例えば、架空のネットスーパーの会議で「誠実」「親しみやすい」「少し大胆」という三つの形容詞が決まった。平時の広告は整ったが、配送が遅れた日に判断が割れた。いつもの明るい言い方を続けるのか、不都合な事実を先に出すのか。どちらも担当者なりに「らしさ」を守ろうとしている。形容詞だけでは、この二択に答えられない。

ブランドパーソナリティとは、人に性格を感じるのと同じように、顧客や社員がブランドへ結びつける人間的な特性である。「誠実」「大胆」といった形容詞そのものではなく、広告、商品、接客、問題時の対応で繰り返し選ばれた行動から、「このブランドならこうする」と推測されるまとまりを指す。

企業は、どんな性格として認識されたいかを選べる。しかし、その言葉が実際の行動に表れたか、受け手が同じ性格を感じたかまでは決められない。望む性格、表れた行動、受け取られた性格を分けると、「らしさ」を宣言から検証できる仕事へ変えられる。

本稿では、ブランドパーソナリティ研究の出発点となった尺度、その後の批判と文化比較、サービス接点や性格推測の更新を扱った研究を照合する。そのうえで、架空のネットスーパーを例に、形容詞を一枚の「ブランドの選択カード」へ直す。

ブランドパーソナリティは、繰り返す行動から感じ取られる性格

Jennifer Aakerは、ブランドパーソナリティを、ブランドに結びつけられた人間的な特性のまとまりとして捉え、測定尺度を開発した。[1] 重要なのは、ブランドの中に人間と同じ人格が実在するという意味ではなく、人が接点を見て性格を推測するという点である。

椅子に座り、帽子をかぶって笑うブランドパーソナリティ研究者Jennifer Aaker氏の白黒写真
1997年にブランドパーソナリティの五次元を示したJennifer Aaker氏。写真は2014年撮影の肖像で、研究中の場面ではない。 — Photo: Christopher Michel / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(縮小・WebP変換)
  • 望む性格:企業が、どんな人柄として認識されたいかを決める。たとえば「穏やかで、率直」。
  • 表れた行動:通知の順序、商品の見せ方、返金条件、担当者の裁量など、接点で実際に選ばれたこと。
  • 受け取られた性格:その接点を経験した人が、「隠さない」「落ち着いている」「冷たい」などと推測したこと。

三つは一致するとは限らない。企業が「親しみやすい」と考えた頻繁な通知を、顧客は「急かされる」と受け取ることがある。反対に、企業が特別と思っていない返金の速さから、「責任感がある」と感じる人もいる。性格は発信物だけでなく、企業が何を先に処理したかにも表れる。

ブランドアイデンティティは、企業が何者で、誰に何を約束し、どんな能力で実行するかを含む自己定義である。ブランドパーソナリティはその全体ではない。企業を人にたとえたとき、どんな性格特性が感じられるかという一部分に範囲を絞る。

商品性能とも分けたい。配送が予定どおり届くことは能力や品質の評価であり、それだけで人格特性とは限らない。ブランドボイスも同義ではない。ボイスは主に言葉の選び方に表れるが、パーソナリティは解約の容易さ、欠品時の代替案、店員の権限といった、言葉以外の行動からも推測される。

五つの分類は、ブランドが選ぶ性格の正解表ではない

Aakerの1997年の研究では、Sincerity、Excitement、Competence、Sophistication、Ruggednessという五つの次元が示された。[1] 日本語では誠実さ、刺激、能力、洗練、たくましさなどと訳される。多くの記事やワークショップで使われるため、ブランドパーソナリティの五分類として見たことがある人も多いだろう。

ただし、これは企業が五つから一つを選ぶためのメニューではない。研究の目的は、消費者がさまざまなブランドへ結びつける特性を測り、その構造を確かめることにあった。尺度の項目をそのまま自社の目標へ移すと、誰にでも好かれそうな言葉を並べる作業へ戻りやすい。

AzoulayとKapfererは、既存の尺度が人間の人格特性だけでなく、ブランドアイデンティティの別の側面や性能に関わる評価まで混ぜて測っていると批判した。[2] これは五次元が役に立たないという結論ではない。「信頼できる」が、性格としての責任感なのか、製品の故障率への評価なのかを区別しなければ、改善先が分からないという問題提起である。

