魚売り場で、青い魚のマークが付いた商品を見かける。これは海洋管理協議会(MSC)が、持続可能な漁業で獲られ、認証された流通経路を通った水産物に使用を認める「海のエコラベル」である。

MSCが10月15日に公表した米国の10年調査では、このラベルを見たことがある人は2016年の21%から2026年の35%へ増えた。1 認知は広がった。しかし、35%という数字だけでは、商品が買われたか、環境負荷が減ったかまでは分からない。

ラベルが購入を助けるには、見たことがある、意味が分かる、根拠を信頼できる、売り場で見つかる、価格や鮮度を含めて選べるという段階を通る必要がある。日本では、買いたいと思った人が店内で商品を見つけられない問題も確認された。

日本のブランドや小売の担当者が持ち帰るべきなのは、海外の認知率そのものではない。環境表示を付けて終わらせず、根拠、売り場、価格、品ぞろえまで同じ購買体験として整え、各段階を別の指標で測ることである。

この記事の要点

  • 米国でMSCラベルを見たことがある人は35%まで増えたが、これは購入率や環境効果ではない。
  • 米国調査では、環境主張に対して根拠と第三者認証が求められる一方、価格や鮮度も選択を左右し続ける。
  • 日本では認知だけでなく、商品を売り場で見つけられるか、同価格で選べるか、事業者が認証コストを負担できるかが壁になる。

米国の35%は「見た人」であり、「買った人」ではない

今回の米国報告は、MSCと調査会社GlobeScanが2016、2018、2020、2022、2024、2026年に行ったオンライン調査をまとめたものだ。2026年2月2日から3月21日の回は米国の消費者3,784人を対象とし、そのうち水産物を食べる人は2,500人だった。回答者は全国の消費者調査パネルから集められている。1

ラベル認知は21%から35%へ14ポイント増えた。買い物中にエコラベルへ気づくと答えた割合も、2018年の25%から2026年の40%へ増えている。店頭で環境表示が視界に入る機会は広がったと読める。

ただし、報告書が示す「MSCラベルへの信頼82%」は、ラベルを認知している人を母数とした数字である。全消費者の82%が信頼したわけではない。また「認知」「買い物中に気づく」「信頼する」はいずれも調査回答であり、レジを通った商品の販売記録ではない。

MSCの10月15日の発表は、持続可能性が米国で主流の期待になったと説明する。3 これは認証主体による解釈である。独立した2026年の系統的レビューは、環境・社会ラベルが選択を助ける研究がある一方、実際の買い物を追った研究はまだ少なく、仮想的な選択実験が多いと整理した。4 認知率の上昇を、売上や環境改善の因果へ飛ばすことはできない。

環境主張への不信が、第三者の証拠を必要にする

ラベルが担う役割は、短い説明で商品を飾ることではない。買い手が、企業自身の環境主張と、外部基準で確認された事実を区別する手掛かりをつくることだ。米国調査では、ブランドや小売の環境主張は独立機関によって明確に表示されるべきだと答えた水産物消費者が、2016年の65%から2026年の72%へ増えた。1

同じ2026年調査では、購入する商品の環境主張の多くを信頼しない人が53%いた。環境にやさしいという情報を信頼するうえで最も効くものを一つ選ぶ質問では、米国回答者の34%が「裏付けとなる事実と証拠」、25%が「独立した検証・認証」を選んだ。2 信頼される理由は、緑色の表現や企業の知名度ではなく、主張の根拠と確認主体に移っている。

ここで、認証マークを説明の代わりにしてはいけない。MSCラベルが何を保証し、何を保証しないかを商品ページや売り場からたどれる必要がある。たとえば、対象が天然の水産物であること、漁業の持続可能性と流通過程が審査対象であることは説明できる。一方、味、鮮度、栄養、安全性、個々の商品の産地がすべて同じ基準で保証されるわけではない。

環境ラベルが認知、理解、信頼、店頭発見、価格や鮮度との比較を経て購入または不購入に進む5段階の図。
認知率、信頼度、購入意向、実購買は別の指標である。どの段階で止まったかを分けて測る。 — CONTEXT編集部作成。MSC・GlobeScan調査、農林水産省調査を基に整理

商品ブランドと認証主体の役割も分ける必要がある。企業名と商品名の約束を分けた解説と同じく、誰が何を保証するかを同じ画面で読める状態が重要だ。商品ブランドは味、価格、使いやすさを約束し、認証ラベルは限定された基準への適合を示す。二つを混ぜると、買い手はラベルが商品のすべてを保証していると誤解する。

