四半期の公開予定は、記事、動画、導入事例で埋まっている。それでも会議では、次に何を作るかが毎回決まらない。公開した価格案内は古くなり、よくある質問と営業資料には違う答えが残る。本数の予定だけでは、情報を必要とする人の仕事も、公開後の手入れも設計できない。
コンテンツ戦略とは、誰が何を決めたり行ったりするために、どの情報が必要かを定め、その情報をつくる、届ける、更新する、やめるまでの責任と判断基準を決めることである。編集カレンダーが「いつ何を出すか」を並べる表なら、コンテンツ戦略は「なぜ必要か、何を作らないか、公開後に誰が保つか」を先に決める。
2008年、コンテンツ戦略の実務を整理したKristina Halvorsonは、有用で使えるコンテンツの作成、公開、統治を計画する領域として定義し、何を公開するかだけでなく、なぜ公開するかを問うた。[1] 英国教育省の現在のデザインマニュアルも、利用者のニーズと組織の目標を満たす情報を作成し、維持するための戦略として、測定、所有、保守、アーカイブや削除まで含める。[2] 用語の範囲に唯一の国際標準があるわけではないが、本稿ではこのライフサイクルまでを扱う。
以下では、架空の複数店舗向け在庫共有サービスを例にする。主な読み手は三店舗の運営責任者で、紙、店舗別の表計算、共有システムを比べ、小さな試行をするか判断したい。特定サービスの効果を示す話ではない。一人の一つの判断から始め、必要な情報と、その情報を保つ仕事まで広げていく。
コンテンツ戦略が決めるのは、何を書くかより誰のどの判断を助けるか
戦略の最小単位は、記事の題名ではなく、「誰が、どの仕事を終えられるようにするか」である。会社が伝えたいテーマだけを並べると、対象は広がり、一本ごとの役割が重なる。相手と仕事を決めれば、必要な情報、置く場所、更新頻度、作らないものを選びやすくなる。
実務では、近い言葉を次のように分けると判断しやすい。これは唯一の用語定義ではなく、会議で問いを混ぜないための整理である。
| 対象 | 答える問い | 時間範囲 |
|---|---|---|
| コンテンツ戦略 | 誰のどの仕事を、どの情報で助け、どう保つか | 作成前から更新・廃止まで |
| コンテンツ計画 | 選んだコンテンツを、誰がどの形式で作るか | 企画から制作・配信まで |
| 編集カレンダー | 何を、いつ、どこで公開し、いまどの状態か | 日付と進行管理 |
| コンテンツマーケティング | 価値ある情報を通じ、明確な対象との関係や顧客行動へどうつなぐか | マーケティング活動の設計と運用 |
Content Marketing Instituteは、コンテンツマーケティングを、明確な対象へ価値ある関連情報を継続して作成・配信し、顧客行動へつなげるマーケティング手法として説明する。[6] コンテンツ戦略は、その活動にも必要だが、対象を集客や獲得に限らない。サービス案内、操作説明、障害情報、採用情報にも、誰が必要とし、誰が正しさを保つかという戦略が要る。
また、ブランド戦略が、事業として誰にどんな価値を約束し、どの選択を積み上げるかを扱うなら、コンテンツ戦略は、その選択を人が使える情報へ変える。ブランドの主張を増やすだけでなく、相手が比較し、使い、困ったときに戻れる情報のつながりを作る。
「知ってほしい」ではなく、相手が次にする行動から始める
「在庫共有の大切さを知ってほしい」は、発信側の希望であり、読み手が終えたい仕事が見えない。何を知れば十分か、読んだ後に何を選べるかを判定できないため、説明は際限なく増える。まず、特定の人、置かれた状況、進めたい仕事、終わった状態を書く。
GOV.UKの出版ガイダンスは、利用者ニーズを行動や仕事として書き、「知る」「理解する」のような曖昧な表現だけで終えないよう求めている。また、作りたい機能やページを先に選び、それを利用者ニーズとして書き換えることを避ける。[3] 公共サービスの書式をそのまま採用する必要はないが、解決策を目的へすり替えないという確認には使える。
- 誰:三店舗を管理し、店舗ごとの在庫差を月末に確認している運営責任者。
- 状況:紙と店舗別の表計算が混在し、他店の在庫をすぐ確認できない。