Geuensらは、人間の人格特性としてブランドにも適用できる項目へ範囲を絞り、12項目、五因子からなる別の尺度を開発した。ベルギーの12,789人が193ブランドを評価し、米国と欧州九カ国でも妥当性を検討した。[3] 大規模な研究だが、日本で同じ構造になることを示したものではなく、企業がその五因子を採用すればよいという制作指針でもない。

文化による違いもある。Aaker、Benet-Martínez、Garoleraの四つの研究では、日本と米国に共通する四次元に加え、日本ではPeacefulness、米国ではRuggednessが固有の次元として現れた。スペインとの比較でも、共通する次元と固有の次元が分かれた。[4] 研究当時の三文化の比較であり、現在の日本市場へ固定的に当てはめることはできないが、分類を文化から独立した正解と見なせないことは分かる。

実務では、最初から有名な分類へ自社を当てはめるより、顧客や社員が実際に使った言葉と、その根拠になった接点を集める。そのあとで既存尺度と照合すれば、言い換えの漏れや調査項目の偏りを確かめられる。分類は答えを選ぶ表ではなく、観察した言葉を点検する道具として使う。

形容詞を二択の行動へ変えると、現場で使える

架空のネットスーパーが、「穏やかで、率直」という性格を目指すとする。ここで文章表現を先に決めない。「穏やか」は相手の時間や判断を急かさないこと、「率直」は自社に不都合な事実も判断材料として先に出すこと、と行動の意味を置く。

次に、実際に迷った場面を一つ選び、「ブランドの選択カード」をつくる。必要なのは、格好のよい説明ではなく、どちらも選び得る二案である。片方しか常識的でない問題では、性格ではなく法令、品質、安全の確認になってしまう。

比較表
場面選択A選択Bこのブランドが選ぶ
注文後に一商品が欠品おすすめ商品へ自動で置き換える欠品を先に示し、代替か返金を本人が選べるようにするB。率直に事実を出し、決定を急がせない
雪で配送が遅れるいつもの明るい販促文の後に遅延を書く遅延、現時点の見込み、次に更新する時刻を先に書くB。不確かな到着時刻を断定しない
会計前に追加購入を案内する残り時間を強調して追加を促す締切と条件だけを示し、閉じる選択を同じ強さで置くB。必要な人には知らせるが、焦りをつくらない

カードには、選んだ案だけでなく、選ばなかった案と理由も残す。「明るい言葉を使わない」のような表現規則では、新しい場面に対応できない。「相手が次の判断に必要な不都合な事実を先に出す」と書けば、アプリ通知、電話、店頭、返金画面でも応用できる。

企業が望む性格を、具体的な場面での選択へ変え、受け手が推測した性格を観察して行動基準を見直す循環図
企業が性格を宣言しても、それだけでは受け手の認識にならない。具体的な場面で選んだ行動を介し、何と受け取られたかを見て基準へ戻す。図は編集部による整理。 — Diagram: CONTEXT(Aaker、Joharほかの公開研究を基に編集部作成)

最初から全接点を埋める必要はない。問い合わせが増えた場面、部署で判断が割れた場面、顧客の評価が想定と反対になった場面を三つ選ぶ。各カードに、場面、迷った二案、選ぶ行動、選ばない行動、理由、実際に返ってきた言葉を一行ずつ書く。三枚たまると、形容詞が判断の型へ変わり始める。

ブランド戦略との順序も大切である。性格を先に決めても、誰へ何を約束し、何をしないかが曖昧なら、魅力的な演出を選ぶだけになる。戦略が選択の方向を定め、パーソナリティは、その選択が接点でどんな人柄として表れるかを具体化する。

一貫性は、どの場面でも同じ言い方をすることではない

「穏やかで、率直」という同じ性格でも、平時のおすすめと配送遅延では表現が変わる。平時なら短い案内と断りやすい選択肢でよい。遅延時には、原因を飾らず、分かっていること、分からないこと、次の更新時刻を先に出す。言葉の明るさをそろえるより、相手を急かさず判断材料を隠さない理由をそろえる。

