテンツを生成したり、意味のある改変を加えたりした場合に、投稿者へ申告を求める。実在の人物がしていない発言や行為をしたように見せる、実在の出来事や場所の映像を変える、実際には起きていない現実的な場面を作る場合が該当する。[9]

一方、非現実的な表現や、実際に起きたことを誤認させない軽微な美的修正は、原則として申告対象ではない。色や照明の調整、背景ぼかし、字幕生成、動画の鮮明化、構成案、台本、サムネイル、タイトル、図版の制作補助などが例示されている。[9]

投稿時はYouTube Studioの `AI use` で該当の有無を答える。対象ならYouTubeが視聴者向けラベルを加える。写真のように現実的な内容では動画プレーヤーにも表示される場合があり、それ以外では展開した説明欄へ出る場合がある。[7]

YouTubeは自社の生成AI機能で作った内容、C2PAメタデータを含む内容、内部システムがAI生成・改変と検出した内容へ、自動でラベルを付ける場合もある。ただし、Content Credentialsは真偽を保証する印ではない。来歴情報と、発言や効能の正しさを分けて確かめる。[7]

YouTubeは、申告がない場合にも自動または手動でラベルを加え、申告を繰り返し怠る投稿者への執行措置を検討すると説明する。一方、表示ラベルだけで動画のおすすめ表示や収益化資格が変わることはない。[7][9]

例の動画は、実在する社長がしていない説明をしたように見える。YouTubeの例示に直接近いため、投稿時の申告対象として扱う。同時に、効能の裏づけ、本人の許諾、広告表現の確認も続ける。プラットフォームの申告を済ませても、公開可否は自動で決まらない。

最後に、表示と証拠を公開案件へ残す

公開前の表は `AI表示:要・不要` の二択にしない。適用する法令や規約、確認した版と日付、判定理由、表示する場所、機械可読情報、承認者を一行でつなぐ。判断できない案件を無理に不要へ送らず、`法務確認` を独立した状態にする。

比較表
公開案件先に見るもの原則残す証拠
国内サイトのAI補助記事日本の関連法令と政府指針一律ラベルだけで決めず、誤認・権利・契約と自主開示を確認AIの利用範囲、人の確認、根拠、承認
国内向けAI生成広告商品分野の法令、景品表示法、権利、媒体規約AI表示を付けても、効能や価格の誤認は解消しない表示根拠、許諾、広告審査、AI表示
EU拠点が使うディープフェイクEU AI法第50条と関連法公開者の人向け表示を確認し、提供者の機械可読の印と分ける適用範囲、生成・改変箇所、表示位置、利用サービス
EUで公開する公益テキスト第50条のテキスト表示と例外人のレビュー、編集管理、編集責任者の有無を事実で確認原資料、変更履歴、確認者、責任者
YouTubeの現実的なAI動画投稿時点のYouTubeヘルプ意味のある生成・改変なら `AI use` で申告申告結果、公開画面、元映像、生成・編集履歴

記録には公開URL、公開地域、公開者、生成物の種類、実在の人物・場所・出来事との関係を含める。さらに、利用ツールと版、入力素材、生成・改変箇所、人のレビュー、適用ルールのURLと確認日、可視表示の文言と位置、機械可読情報、承認者を残す。

表示文は `AIを使用` だけで終えない。読者の判断に必要なら、`人物の映像と音声をAIで生成し、本人が内容を確認した`、`商品画像の背景だけをAIで拡張した` のように、生成した対象と人の関与を短く示す。確認していないことを、確認済みのように足さない。

法令やプラットフォーム規約は更新される。テンプレートへ結論を固定せず、公開時に公式ページを開き、確認日を更新する。複数の地域や掲載先へ同じ素材を展開するときは、最も厳しい一つへ雑に統一せず、各公開案件で必要な表示と記録を足す。

まず次の公開物を一件選び、誰が何をどこへ出すかを書く。日本の関連法令、EU AI法、掲載先の規約から関係するものだけを開き、可視表示、機械可読の印、社内記録を分ける。判断が割れるなら公開を保留し、事実をそろえて法務へ渡す。ラベルを貼る前に、公開の行き先を見る。

Sources / 参考資料