- 進めたい仕事:現在の方法と共有システムを比べ、試行に進むか決める。
- 終わった状態:費用だけでなく、入力、移行、権限、教育の違いを説明でき、試す店舗と期間を選べる。
- 根拠:問い合わせ、商談、検索語、現場観察などから、この仕事が実在するかを確かめる。
「自社サービスを導入する」は読み手の仕事にしない。比較の結果、紙の運用を直す、表計算を統一する、導入を見送るという選択もあり得る。戦略は、結論を先に決めて説得材料を並べることではなく、相手が条件を見落とさずに選べる情報を用意することである。
利用者ニーズは想像だけで確定しない。問い合わせの分類、検索語、サイト内検索、営業や支援担当への聞き取り、少人数の利用者への観察から、困っている場面と言葉を集める。根拠が弱い段階では「仮説」と明記し、公開後に確かめる条件を一緒に置く。GOV.UKも、ニーズとともに受け入れ条件や根拠を記録する。[3]
一つの記事ではなく、判断が進む道筋をつくる
一つの長い記事ですべてを説明しても、必要な時点と場所が合わなければ使われない。架空例の運営責任者は、いきなり試行を申し込むのではなく、問題に気づき、選択肢を比べ、社内の準備を確かめてから決める。それぞれの段階で、問いと必要な詳しさが変わる。
- 気づく:在庫差が起きる場面を確認する。必要なのは短い確認表で、製品紹介ではない。
- 比べる:紙、表計算、共有システムの条件を比べる。必要なのは同じ項目で並ぶ比較表である。
- 準備する:データ移行、端末、権限、教育を確認する。必要なのは担当別の実施案内である。
- 決める:試す店舗、期間、中止条件を合意する。必要なのは試行ガイドと確認項目である。
Ida Aalenが紹介したCore Modelは、優先された事業目標と、調査で確かめた利用者の仕事が重なる場所から中核情報を考え、そこへ来る経路と次へ進む経路を設計する。[5] この考え方を使うと、検索記事だけ、申込ページだけを個別に最適化せず、一人の判断がどこで止まるかを見られる。
媒体は最後に選ぶ。同じ比較情報でも、検索から見つけるウェブページ、商談中に使う一枚の表、導入準備で参照するヘルプでは、長さも置き場所も変わる。最初に「動画を毎週出す」と決めると、動画でなくてもよい問いまで形式へ従わせてしまう。
企業の中で情報の道筋を保つには、記事を書く技術だけでなく、事業、商品、支援、営業から事実を集め、重複や矛盾をほどく仕事が要る。企業の中に編集者が必要な理由で扱ったのは、その役割と責任である。本稿では職名を決めるのではなく、次章の管理項目を誰かが引き受ける状態をつくる。
新しく作る前に、残す・直す・まとめる・やめるを決める
コンテンツ戦略は、新しい企画の一覧ではない。Halvorsonは戦略を作る前に既存コンテンツを監査し、何があり、誰が持ち、どこに不足があるかを把握する必要を示した。[1] Core Modelの事例でも、監査の結果、情報を削除、簡素化、統合する選択が生まれている。[5] 新規制作は、既存情報では必要な仕事を助けられないと分かった後の一つの手段である。
既存情報を見直すとき、ページ単位だけでは部署をまたぐ矛盾を見落とす。英国のDepartment for Work and Pensions(DWP)では、2018年にGOV.UKのコンテンツ担当者と共同で、SMSからリーフレットまで別々のチームが異なる基準で作っている問題を整理した。両者は既存のスタイルガイドを集めて言葉や重複を比較し、根拠とする調査の基準も検討すると報告した。[7] 一つのガイドを完成・導入した成果まで、この発表から確認できるわけではない。

- 残す:いまも正しく、対象と仕事が明確で、同じ役割の情報が他にない。
- 直す:役割は必要だが、条件、表現、根拠、次の行動が古いか足りない。
- まとめる:同じ問いへの答えが複数に分かれ、読み手が違いを判断できない。
- やめる:対象の仕事がなくなった、別の情報がよりよく満たす、正しさを保てない。
- 作る:必要な仕事が確認でき、既存の修正や統合では不足を埋められない。
