ピンク一色の空間で、黒いスーツの木村拓哉が音楽に合わせて体を動かす。髪に触れ、軽やかにターンする。ギャツビーのヘアワックス「ムービングラバー」の新CMは、そんな姿に「いい予感しかない。」という言葉を重ねる。2026年9月19日に放送が始まった広告だ。1

難しい言葉も、意外な造語もない。それでも、この組み合わせには意味がある。木村は2006年、ムービングラバーが発売されたときにも広告に出演していた。最初の起用から20年。商品のリニューアルに合わせ、再び同じブランドの広告に登場したのである。2

今回の広告を読み解く手がかりは、その20年の関係と、髪を整えた後に生まれる気持ちにある。過去を知る人には再会の喜びを、初めて見る人にはこれからの楽しさを伝えようとしている。その二つをつなぐ言葉として、このコピーを考えてみたい。

公式CM「いい予感しかない。」篇をYouTubeで見る。

髪が決まった、その先の気持ちへ

まず、今回の広告には商品の刷新という具体的な背景がある。

マンダムは8月24日、ムービングラバーのラインアップとパッケージをリニューアルした。7月の商品発表で挙げていたのは、男性の髪型の多様化だ。長さや形に加え、ツヤの有無、毛束のつくり方、自然な質感など、求める仕上がりが広がっているという。

それに応えるため、品ぞろえを拡充し、髪の動かしやすさや仕上がりの持続を改良した。ただし、スパイキーエッジとエクストリームマットのワックスは機能性を変更していない。シリーズの刷新を、全商品の性能向上と一括りにはできない。3

商品画像を見ると、台紙にはそれぞれ異なる髪型が示されている。仕上がりを具体的に選べる売り場の表現に対し、シリーズ全体の広告は、それらを使う人に共通する気持ちへ目を向けている。

2026年のムービングラバー。色分けされた10種類の容器に、それぞれの髪型や仕上がりを示したパッケージが並ぶ。
2026年のラインアップ。容器の色だけでなく、台紙の髪型と短い言葉で仕上がりを伝えている。商品ごとの具体性と、シリーズ全体の「いい予感」という表現の違いを確かめられる。 — 画像引用:株式会社マンダム/2026年8月19日発表

この発表で、同社はスタイリングを通じた高揚感を提案している。広告の前向きな言葉は、商品発表の時点で示されていた方向とつながっている。

さらに、広告専門メディア「AdverTimes.」の取材に対し、マンダム広報は、今回は髪型が決まり、外へ出るときの気持ちまで伝えたかったと説明している。2006年に打ち出したのは、髪を自在に動かして遊ぶ楽しさ。今回、そこから表現の範囲を広げたのだ。4

髪を思い通りに整えられることと、その日の自分に少し期待できること。その間には距離がある。機能を説明するだけでは、後者まで伝わるとは限らない。

たとえば、出かける前に鏡を見て、今日はいい感じだと思う。予定そのものは変わっていなくても、人と会うのが少し楽しみになる。今回の広告が伝えようとしている高揚感は、そういう身近な場面に置くと理解しやすい。

ワックスの働きから、使う人の生活へ。コピーは、その間を短い言葉でつないでいる。

木村拓哉とギャツビーが、一緒につくってきたもの

木村の起用理由を、知名度だけで説明すると見落とすものがある。

2006年のマンダムの発表を読むと、同社は当時、ギャツビーの世界観を一緒につくれる人物を求めていた。そこで、ファッションへの影響力や新しい表現に取り組む姿を評価し、木村を起用した。CMでは体のしなやかな動きを、髪型を自由にアレンジできるという商品の特徴に結びつけていた。5

つまり、木村は商品の横に立つ有名人という役割にとどまらず、ムービングラバーの楽しさを、身体の動きで伝えてきた人だった。

発売当時の商品画像には、丸い容器と髪型を描いた台紙が並ぶ。現在の商品と見比べると、色分けによって仕上がりを選ばせる見せ方にも連続性がある。ブランドの記憶には、出演者だけでなく、こうした売り場の姿も含まれる。