日本では、認知の次に価格と「見つけやすさ」が立ちはだかる

日本の水産エコラベル調査を同じ軸で見ると、認知の内側にも差がある。農林水産省が2026年8月に公表した消費者1,000人の調査では、水産エコラベルの意味を知る人が11.1%、見聞きしたことはあるが意味を知らない人が25.2%、知らない人が63.7%だった。5 「見たことがある」と「意味を理解した」を一つの認知率にまとめると、次に必要な説明が見えなくなる。

購入意向では、三つの認知層すべてで「同価格なら買いたい」が最も多かった。認知している人ほど、環境配慮や社会課題の解決を訴える商品を多少高くても選びたい傾向はあったが、価格の条件は消えない。農水省調査は、水産物を選ぶ際に重視する項目として価格・量66.6%、鮮度62.2%を挙げる一方、環境は5.9%だった。5

もう一つの壁が、商品を実際に見つけられるかである。MSCジャパンが関西電力の社会貢献サービス「モアクト」の利用者9,575人を対象に行った2026年2月28日〜3月6日の調査では、情報を見た後に約8割がMSCラベル商品を買いたいと答えた。一方、買い物で商品を探した人の約4割は、店頭で見つけられず購入を断念していた。6

この調査は、社会貢献活動に関心を持つサービス利用者が対象であり、日本の全消費者を代表する標本ではない。購入意向も実売上ではない。それでも「買いたい」と答えた後に、品ぞろえ、売り場案内、パッケージ上の視認性で選択が止まる経路を具体的に示している。

米国と日本の調査で分けて読むこと
比較軸米国日本・農水省日本・MSC
対象全国パネルの消費者3,784人、うち水産物消費者2,500人消費者1,000人モアクト利用者9,575人
ラベルMSCラベル水産エコラベル全般MSCラベル
分かったこと認知、信頼、表示への意見理解、購入意向、価格条件探索後の発見困難
そのまま比べられない理由全国パネルの意識調査質問とラベル範囲が異なる関心層に偏る可能性がある

購入へつなげるのは、表示より広い4つの条件である

環境ラベルを購入へつなげる仕事は、マークを大きくするだけでは終わらない。調査から整理できる条件は、根拠、売り場、価格、品ぞろえの四つである。

1. 根拠:何を誰が確認したかを一文で示す

パッケージや商品ページで、認証の対象、確認主体、基準、追跡先を近くに置く。「環境にやさしい」ではなく、「どの漁業・流通の条件を誰が確認したか」までたどれるようにする。説明ページへのQRコードを置く場合も、読み取る前に要点が見える必要がある。

2. 売り場:見つけるまでの行動を観察する

認証商品の売上だけでは、探して見つからなかった人を数えられない。売り場の在庫、棚の位置、案内表示、店員への質問、商品ページ内検索を確認する。購入率が低いときに、関心がないのか、商品がないのか、表示に気づかないのかを分ける。

3. 価格:追加負担を含めて選べる状態にする

「割高でも買う」と答える人がいても、価格差がいくらまで許容されるかは商品、家計、購入頻度で変わる。通常品との差額、容量、鮮度、調理の手間を同じ場所で比較する。認証への好意を、無条件の価格受容へ置き換えない。

4. 品ぞろえ:いつもの選択肢に入れる

認証商品が特別な一品だけなら、買い手は普段の魚種、容量、料理、予算から外れてしまう。いつも買うカテゴリーに選択肢があるか、欠品せず続くか、店とオンラインで同じ情報を見られるかを確かめる。環境表示は、商品が存在して初めて選択の手掛かりになる。

ブランドイベントの信頼効果を検証した記事で見たように、参加者の信頼と施策の効果は別の数字である。同じく、ラベルの認知、主張への信頼、購入意向、実購買、環境成果を一つの成功指標にしない。

環境表示を仕事に生かす3つの学び

1. 認知率の次に、意味を説明できる人を測る

米国の35%は「見たことがある人」である。日本の農水省調査では、見聞きした人の中にも意味を知らない人がいた。次に確かめる問いは「そのラベルが何を保証するかを、購入者が一文で説明できるか」だ。店頭や商品ページで短い理解確認を行えば、認知と理解を分けられる。

2. 購入しなかった理由を、関心不足で片づけない

日本のMSC調査では、探した人の約4割が商品を見つけられなかった。買われない理由は、無関心だけでなく、欠品、棚の位置、価格、魚種、容量にもある。小さく試すなら、一店舗、一カテゴリーで「探した・見つけた・比較した・買った」を順に記録し、最も多く止まる段階を直す。

3. 認証の成果と、商品の成果を別々に置く

認証は基準への適合を示し、商品は味、鮮度、価格、使いやすさでも選ばれる。次に確かめる問いは「認証がなくても売れた分と、認証が選択を変えた分を分けられるか」である。同期間の認証品と非認証品を、価格帯、魚種、容量、棚位置をそろえて比較する。環境成果はさらに別に、認証対象の漁業と流通の記録で確認する。

Sources / 参考資料