GOV.UKのガイダンスは、案内は通常、古くなれば更新し、現行でなくなったときに廃止するとしている。古い情報が非専門家の妨げになる場合や、別の場所へ統合され、利用者ニーズがよりよく満たされる場合も非公開の判断に含める。[4] これはGOV.UK固有の公開手順を民間サイトへ移す話ではない。古い情報を残すことにも費用と危険がある、と考えるための材料である。

図の最下段にある四項目は、すべての制作物へ通す。根拠は、なぜこの情報が必要で正しいと判断したか。責任者は、質問や変更が起きたときに答える人。次回確認は、放置を防ぐ日付。やめる条件は、商品終了、制度変更、別ページへの統合などである。英国教育省のガイドも、品質保証、所有者、維持、アーカイブや削除を戦略に含める。[2]
責任者は、文章を最初に書いた人とは限らない。価格なら事業側、法令なら専門担当、操作手順なら製品側が事実を持ち、編集担当が読み手に届く形を保つこともある。一人ですべてを抱えるより、事実を承認する人と、公開物を維持する人を分けて書く。
PVではなく、判断が一段進んだかを確かめる
PVは、情報へ到達した量を知る信号にはなる。しかし、必要な条件を見つけたか、選択肢を比べられたか、次の行動を選べたかは分からない。戦略の目的が試行の判断を助けることなら、閲覧数と、判断が進んだ証拠を分けて見る。
- 発見:必要な比較項目を、読み手が迷わず見つけられたか。
- 理解:紙、表計算、共有システムの条件を、自分の言葉で説明できたか。
- 行動:試す、見送る、追加確認するのどれかを、理由とともに選べたか。
- 整合:記事、営業資料、ヘルプで、価格や条件の答えが食い違っていないか。
- 維持:確認期限を過ぎた情報と、責任者が不明な情報が減っているか。
測り方は目的に合わせる。画面上の行動だけでなく、少人数に情報を探してもらう観察、問い合わせの分類、商談で繰り返される質問、更新期限の超過を組み合わせる。英国教育省のガイドも、利用者の行程を通じた成果、利用者テスト、分析、フィードバックから測定し、反復することを挙げる。[2] 一つの数字だけでコンテンツの効果や因果を確定しない。
最初から全社の情報を並べ直す必要はない。直近で公開しようとしている一つの企画について、次の七行を埋める。
- 誰:この情報を使う具体的な人。
- 仕事:その人が終えたい判断や行動。
- 根拠:その仕事が実在すると確かめた材料。
- 必要情報:判断に必要な条件と、不要な説明。
- 既存情報:残す、直す、まとめる、やめる、新しく作る。
- 運用:事実の責任者、公開物の責任者、次回確認日、やめる条件。
- 確認:情報を使って仕事が一段進んだと分かる証拠。
七行が埋まらない企画は、制作へ進む前に戻る。誰の仕事か分からないなら調査が先で、既存情報を見ていないなら監査が先である。反対に、必要性と運用が明確なら、一本の記事を作らないことも戦略上の成果になる。
コンテンツ戦略は、立派な計画書を増やすことではない。公開予定の一行を選び、「誰が何を決めるためか」「すでにある情報をどうするか」「誰がいつまで保つか」を書く。カレンダーへ載せるのは、その答えが出た後でよい。
増やす本数から考えると、作る仕事は止まらない。助ける判断から考えると、作る、直す、まとめる、やめるを選べる。
Sources / 参考資料
2. UK Department for Education Design Manual:Content strategies
3. GOV.UK Content and Publishing Guidance:Identify user needs
4. GOV.UK Content and Publishing Guidance:Retire outdated content
5. A List Apart:The Core Model: Designing Inside Out for Better Results
6. Content Marketing Institute:What Is Content Marketing?
7. Government Digital Service:Creating a single, shared content standard for the Department for Work and Pensions