2006年発売時のムービングラバー6種類。丸い容器と、髪型を描いたイラスト入りの台紙が並ぶ。
2006年の公式発表に掲載された発売当時の商品画像。丸い容器、色分け、髪型のイラストが当時の見せ方を伝える。原資料の解像度のため、細かな文字はリンク先のPDFを参照。 — 画像引用:株式会社マンダム/2006年8月11日発表、3ページ

今回の再起用にあたり、マンダムは、世代を超えてかっこよさを感じさせること、挑戦を続けていることを理由として挙げている。木村自身も、過去を知る人との再会に触れる一方、初めて見る人にも楽しんでもらいたいと話している。2

ここから読み取れるのは、一つの広告に二つの入口をつくれるということだ。

以前のCMを覚えている人には、木村とギャツビーが並ぶこと自体が出来事になる。商品を使っていた頃の記憶まで重なる人もいるだろう。一方、その履歴を知らない人も、画面の中の動きや音楽、髪型から広告に入れる。過去の知識がなくても、表現に接することができる。

このとき再起用する価値は、昔と同じ人物を出すだけでは生まれない。今の姿にも見る理由があり、現在の商品を伝えられることが条件になる。マンダムの説明が、過去の実績とともに、木村の現在の姿勢に言及している点は見逃せない。

なお、今回を「20年ぶりの出演」と表すのは正確ではない。木村は2011年にもギャツビーの別商品のCMに出演している。また、ブランドはその後、松田翔太や佐藤健らとの広告を展開してきた。今回を過去の広告の失敗を取り戻す企画とする根拠もない。6、7、8

長く続くブランドには、いくつもの表現と出会いが積み重なっている。今回は、その中にある木村との関係を、商品が変わる節目にもう一度生かした選択と捉えられる。

人物にまつわる記憶を、現在の商品との出会いへつなげる発想は、ファミリーマートと千代の富士のコラボを扱った記事でも考察した。過去を知る人と知らない人に、それぞれどんな入口を用意するかという問いが共通する。

「予感」は開いている。「しかない」は言い切る

では、なぜこの組み合わせに、平易なコピーが似合うのか。

ここからは、言葉と広告の関係についての分析である。

「いい予感しかない。」には、面白い二つの性質がある。何が起こるかを限定しないことと、気持ちだけは強く言い切ることだ。

「予感」は、まだ出来事になっていない。仕事がうまくいくのか、誰かに会うのが楽しみなのか、いつもと違う髪型を試したいのか。その中身を、見る人が自分の生活に引き寄せられる。

そこへ「しかない」が加わる。先の出来事は決まっていないのに、今は迷わず前向きでいる。この言葉の強さが、木村の軽やかな動きと重なる。

実際、木村は公式インタビューで、予感には目に見えない曖昧さがあると認めたうえで、それを良い方向へ進めるかどうかは現在の自分にかかっている、という趣旨を語っている。本人の受け止め方にも、未来への期待と、自分から動く姿勢がある。1

また、このコピーには「もっとかっこよくなれ」という命令がない。今の自分の欠点を指摘する言葉もない。髪を整えた人の内側に生まれる期待を、本人が口にするような形で置いている。

この違いは小さく見えて、広告を受け取る立場を変える。外から理想の姿を求められる代わりに、自分の気分として言葉を引き取れるからだ。商品を使って得られるものを、他人からの評価だけに限定していない。

そして、昔のCMを知る人にとっては、同じ言葉が再会への期待にも重なる。この組み合わせなら楽しみだ、という受け止め方もできる。商品の使用後の気分と、ブランドと出演者の新しい広告への期待。その両方が、一つの文に収まる。

もちろん、短い肯定的なコピーを置けば、同じことが起きるわけではない。背景となる商品体験も、語る人の表現も見えなければ、何に期待すればよいのかわからない言葉になりうる。

今回、言葉の具体性を補っているのは、髪を整えた木村の姿と、ギャツビーという商品、そして見る人によっては思い出せる過去である。コピーの独自性は、文字列だけでなく、この関係の中にもある。

再起用時の広告ビジュアルでも、左にブランド名と商品、中央に髪へ手を添える木村、右に縦書きのコピーが置かれている。短い文は単独で説明を完結させず、同じ画面の人物と商品へ意味を預けている。

