冒頭写真の提供元:全日空商事の公式プレスリリース。©nagano / chiikawa committee

ANAは2026年10月18日、人気漫画「ちいかわ」と連携した特別デザイン機「ちいかわジェット」を、羽田空港の格納庫で初公開した。初便は19日8時15分発、羽田から長崎へ向かうANA661便の予定だ。[1]

機体に描かれたキャラクターは8種類。ただ、今回の企画を知るには、飛行機の外観からもう少し先まで見る必要がある。座席や飲み物の紙コップ、ANAの制服を着たぬいぐるみ、搭乗しなくても参加できるアプリのキャンペーンも用意された。

ここに見えるのは、飛行機に乗る人だけでなく、グッズが欲しい人や、まだ旅行の予定がない人にもANAとの接点を設ける組み立てだ。どんな行動から参加でき、どこから予約や搭乗が必要になるのか。公式発表と提供条件を照合すると、コラボレーションを企画する側が確かめたい点が見えてくる。

この記事の要点

  • 初便は羽田―長崎線だが、その後は路線固定ではない。公表された路線一覧も、特別機に乗れる便の保証ではない。
  • 制服、機内の紙コップ、販売用の陶器マグなど、ANAの仕事やサービスにキャラクターが結び付いている。
  • アプリ登録、グッズ購入、後日の国内線搭乗は参加条件が異なる。話題の大きさと、会員の継続利用や搭乗の成果は分けて考えたい。

長崎は初便。その後の運航路線は固定しない

「ちいかわジェット」はANAの国内線定期便で運航するボーイング767-300、機番はJA609Aである。機番は機体ごとの識別記号だ。長崎へ飛ぶ便の愛称ではなく、特定の1機に施したデザインを指す。[3]

ちいかわジェットの初便予定(2026年10月19日、トラベル Watchの実機公開取材[1])
便名区間出発予定
ANA661便羽田 → 長崎8時15分
ANA664便長崎 → 羽田11時00分

ANAが案内する初便以降の路線は、機体を投入する可能性のある路線だ。10月24日までは羽田発着の新千歳、伊丹、松山、広島、福岡、長崎、那覇などが挙がり、25日以降は対象が広がる。[1] 航空専門媒体Aviation Wireも、実際の運航路線は当日まで決定せず、運航状況によって候補以外の路線へ投入する場合があると報じている。[2]

したがって、長崎行きの航空券を買えば、いつでもこの機体に乗れるわけではない。初便の予定と、その後の投入候補は区別する必要がある。機体との出会いを旅行の目的にする人ほど、行き先、日程、運賃の条件を先に決める通常の予約と、期待がずれる余地がある。

機体デザインと最新の運航案内は、ANA「ちいかわ×ANA」特設サイトで確認できる。特別機を使う企画では、この不確実性を案内の小さな注記だけにせず、予約前に伝えられるかが大切になる。

制服が、ちいかわたちをANAの仕事へ連れてくる

ANAと「ちいかわ」の関係を具体物として確かめられるのが、制服姿のグッズだ。全日空商事は、キャラクターがANAの制服を着て、機内や地上で働く姿を描いた商品を発表した。[4] 制服という細部によって、見慣れたキャラクターが、飛行機を動かす側の役割を持つ。

客室乗務員やパイロットなどANAの異なる制服を着た、ちいかわたち8種類のマスコット。
制服や道具の違いから、機内や地上の仕事が見える「ちいかわ×ANA」のマスコット。公式商品写真。 — 画像提供:全日空商事(公式プレスリリース)/©nagano / chiikawa committee

ここでは、キャラクターの顔とANAのロゴが同じ場所にあることに加え、「どんな仕事をしている姿か」が見どころになる。ファンは好きな人物像を、ANAは自社の仕事を、それぞれ一つの品物の中へ持ち込める。制服の違いを見比べる行為そのものが、航空会社の仕事を知るきっかけになりうる。これは商品の表現から読める可能性であり、職業理解が深まったという測定結果ではない。

航空会社とキャラクターの連携自体は、今回始まったものではない。ANAは2023年にも、国際線の「ピカチュウジェットNH」と、グッズや機内エンターテインメントなどの連携を発表している。[5] 国際線と国内線では利用の場面が異なるため、人気や集客力の優劣は比較できない。それでも、外観から機内、商品へと展開する手法は、ANAが以前から続けてきたものと分かる。

今回を見る際も、キャラクターを採用した珍しさだけでなく、ANAのどの仕事やサービスを見せるかに注目したい。作品自体への理解を深めるなら、映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』の解説も、企業との連携とは別の角度から読める。

機内の紙コップを、家で使う陶器マグへ

「ちいかわジェット」では、飛行機の外観を見る時間に加えて、座る、飲むという機内の動作にもキャラクターが現れる。ANAの発表では、国内線エコノミークラスのヘッドレストカバーと飲み物用の紙コップがオリジナルデザインになる。機内品は当日の状況で変わる場合があり、ヘッドレストカバーは持ち帰れない。[3]

さらに全日空商事は、その紙コップをイメージした「機内紙コップデザイン陶器マグセット」を販売する。機内先行販売の商品として案内されている。[4] 機内で使う紙コップと、購入して使う陶器のマグは別の商品だ。

ちいかわとハチワレを描いた青い陶器マグ2個と、うさぎを含む側面の展開図。
販売用の「機内紙コップデザイン陶器マグセット」。機内で飲み物を提供する紙コップそのものとは異なる。公式商品写真・展開図。 — 画像提供:全日空商事(公式プレスリリース)/©nagano / chiikawa committee

