注文完了の画面では、明るい一言が自然だった。その文を配送遅延のお知らせにも使うと、困っている人には軽く見える。反対に、すべての場面を硬い文へそろえれば、平時の案内まで距離ができる。ブランドらしさを守ることと、同じ調子で話し続けることは同じではない。

ブランドボイスは、ブランドがどの場面でも守る「相手をどう扱い、何を先に伝えるか」という話し方の原則である。トーン&マナーは、その原則を保ったまま、場面に合わせて、丁寧さ、明るさ、文の長さ、語彙、記号を変えた実際の表現である。短く言えば、ボイスは「いつも何を大切にして話すか」、トーン&マナーは「いま、この相手にどう話すか」である。

ただし、「トーン&マナー」という言葉の範囲は組織によって違う。日本では文章の調子だけでなく、色、写真、イラストなど視覚表現の統一まで含める用法もある。[6] 英語圏の各社の公開ガイドでは、言語表現を主にvoiceとtoneへ分けている。[1][2][3][4][5] 本稿は言葉に範囲を絞る。自社のガイドを作るときも、最初に「言葉だけか、視覚も含むか」を一行で宣言したい。

本稿では、架空のネットスーパーを例に、変えない三つの原則と、注文完了、配送遅延、返金完了で変える表現を一枚の表へ置く。完成文を増やすことではなく、初めての場面でも違う書き手が同じ理由から直せることを目標にする。

ブランドボイスは守る話し方、トーン&マナーは場面に合わせた表現

ブランドボイスは、発信のたびに変えない土台である。会社を人に見立てた設定を厚くするより、読み手との関係と情報の扱い方を決める。「専門用語をそのまま渡さない」「不都合な事実も先に示す」「次に選べる行動を明確にする」のように、文章を見て確かめられる原則へする。

トーンは、そのボイスを特定の場面でどう表すかという調整である。Microsoftのスタイルガイドは、ボイスを誰に何を話すときも一定としながら、トーンは顧客の状態や文脈に応じて、真剣、共感的、軽快などへ動くと説明する。[2] Atlassianも、成功の確認とエラーでは、同じ声のどの特性を強く出すかが変わるとしている。[3]

比較表
比べる点ブランドボイストーン&マナー
役割話し方の判断原則特定の場面に出す表現
変化通常は場面ごとに変えない相手、目的、深刻さ、媒体で変える
書き方『事実を先に』『相手を責めない』語彙、丁寧さ、文の長さ、明るさ、記号
確認方法情報の順番と相手への姿勢を見るこの場面に強さと距離が合うかを見る

ボイスは、ブランドアイデンティティの全体でも、ブランドの性格そのものでもない。アイデンティティは、企業が何者で、誰に何を約束し、どんな能力で実行するかまで含む。ボイスは、そのうち言葉で相手とどう関わるかを担う。返金手順や商品の初期設定といった言葉以外の行動は、ボイスだけでは整えられない。

タイトルにある「変えない人格」も、永久に固定するという意味ではない。事業の対象、約束、地域、言語が変われば、土台の見直しはあり得る。ここで変えないのは、日々の一通ごとに担当者の気分で揺らさないという意味である。

変えないのは語尾ではなく、相手の扱いと情報の優先順

WordCamp Las Vegas 2019で、Laura Coronado氏がBrand VoiceとBrand Toneを分けたスライドを示している
WordCamp Las Vegas 2019の講演で、Laura Coronado氏がブランドボイスとブランドトーンを別の列で示す。本文では、このような形容詞の分類を、情報の優先順と場面別の判断へ落とし込む。 — Still: emanweb / WordPress.tv, CC BY-SA 4.0

「親しみやすい」「誠実」「大胆」のような形容詞だけでは、担当者ごとに違う文章が生まれる。「親しみやすい」を、絵文字を入れることだと考える人も、敬語を減らすことだと考える人もいる。先に決めたいのは、表面の特徴ではなく、どんな情報を、どんな順で、どんな距離から渡すかである。

Mailchimpは、自社のボイスを平易、誠実、複雑なことを翻訳する、控えめなユーモアといった特徴で説明しつつ、分かりやすさを面白さより優先し、ユーモアは適切な場面だけで使うとしている。[1] ここには、特徴だけでなく優先順位と境界がある。「面白いブランドだから常に冗談を言う」ではなく、読み手が目的を果たすことを先に置く。

架空のネットスーパーなら、ボイスを次の三つに絞れる。

  • 自社に不都合な事実も、相手の判断に必要なら先に伝える。
  • 説明だけで終わらず、相手が次に選べる行動を示す。
  • 分からないことは分からないと書き、相手を責める表現を使わない。

三つとも、広告、通知、問い合わせ、障害のお知らせへ持ち運べる。一方、「です・ますで書く」「感嘆符は一つまで」はトーンや表記の規則であり、ボイスの中心ではない。同じ語尾を使っていても、返金の事実を最後へ隠せば、このブランドが守りたい率直さは崩れる。

ブランディングは、見せ方だけをそろえる仕事ではない。ボイスも同様で、表記の統一だけでは、組織が相手をどう扱うかまでは決まらない。形容詞を一つ選ぶたびに、「そのために何を先に書くか」「何をしないか」を対で残す。

トーンは感情を決めつけず、起きていることから選ぶ

トーンを変えるとき、「ユーザーは喜んでいる」「きっと不安だ」と心を決めつけない。Shopifyの公開ガイドも、利用者の感情を完全に知ることはできないため、感じ方を断定せず、置かれた状況を具体的に考えるよう促している。[5] 観察できるのは、注文が完了した、配送が遅れている、返金が済んだ、という出来事と、次に必要な行動である。

