広告の中身を作ったのは詐欺業者でも、その広告を見つけやすい形に整え、届きそうな人へ配る仕組みはプラットフォームが提供している。では、責任を広告主だけに置いてよいのか。
米連邦取引委員会(FTC)は2026年9月24日、政府や企業になりすます詐欺広告をめぐり、ソーシャルメディア、検索、デジタル市場の運営者が提供する「広告最適化」の扱いについて意見募集を始めた。1 問われているのは、違法な広告を掲載後に消したかだけではない。広告文や画像の生成・加工、誰に見せるかの選定、報告の受付、調査、削除、広告主への措置までを、一つの配信工程として捉え直す動きである。
ただし、規則はまだ決まっていない。今回の文書は規則制定事前公告(ANPRM)であり、既存規則を改正するか、新しい規則をつくるか、教育など別の手段を選ぶかを検討する入口だ。本稿ではこの段階を区別したうえで、2026年8月に日本の7府省庁が主要5社へ出した要請と比べる。両者から見えるのは、なりすまし広告対策の焦点が「見つけて消す」から「広がる前後の工程を管理する」へ移っていることだ。
FTCが問うのは、偽広告そのものだけではない
FTCは2024年、Government and Business Impersonation Ruleを施行した。政府機関や企業を装って金銭や情報を得る行為を禁じる規則である。一方、2026年の事前公告は、現行規則が、なりすまし広告を助長するプラットフォーム側の行為を明示的には扱っていないと説明する。2
この違いは、街の掲示板を想像すると分かりやすい。誰かが偽の広告を貼ったなら、まず問われるのは貼った人だ。しかし掲示板の運営者が、広告文をより説得的に書き換え、似た広告へ反応した人を探し、追加料金を受け取って優先的に見せていたら、運営者は単なる場所の提供者とは言いにくくなる。
FTCが使う「広告最適化」は、表示回数を増やす狭い意味だけではない。広告文、画像、動画、商品リストの生成や加工と、利用者の属性、訪れたサイト、検索語などを用いた配信先の調整を含む。事前公告は、こうしたツールがなりすまし広告に使われることを積極的に促していないか、または防ぐための合理的な手順を欠いていないか、と尋ねている。2

背景には、申告される被害の大きさがある。FTCによると、2025年のなりすまし詐欺の申告は100万件を超え、申告された損失は約35億ドルだった。3 金銭を失ったと報告した人の約3割は、最初の接触がソーシャルメディアだったと答え、申告損失は21億ドルに上る。4 いずれも届け出に基づく数字で、米国全体の被害総額や、SNS利用者が被害に遭う確率を示すものではない。それでも、広告配信の仕組みを検討対象にするだけの問題規模があるとFTCが見ていることは分かる。
「広告を出す」と「広げる」は、同じ工程ではない
事前公告を読むと、広告が人に届くまでを少なくとも六つに分けられる。
- 広告主の身元を確認する。
- 広告文、画像、動画、商品情報を作る、または改善する。
- 検索語、行動、属性などから配信先を選ぶ。
- 公開前と公開中に、なりすましの兆候を監視する。
- 利用者や権利者からの報告を受け、調べ、止める。
- 違反した広告主へ利用停止などの措置を取り、判断記録を残す。
これまでの議論では、5番の「通報を受けて削除したか」が目立ちやすかった。FTCが新たに焦点を当てるのは、2番と3番を含むプラットフォーム自身の働きだ。掲載場所を貸すだけでなく、広告の表現を整え、届く相手を選ぶなら、そのサービスが被害の拡大にどう関わったかを検討できる。これは本稿による文書の読み解きであり、FTCがすでに法的責任を確定したという意味ではない。
事前公告は、取り得る手段も一つに決めていない。公開前の評価、なりすましが疑われる広告主への最適化サービス停止、検知プログラム、報告ツール、調査と削除、広告主への措置、記録保存などを例示し、義務にするか、一定の手順を守った事業者を保護するセーフハーバーにするかを含めて意見を求める。2
プラットフォーム側も、対策を何もしていないわけではない。Metaは2025年に1億5900万件を超える詐欺広告を削除し、広告収入の70%を占める広告主の認証を終え、2026年末までに90%を目指すと公表した。7 Googleも2025年に83億件超の広告を停止・削除したと発表している。8 一方、TechCrunchは、停止広告が増えたのに対し、停止した広告主アカウントは前年より減った点に注目した。9 会社ごとに集計対象が異なり、広告数が多いほど被害が同じ割合で減ったとは限らない。削除件数だけでなく、本人確認の精度、掲載前に止めた割合、報告から措置までの時間、再登録の抑制を分けて見る必要がある。
Google広告のAI開示を扱った記事でも、生成された広告の表示と、広告主が述べる内容の責任は別に考える必要があった。今回の論点はその手前に広がる。誰が素材を作ったかだけでなく、誰が目立たせ、誰へ届け、異常を見つけた後に何をしたかまでが対象になる。
日本は本人確認と実績報告を求める
日本では2026年8月7日、警察庁、金融庁、消費者庁、デジタル庁、総務省、法務省、経済産業省が、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok Japan、Xへ共同要請を出した。5 米国の事前公告より約7週間早い。もっとも、これは行政指導であり処分ではない。米国の規則制定手続と、日本の自主的取組の要請を、規制の強弱だけで並べることはできない。
要請の最初に置かれたのは、広告主の確実な本人確認である。電子的な認証手段を含め、広告主を特定し追跡できるようにする。続いて、広告主の名称や所在地、本人確認の有無、広告であること、生成AIを主に使ったか、なぜその広告が表示されたかを利用者が確認できるよう求めている。6

