「学歴不問」と求人票に書けば、スキルで人を選ぶ採用へ切り替わるのか。米国の最新調査はその見通しに疑問を投げかける。

Gallupが2026年10月19日に公表した調査では、職務上は学位が必要かどうかにかかわらず、米国の採用意思決定者の80%が学位を持つ候補者を好むと答えた。調査は8月5〜18日に2,500人へ行ったオプトイン方式のオンライン調査であり、31%は「強く好む」と回答した。1

ただし、この数字が示すのは採用担当者の意向であって、実際の採用結果ではない。求人票の応募条件と、書類選考や面接で人を選ぶ基準も同じではない。学位要件を外しても採用結果が変わらないのはなぜか。入口だけを広げても、能力を判断する別の証拠と尺度を用意しなければ、選考で再び学位へ戻ってしまうからである。

この記事の要点

  • 米国では学位を職務要件にしない場合でも、採用意思決定者の80%が学位保有者を選好する。
  • 学位要件を外した約11,300職種を追った別研究では、非学士者の採用割合は平均3.5ポイント増えたが、持続的な変化を実現した企業は37%にとどまった。
  • 日本企業が変えるべきものは求人票だけではない。応募、書類、面接、採用、定着の各段階で、学位以外の証拠と通過率を設計する必要がある。

「要件を外す」と「選ばなくなる」は別の決定

Gallupの調査では、学位保有者への選好は企業規模が大きいほど強かった。従業員10人未満の組織では62%、10〜99人では78%、100人以上では84%以上が学位を持つ候補者を好んだ。業種別では情報が91%、金融が87%、専門・ビジネスサービスが85%、製造が84%、教育・医療が83%である。相対的に低い建設でも67%、レジャー・宿泊でも66%と過半数だった。1

AIが学位の意味を薄めると考える採用担当者が多数派でもない。今後5年でAIによって学位がより重要になると予想した人は48%、重要性が下がるとした人は26%だった。1 AIを使えるかどうかを直接試すより、大学教育を受けたことを学習力や基礎能力の手掛かりにしたい心理がある可能性は考えられる。だが、Gallupの公開結果は選好の理由までは特定していない。ここを因果として断定してはいけない。

求人票の要件は「応募してよい人」を定める。一方、選考時の選好は「似た候補者のうち誰を先へ進めるか」を決める。前者から学位を消しても、後者で学位を能力の代理指標として使えば、採用される人は変わりにくい。これは採用広報にも関わる。採用ブランディングとエンプロイヤーブランディングの違いを考えるときも、求人メッセージと実際の選考体験が一致しなければ、候補者への約束は成立しない。

学位要件を外してから採用結果が変わるまでの、求人票、書類選考、面接、採用後の四段階。
求人票から学位要件を外しても、書類選考や面接で同じ代理指標を使えば採用結果は変わらない。代替証拠、共通の評価尺度、採用後の計測までつなぐ必要がある。 — CONTEXT編集部作成。Gallup、Burning Glass Institute/Harvard Business Schoolの調査を基に整理

求人票だけを直しても、採用結果は変わりにくい

実際の採用を追った研究は、入口と結果の差をさらに明確にする。Burning Glass InstituteとHarvard Business Schoolは2024年、学士要件を外した大企業の約11,300職種を対象に、変更前後の採用を約6,500万人の職歴データと接続して分析した。2

学士要件を外した職種では、非学士者の採用割合が平均3.5ポイント上がった。ゼロではない。しかし、実際の採用構成を持続的に変えた企業は37%だった。45%は求人票から要件を消しても採用構成にほとんど変化がない「In Name Only」、つまり名目だけの変更に分類された。残る18%は当初の改善が長続きしなかった。2

研究チームは当時の米国全体への増分を2023年で年間約9万7,000人、全7,700万件の採用の700件に1件未満と推計した。これは大企業を中心とした2014〜2023年のデータを外挿した研究上の推計であり、2026年の実績ではない。それでも、求人票を変えた職種が限られ、その後の選考も変わらなければ、全体への効果が小さくなる仕組みは理解できる。

採用プロセスを四つに分けると、止まる場所を見つけやすい。第一は求人票で応募資格を広げること。第二は書類選考で、職務に必要な能力を示す代替証拠を決めること。第三は面接や課題で、学位の有無に左右されない共通尺度を使うこと。第四は採用後の定着と成果を追い、基準が機能したかを確かめることである。

例えば、マーケティング職で「大卒以上」を削除しても、書類選考で著名企業の職歴だけを高く評価すれば入口は広がらない。代わりに、顧客理解を示す調査設計、施策の仮説、実施後の検証といった仕事に近い証拠を定める。その証拠を全候補者に同じ順序で評価して初めて、スキルを基準にした選考になる。