木村拓哉が髪に手を添えるギャツビーの広告。左にブランド名と商品、右に縦書きの「いい予感しかない。」が配置されている。
再起用時に公開された広告ビジュアル。人物、商品、コピーが同じ画面にあることで、言葉だけでは限定されない「予感」に具体的な表情が与えられている。 — 画像引用:株式会社マンダム/2026年8月19日発表

他社は、どんな「かっこよさ」を見せているか

他社の広告と並べると、今回の選択がさらに見えやすくなる。

ただし、比べるのは2026年に発表された男性向けのヘアスタイリング・ヘアケア広告の表現だ。商品も媒体も異なり、同じ条件で広告効果を競った事例ではない。各社がギャツビーを意識して企画したと確認できたわけでもない。

OCEAN TRICOは、佐野勇斗を起用したスタイリング商品の新ビジュアルを発表した。コピーは「ビジュいいじゃん」。白い背景では前髪を下ろしたマットな仕上がり、黒い背景ではツヤのあるセンターパートと、一人の異なる魅力を見せる。使ったワックスやスプレーも説明されている。9

OCEAN TRICOの広告。白と黒の背景で、佐野勇斗の前髪を下ろした髪型とセンターパートを並べ、「ビジュいいじゃん」と記している。
OCEAN TRICOの新ビジュアル。白と黒、マットとツヤ、二つの髪型を対置し、スタイリングで変えられる印象を一枚で見せる。 — 出典:株式会社フィッツコーポレーション/PR TIMES掲載の公式発表

unoは、山﨑賢人と藤木直人が共演するシャンプーのテレビCMを4月20日から放送。「10年後もかっこよく」という価値を掲げ、サロンを舞台に自信や余裕を表現している。10

unoの広告ビジュアル。藤木直人と山﨑賢人、2本のシャンプーと「10年後もかっこよくいけ。」のコピーが配置されている。
unoの公式ビジュアル。二人の出演者と商品に「10年後もかっこよくいけ。」という言葉を重ね、今のケアから将来へ視線を向けている。 — 出典:株式会社ファイントゥデイ/PR TIMES掲載の公式発表

三つの広告で、見る人が想像する場面を整理すると、次のようになる。右列は各社の発表を踏まえた編集部の読みである。

2026年のヘアスタイリング・ヘアケア広告を比較する
広告表現の中心見る人が想像できること
OCEAN TRICO/スタイリング商品のビジュアル佐野勇斗の対照的な二つの髪型髪の仕上げ方で、今の自分の印象を変える
uno/シャンプーのテレビCM山﨑賢人と藤木直人の共演、将来へのメッセージ毎日のケアを、これからの自分につなげる
ギャツビー/ムービングラバーのテレビCM木村拓哉の動きと前向きな予感髪が決まった状態で、次の予定に向かう

OCEAN TRICOは、仕上がりの違いを具体的に見せる。unoは、ケアを続ける時間へ目を向ける。ギャツビーは、スタイリングをした自分がこれから動き出す、その手前の気持ちを捉える。いずれも、商品の働きを生活の中で感じられる価値へつなげている。

この比較からは、ギャツビーの特徴を出演者の年齢だけに求める説明の限界もわかる。unoも、世代の異なる二人を起用している。長いキャリアを持つ人が広告に出ること自体が、今回だけの特徴ではない。

木村の再起用で注目すべきなのは、彼とこの商品がすでに持っていた関係だ。他のブランドが同じ人物を起用しても、ムービングラバーの発売時から続く履歴まで、そのまま手に入るわけではない。

平易なコピーを選ぶために、何を確かめるか

この広告から制作や発注のヒントを得るなら、コピーを考える前の問いと、できたコピーを評価する場面に分けて考えられる。

まず、商品を使うときの動作を、その少し後まで追ってみる。髪を整える、整った髪で鏡を見る、外に出る。そのどこに、広告で伝えるべき変化があるのか。ギャツビーの今回の説明は、機能と感情の間にある具体的な場面を示している。