要請は表示だけで終わらない。インターネット・ホットラインセンターや関係省庁から削除要請を受けた場合の迅速な削除、削除率、削除までの時間、削除しなかった理由も報告対象とする。つまり、日本側も入口の本人確認と、出口の削除を、実績データでつなごうとしている。

両国の文書を比べると、共通点と違いが見える。
- 現在の段階|規則改正、新規則、代替策について意見募集|5社へ自主的取組を要請する行政指導
- 公開前|広告の事前評価、疑わしい広告主への最適化停止などを検討|広告主の本人確認と、実施内容・件数の報告
- 配信時|広告内容と配信先を調整する最適化を検討対象に置く|広告主情報、生成AI利用、表示理由などの透明化
- 公開後|報告、調査、削除、広告主への措置、記録保存を例示|関係機関の要請への迅速な削除と、率・時間・理由の報告
- まだ分からないこと|最終的な対象行為、法的義務、罰則、セーフハーバー|各社の具体策、統一的な比較方法、対策後の被害減少
日本の資料には、2025年のSNS型投資詐欺で、当初の接触手段がバナー等広告だった事案のうち、YouTubeが27.1%、Instagramが16.3%、TikTokが10.4%だったという内訳もある。6 これは各サービス利用者全体の被害率でも、詐欺事件全体に占める割合でもない。数字が示す範囲を狭く保つことも、透明性の一部である。
コーポレートコミュニケーションを扱った記事で見たように、透明性は情報を多く表示するだけでは成立しない。誰が説明し、誰が判断し、問題が起きたときにどこへ戻るかが分かる必要がある。広告でも同じで、ラベル、本人確認、削除窓口、措置記録は別々の機能ではなく、責任の経路を作る部品になる。
広告主と運用側が持ち帰る3つの学び
1. クリエイティブの審査より先に、広告主を確かめる
偽の企業名や著名人を使った広告は、表現だけを見ても判定しにくい。正規の素材と似ているほど、なおさらだ。入稿時に法人・個人を確認し、支払手段、ドメイン、過去のアカウント、代理店との関係をひも付ける。広告主側も、代理店や運用代行へ渡したアカウントを一覧化し、退職・契約終了後の権限を残さない。本人確認は掲載可否の一度きりの門ではなく、追跡可能性を保つ土台である。
2. 「削除した件数」だけを成果にしない
大量に削除した数字は目を引くが、被害を防いだかはそれだけでは分からない。少なくとも、公開前に拒否した割合、本人確認で止めた件数、通報から確認までの時間、確認から停止までの時間、停止した広告主の再登録率を分ける。日本の要請が削除率、時間、削除しなかった理由まで求めるのは、総数だけでは工程の詰まりが見えないからだ。
広告主も同じ指標を持てる。自社名や役員名を騙る広告の発見経路、各媒体への申告日時、受付番号、停止日時、再出現したURLやアカウントを記録する。被害者からの連絡を広報だけで閉じず、法務、広告運用、カスタマーサポートへ同じ記録を渡す。
3. 生成、配信、公開後対応の責任者を分けて決める
広告制作に生成AIを使ったかという表示は重要だが、それだけでなりすましは止まらない。素材を作る工程、配信対象を広げる工程、通報後に止める工程は、担当者も判断基準も異なる。誰が入稿者を確認し、誰が配信拡大を承認し、誰が緊急停止できるかを先に決める。
小さく始めるなら、運用中の一媒体を選び、広告主ID、利用ドメイン、代理店権限、異常時の連絡先、停止権限者を一枚にまとめる。そのうえで、四半期に一度、公開前の拒否と公開後の削除を同じ表で確認する。FTCの最終判断を待たなくても、責任の空白は減らせる。
今回のANPRMが投げかけたのは、プラットフォームは広告を置く場所なのか、それとも広告を作り、選び、広げる当事者でもあるのか、という問いである。答えはまだ決まっていない。だからこそ、広告主と運用側は「違反広告を消した」で終わらず、どの工程で広がり、どの工程で止められたかを説明できる状態へ進む必要がある。
資料確認日:2026年9月27日。FTCの手続は意見募集段階で、最終規則ではない。日本の要請は行政指導であり処分ではない。各社の削除・認証実績は各社公表値を含み、被害減少との因果は確認できていない。
Sources / 参考資料
United States Federal Trade Commission:2 Advance Notice of Proposed Rulemaking: Impersonation of Governments and Businesses
United States Federal Trade Commission:3 FTC Data Show People Reported Losing $3.5 Billion to Imposter Scams in 2025
United States Federal Trade Commission:4 New FTC Data Show People Have Lost Billions to Social Media Scams
警察庁:5 SNS等におけるなりすまし詐欺広告への対応に関する要請
警察庁など7府省庁:6 Google LLC宛て要請書
Meta:7 Fighting Scammers and Protecting People With New Technology and Partnerships
Google:8 Gemini is stopping harmful ads before people ever see them
TechCrunch:9 Google is now targeting bad ads over bad actors