場面ごとに、目的、深刻さ、相手が急いでいる可能性、取り消せるか、次の行動があるかを確認する。そのうえで、明るさ、丁寧さ、文の長さ、説明量、記号の強さを動かす。相手の状態を想像することは必要だが、想像を事実のように文章へ書かない。

比較表
場面目的文例
注文完了受付内容と変更期限を確認できるご注文を受け付けました。お届けは18〜20時です。変更は17時までできます。
配送遅延現在の見込みと次の更新を判断できるお届けが遅れています。現在の見込みは20時30分です。次回は19時30分にお知らせします。
返金完了処理結果と確認先が分かる欠品した商品の380円を返金しました。明細をご確認ください。

時刻や金額は架空の例である。三つの文は明るさと長さが少しずつ違うが、必要な事実を先に置き、次にできることを示し、相手を責めない原則は共通する。ブランドらしさは同じ言葉の再演ではなく、違う状況でも同じ理由が残ることに表れる。

Atlassianは、作業が成功した場面では親しみを出せても、エラーや負荷の高い場面では、気の利いた表現を弱める例を示す。[3] IBMのCarbon Design Systemも、エラーメッセージは簡潔で直接的にし、初回案内では、より十分で親しみのある説明を使うとしている。[4] トーンを変えることは、ボイスを捨てることではなく、同じ配慮を状況に合う強さで表すことである。

ただし、場面への配慮を理由に、事実まで変えてはいけない。遅延時に柔らかく書くため見込み時刻を曖昧にしたり、安心させるため未確認の復旧時刻を足したりすれば、トーンの調整ではなく情報の欠落になる。重大さが上がるほど、表現の個性より、影響、分かっていること、未確認のこと、次の更新を優先する。

一枚の表に、変えない原則と変えてよい幅を置く

ガイドを、文例集と禁止語の一覧だけにしない。文例は既知の場面には速いが、初めての出来事で理由を再現できない。ボイスとトーンを一枚に置き、下段の表現を動かしても上段の原則が残るかを見る。

事実を先に、次の行動を示す、相手を責めないという三つのブランドボイスを土台に、注文完了、配送遅延、返金完了でトーンを調整する図
変えるのは明るさ、丁寧さ、文の長さなどの調子。相手への姿勢と情報の優先順は、場面が変わっても残す。図は各社の公開スタイルガイドを基に編集部が整理。 — Diagram: CONTEXT(Mailchimp、Microsoft、Atlassian、IBM、Shopifyの公開ガイドを基に編集部作成)

最初から全媒体を網羅せず、判断が割れた三場面から作る。

  • 場面を書く:誰が、何を終えたか、何に困っているか、次に何をする必要があるかを、観察できる事実で置く。
  • ボイスを三つまで置く:相手の扱いと情報の優先順を、文章から判定できる動詞で書く。
  • 動かす項目を決める:明るさ、丁寧さ、長さ、説明量、記号のうち、その場面に関係するものだけを選ぶ。
  • 文例と理由を対にする:完成文だけでなく、何を先にし、何を弱めたかを一行で残す。
  • 境界を書く:安全、法令、アクセシビリティ、事実の正確さを、ブランドらしさより優先する。

媒体が変われば長さや操作も変わる。プッシュ通知は短くても、リンク先には影響と対処を置く。電話では相手の質問に応じて順番を変えられるが、必要な事実を隠さない。SNSでは軽い調子が許される場面でも、サポートへ移った後まで同じ勢いを持ち込まない。

翻訳でも、日本語の語尾をそのまま再現するのではなく、原則と場面を渡す。敬意や親しさの表し方は言語や地域で違うため、現地の書き手が、相手を責めない、事実を先にする、といった目的を保ちながら自然な表現を選べる余地が必要である。

文例を増やすより、違う書き手が同じ理由で直せるかを見る

レビューでは、「らしいか」を一語で尋ねない。まず、必要な事実と次の行動が見つかるかを確認する。次に、表現を選んだ理由を二人の書き手へ別々に説明してもらう。二人が同じ優先順位を挙げ、異なる文でも目的を満たせるなら、ガイドは判断を支えている。

  • 情報:影響、現在分かっていること、未確認のこと、次の行動が、必要な順に見つかるか。
  • 姿勢:相手へ責任を押しつけたり、感じ方を決めつけたりしていないか。
  • 場面:平時の楽しさと、問題時の深刻さを同じ強さで扱っていないか。
  • 再現:文例にない場面でも、ボイスの原則から書き直せるか。
  • 境界:安全、法令、読みやすさ、支援技術での理解を、個性的な表現が邪魔していないか。

確認する成果も、語尾の一致率だけにしない。問い合わせ文なら、必要情報の見つけやすさ、次の行動を選べたか、同じ質問が繰り返されたかを見る。少人数の読み合わせで迷った箇所を見つけ、必要なら対象と期間をそろえて比較する。売上や継続率が動いても、ボイス変更だけの効果とは決めない。価格、商品、配信量、サポート手順も同時に変わり得る。

ボイス自体を見直す条件も決めておく。対象顧客や事業の約束が変わった、別の地域や言語へ広がった、同じ原則が繰り返し誤解を生む、といったときは土台へ戻る。単に新しい担当者の好みや、流行の言い回しが変わったことだけで入れ替えない。

ブランドボイスとトーン&マナーを分ける目的は、表現へ細かな規制を増やすことではない。変えない原則が分かれば、書き手は場面に合わせて変えられる。まず、直近で文章の判断が割れた一場面を選び、「必ず守ること」と「この場面では動かすこと」を二段に書けばよい。

同じ声で話すとは、いつも同じ調子を使うことではない。相手への姿勢と情報の順番を保ちながら、いま必要な距離と強さへ変えることである。

Sources / 参考資料