これは他の商品にも応用できる問いだ。たとえば、仕事の道具なら操作が速くなることに加え、作業を終えた人が次に何をできるようになるかを見る。ただし、利用者が実際に感じているかを確かめず、都合のよい感情を商品へ付け足してはいけない。

次に、出演者とブランドの関係を調べる。知名度や今の人気だけでなく、その人と商品を一緒に見たとき、どんな経験や記憶が立ち上がるか。新しい出演者なら初めての出会いをつくれるし、以前の出演者なら関係の続きも見せられる。どちらが伝えたい内容に合うのかが判断の軸になる。

そのうえで、コピーを映像や人物と一緒に評価する。

平易な言葉は、文案だけを並べると、どの会社でも言えそうに見えることがある。そこで独自性を足そうとして、言い回しを複雑にする前に、誰が、どんな姿で、その言葉を伝えるのかを確かめたい。今回なら、髪型、動き、音楽、商品との履歴が、短い言葉を具体的な表現にしている。

制作現場の記録にも手がかりがある。2006年のCMは、事前に振り付けを決め切らず、撮影当日に木村と監督が相談して動きをつくったと発表されている。今回は監督や振付担当者と打ち合わせたうえで、撮影中にも髪を整える仕草などが加わったという。工程は同じではないが、どちらにも本人の動きを生かす余地があった。5、1

ピンクの背景で木村拓哉が体を傾け、頭の近くに手を伸ばす、ギャツビーCMの二つのカット。
マンダムが公開したCMカット。体を傾ける動きと、髪の近くへ伸ばす手を並べて見ると、身体の動きとスタイリングが一つの表現になっていることが分かる。 — 画像引用:株式会社マンダム/2026年9月16日発表
マンダムのCM発表で案内されている撮影記録。完成した広告を支える動きづくりを確認できる。公式YouTubeで見る — 出典:公式 GATSBY/ギャツビー

広告を完成させるとき、伝える価値は共有しながら、その人がどう表現するかには余地を残す。そこまで含めて考えると、コピーの採用は、文章の採点だけでは済まないことがわかる。

コピーをどう評価するかについては、電通によるAIを使ったコピー審査の試みも別の角度から判断材料になる。言葉に点数をつけることと、実際の広告として何を選ぶかを考えることには、どんな違いがあるのか。今回の表現にも通じる問いだ。

もっとも、今回のコピーを誰が発案し、どんな案と比較し、どう採用したのかは、確認できた公開資料にはない。以上は採用会議の再現ではなく、発表された背景と表現から導いた、企画・判断への示唆である。

再会への反響を、次の選択につなげられるか

今回の広告には、反響の手がかりもある。AdverTimes.は、9月18日15時時点で、ギャツビー公式XのCM投稿が780万表示、3.9万いいねを集めたと報じている。これは同媒体が記録した当時の値であり、現在の数値でも、購入した人数でもない。11

この反応のうち、出演者への関心、懐かしさ、コピー、映像がそれぞれどれだけ寄与したかはわからない。若い世代の商品選択や、以前の利用者の再購入につながったかも、別の検証が必要になる。

それでも、制作上の問いは残る。新しく見せたいとき、自分たちが積み重ねてきた関係の中に、今だから伝えられるものはないか。

ギャツビーは、発売時に世界観をともにつくった人物を、刷新した商品の広告に迎えた。そして言葉は、過去を懐かしむ場所にとどまらず、使う人のこれからへ向いている。

広告表現の範囲を整理した概念図。2006年の自由なヘアアレンジから、2026年は髪が決まって外へ出るときの高揚感までを伝える。
広告が伝える範囲を整理した概念図。2006年は髪を自在に動かす楽しさ、2026年はその先の気持ちまでを表現する。広告効果の計測図ではない。5・4に基づく。 — 図:CONTEXT編集部

平易なコピーを採用するには、その短い言葉を支える具体的な理由が要る。誰が語り、何を見せ、使う人のどんな瞬間につながるのか。そこまでそろえて考えることが、この広告から持ち帰れるヒントだ。


資料確認日:2026年9月26日。企業の公式発表と公開されている取材記事に基づく分析。各社への独自取材は実施していない。

Sources / 参考資料