この組み合わせは、旅の中の小さなサービスと、自宅で繰り返す行動をつなぐ。機体の写真は外から見た旅を残す。一方、飲み物の器を同じ意匠で展開すれば、手に持って使うという行為を、機内と家の両方に置ける。すでに搭乗した人には記憶を振り返る品になり、まだ乗っていない人には、機内サービスを具体的に想像する手掛かりにもなる。

ただし、これだけで「旅の思い出が強まる」「再搭乗が増える」とは断定できない。買った理由が、搭乗の記念なのか、キャラクターの収集なのか、器として使いたいからなのかで、企業との関係は違うからだ。グッズの売上を評価する際にも、航空サービスへの関心や利用とは分けて確かめる余地がある。

他社の企画へ応用するなら、商品の種類を増やす前に、自社のサービスで受け手が繰り返す動作を一つ探すとよい。飲む、身に着ける、持ち歩く。その動作とキャラクターの表現が結び付けば、品物を見たときに、どんなサービスの一場面が思い浮かぶかまで考えられる。

搭乗しない人にも、アプリと買い物の入口を設ける

ANAとの接点は、特別機への搭乗だけではない。「ちいかわと旅にでよう!キャンペーン」の第1弾は、飛行機に乗らずに参加できる。ANAアプリにログインし、キャンペーンへ参加登録した対象者の中から、500名にオリジナルアクリルスタンドが当たる。[1]

第2弾では条件が変わる。第1弾の条件を達成したうえで、2027年2月1日から4月30日までに、ANA国内線へ1区間以上搭乗した人が対象になる。賞品は100名への抽選で、特別機への搭乗を条件にしているわけではない。[1] 対象運賃やマイル積算などの詳しい適用条件、登録手順は、ANA公式キャンペーンページで確認したい。

キャンペーンの概要。適用条件の詳細はANA公式へ[1]
段階期間必要な行動
第1弾2026年10月19日〜12月31日ANAアプリのログインとキャンペーン参加登録。搭乗不要。500名への抽選
第2弾対象搭乗は2027年2月1日〜4月30日第1弾の条件達成に加え、対象のANA国内線1区間以上に搭乗。対象運賃・マイル積算等の条件あり。100名への抽選

この時間差は見逃せない。第1弾の期間中であれば、旅行の予定を決める前に参加できる。一方、第2弾の対象搭乗は翌年2月以降だ。話題に触れてから旅行するまでの間に、会員としてログインし、参加登録する行動を置いた形になる。ただし、応募のための一度のログインが、その後のアプリ利用につながるかは、別に確認する必要がある。

買い物にも搭乗不要の場所がある。10月23日から順次販売するグッズはECなどでも扱われ、羽田空港第2ターミナルのANA FESTA羽田B1フロアギフト店は、保安検査場の手前でコラボ商品のみを販売する店舗になる予定だ。[4]

羽田空港のANA FESTA羽田B1フロアギフト店を、ちいかわとANAの青い装飾で展開する完成イメージ。
ANA FESTA羽田B1フロアギフト店の期間限定店舗イメージ。第2ターミナルの保安検査場を通る前にある。現況写真ではない。 — 画像提供:全日空商事(公式プレスリリース)/©nagano / chiikawa committee

保安検査前という場所なら、飛行機に乗る予定のない人も訪れる選択肢を持てる。空港へ足を運ぶ負担は残るが、航空券の購入を入口の条件にしない。ECも含め、旅の予定や住む場所が異なるファンに、違う参加方法を用意している点が特徴だ。

ただし、販売先によって取扱商品と発売時期は異なる。羽田B1店の10月23日から25日までの入店は、先着の完全予約制と案内されている。[4] 「搭乗不要」は「予約も不要」「全商品をいつでも買える」と同じではない。

機体に会えないときの体験まで、企画に含められるか

ANA「ちいかわジェット」の企画から読み取れるのは、関心の持ち方に合わせて参加の入口を分けた点だ。機体に乗る、機内で使う、商品を買う、アプリに登録する。それぞれに楽しみがある一方、提供される物、必要な手続き、確実に得られるものは異なる。

機体への搭乗は運航の都合に左右される。店舗には予約や在庫の条件がある。キャンペーンは条件を満たしても賞品が当たるとは限らない。こうした条件を期待と一緒に伝える仕事までが、コラボレーションの体験をつくる。写真を見て関心を持った人が、予約画面や店頭で初めて制約を知るなら、表現と案内の間に直すべき箇所が残る。

企画担当者が評価する際も、指標は分けたい。アプリなら応募者数と継続利用、商品なら購入と使用、航空サービスなら実際の搭乗を、それぞれ確かめる。もともとANAを利用するファンもいるため、参加者の行動をそのまま施策が生んだ純増とみなすことはできない。比較の考え方は、ブランドイベントと信頼の関係を検証した記事でも扱っている。

10月18日時点で、今回の施策による売上、会員の純増、搭乗増の実績は確認できない。いま検討できるのは成果の大小ではなく、機体、制服、器、会員登録をどう結び付けたかという企画の具体である。自社で同じような連携を考えるなら、ファンが最初にできる行動と、その先で期待する行動の間に、無理な条件や説明不足がないか。ANAの事例は、その間を一つずつ確かめる材料になる。

Sources / 参考資料