学位があっても、仕事との一致は別に確かめる

学位を持つ人が、その学位を通常は必要としない仕事に就くこともある。ニューヨーク連銀の集計では、米国の新卒大卒者の労働市場は2026年第2四半期まで厳しい状態が続き、失業率は約5.6%、不完全雇用率は42%だった。3 ここでいう新卒大卒者は22〜27歳、不完全雇用は学士以上の人が通常は大学学位を必要としない職に就いている状態を指す。

この42%を「大学へ行く意味がない」という結論には使えない。集計には専門性が高く賃金も高い仕事や、経験を積んだ後に別の仕事へ移る人も含まれる。ニューヨーク連銀も、データは全米の指標である一方、連銀や連邦準備制度の公式推計ではないと注記している。3

それでも、この数字は学位と個別職務の一致が別問題だと示す。学位は一定期間の学習を終えたことを安く早く確認できる。だが、職務に必要な問題設定、顧客理解、制作、分析、チームでの協働をどの程度備えているかは、仕事に近い証拠で確かめなければならない。スキルベース採用は学位の価値を否定する運動ではない。学位だけでは見えない適合を確かめ、代理指標だけで候補者を落とさない設計である。

AI利用でも、ツールへの接触機会や役職で便益が分かれる。米国のAI利用者の63%が「仕事が速くなった」で見たように、導入の有無だけでは利用の質を説明できない。採用でも「学歴不問」という方針の有無ではなく、誰が応募し、誰が書類と面接を通り、入社後にどう働いたかを見る必要がある。

日本では「新卒一括採用」と「学位の代替」を分ける

米国の調査をそのまま日本へ移すことはできない。米国のGallup調査は組織の採用意思決定者に学位保有者への選好を聞いた。日本の厚生労働省「労働経済動向調査」は、2026年5月1日時点で、2027年新規学卒者の採用予定者数が前年より増えるかを事業所に聞いている。対象も設問も制度も違う。

厚生労働省の調査では、2027年の新規学卒者の採用を前年より増やす予定の事業所は、大学卒文科系で17%、理科系で19%だった。増やす理由は、すべての学歴で「長期的に育成することが必要な基幹的業務を担う者の確保」が最も多かった。4

この結果は、日本企業が大学教育の内容だけでなく、卒業時期がそろった層をまとめて採り、長期育成する仕組みとして新卒採用を使っていることを示唆する。米国の学位選好と同じ数字として比べることはできないが、日本で学位要件を外すときに、単なる応募条件だけでなく、採用時期、初期配置、教育、賃金、昇進まで見直す必要がある理由になる。

  • 米国・Gallup|2026年の採用意思決定者2,500人|学位保有者への「選好」|実際の採用結果は測らない
  • 米国・BGI/HBS|2014〜2023年に要件を外した大企業の約11,300職種|変更前後の「実採用」|中小企業や2026年の現状を直接示さない
  • 日本・厚生労働省|2026年5月時点の事業所2,998件|2027年新卒の「採用予定」|学位保有者への選好は聞いていない

日本企業が中途採用や職種別採用でスキルベースへ移るなら、新卒採用の枠組みをそのまま使わない選択肢がある。職務ごとに成果物、資格、実務課題、過去の改善例など、学位以外の証拠を決める。新卒採用では、大学名や専攻を見ないと宣言するだけでなく、入社後に育てる能力と選考時に既に必要な能力を分ける。制度の目的が違えば、代替する証拠も違う。

採用基準を変える前に残す3つの学び

1. 応募条件の変更と、評価の変更を別々に確認する

求人票から学位条件を外すことは、入口の変更にすぎない。書類、面接、最終判断で学位が再び使われていないかを見る必要がある。まず直近20件の採用について、応募者、書類通過者、面接通過者、内定者を学位の有無で分ける。どの段階で比率が急に変わるかを確認すれば、次に直す場所が分かる。

2. 「学位の代わり」ではなく、仕事に近い証拠を決める

学位を一つの別資格へ置き換えるだけでは、新しい代理指標が増える。職務で成果を出す過程を分解し、過去の成果物、実務課題、資格、顧客対応の記録などから、必要な能力を最も近く示す証拠を三つまで選ぶ。証拠を増やしすぎると、応募者と評価者の負担が上がり、別の排除を生む。

3. 採用数ではなく、通過率と定着まで測る

非学位者を何人採ったかだけでは、母集団が変わったのか、選考が公平になったのか、採用後に活躍できたのかは分からない。応募、書類、面接、内定、入社を分け、6か月後・12か月後の定着と職務成果まで同じ職種内で見る。学位保有者と非保有者の優劣を作るのではなく、選考時の証拠が入社後の成果をどれだけ予測できたかを検証する。

米国の80%という数字が示すのは、学位要件を消すだけでは、採用担当者の判断まで自動では変わらないということである。日本でも問うべきなのは「学歴不問と書いたか」ではない。学位以外の証拠をどこで読み、誰が同じ尺度で判断し、結果をどこまで追えたかである。

Sources / 参考資料