Sirianniらは、従業員の行動とブランドの位置づけを整合させたサービス接点を四つの研究で検討した。ブランドへの評価との関係は一様ではなく、ブランドがよく知られているか、従業員の振る舞いが本物らしく見えるか、サービスが成功したか失敗したかといった条件が関わった。[6] 台本どおりに演じさせれば、常にブランド評価が上がるという研究ではない。

Joharらの三つの実験も、ブランドに関する新しい情報によって、最初の性格推測が更新される過程を示した。人によって、特性そのものの意味から更新する場合と、よい・悪いという評価から更新する場合がある。[5] 一度「誠実」と認識されれば固定されるのではなく、新しい接点が次の推測材料になる。

現場に裁量を残すなら、完成文を配るより、判断理由と越えてはいけない境界を渡す。ネットスーパーなら、「不都合な事実を先に出す」「顧客が選ぶ余地を残す」は共通にする。一方、アプリ、電話、対面では、長さ、語尾、説明順を担当者が調整できる。

ただし、ブランドらしさを優先しない場面もある。安全上の警告、法令で必要な表示、重大障害の第一報では、正確さ、見つけやすさ、速さが先である。ユーモアのあるブランドでも、被害の可能性がある場面で冗談を加える理由にはならない。性格は必要な情報を隠す装飾ではなく、必要条件を満たした後の選び方に使う。

一致率より、どの接点で別の性格に見えたかを確かめる

評価では、企業が選んだ三つの形容詞への賛成率だけを聞かない。「このブランドは誠実だと思いますか」と尋ねれば、問いに合わせた答えが返りやすい。先に具体的な接点を思い出してもらい、どんな性格に見えたか、その根拠になった行動は何かを聞く。

  • 接点を特定する:直近の購入、欠品、配送、問い合わせなど、実際に経験した場面を選んでもらう。
  • 言葉を先に与えない:そのブランドを人にたとえたときの性格を三語まで挙げ、そう思った出来事を尋ねる。
  • 意図と分けて並べる:企業が望んだ性格、担当者が選んだ行動、顧客が使った言葉を一行に並べる。
  • ずれを場面別に見る:対象者、接点、平時か問題時かで分け、反対の性格に見えた場所を探す。
  • 文言ではなく基準を直す:同じ誤解が続くなら、コピーだけでなく手順、権限、初期設定、選択肢を見直す。

少人数の聞き取りは、どんな言葉と根拠があるかを見つけるのに向くが、その割合を市場全体へ一般化できない。規模を確かめたい場合は、聞き取りで見つけた表現を調査項目にし、対象者と接点をそろえて質問する。既存尺度を使う場合も、翻訳、文化、業界、回答者が実際にその接点を経験したかという条件を記録する。

一語の完全一致を目標にしなくてよい。「穏やか」を意図し、顧客が「落ち着いている」「急かさない」と表現したなら、判断理由は届いている可能性がある。反対に「率直」を意図しても、遅延の説明を販促文の後へ置いた結果「隠している」と言われたなら、言葉の定義ではなく表示順を直す。

売上、継続率、指名検索の変化を、ブランドパーソナリティ施策だけの効果と決めない。価格、品ぞろえ、配送品質、広告量、季節でも数字は変わる。まず、望む性格がどの行動へ翻訳され、その行動がどの言葉として受け取られたかを接点単位で確かめる。事業指標と結びつける場合は、対象期間とほかの変更も残す。

ブランドパーソナリティを決めることは、人間のような設定資料を厚くすることではない。迷った場面で一つの選択をし、その理由を次の担当者へ渡し、受け手の言葉から直すことである。まず、最近判断が割れた場面を一つ選び、二案と選ばない理由を書けばよい。

「らしさ」は、形容詞の数ではなく、違う場面でも同じ理由から選べるかに表れる。 企業が望む性格を行動へ移し、何と受け取られたかを戻す。その往復があって初めて、ブランドパーソナリティは現場の判断基準になる。

Sources / 参考資料