2026年10月14日、TikTokは米国の制作会社MADE BY US STUDIOSと組み、クリエイターが主演・企画に加わる縦型ショートドラマを共同制作すると発表した。1 1話が短い縦型ドラマは、すでに珍しい形式ではない。今回の変化は、TikTokが投稿の配信先にとどまらず、連続作品の企画と制作へ一歩入ったことにある。

ただし、短い動画が多く再生されたからといって、持続する知的財産(IP)になったとは限らない。必要なのは、フィードで見つかること、次の話へ進むこと、制作を続けられること、権利と収益が次作へ戻ることを一つの流れとして設計することだ。日本でもFOD SHORTなどが約1分の縦型ドラマを展開している。形式の似た二つを比べると、競争の焦点が「縦か横か」ではなく、発見から継続、課金、再展開までをどう接続するかに移っていることが見えてくる。

この記事の要点

  • TikTokとMADE BY US STUDIOSは、クリエイター主導の縦型ショートドラマをTikTokとPineDrama向けに共同制作する。
  • 既存作の5.8億回という視聴数は到達規模を示すが、ユニーク視聴者、完走率、収益、権利の持続性までは示さない。
  • 日本のFOD SHORTは専用アプリ、毎日の無料話、アプリ内通貨、定額会員という入口と対価を明示する。似た1分ドラマでも事業設計は異なる。

TikTokが作るのは「短いテレビ」ではない

提携で発表された最初の作品は、恋愛復讐スリラー『Player』とホラードラマ『The Knock』だ。『Player』ではTikTokで約2,970万人のフォロワーを持つハンナ・ストッキングが主演し、共同原案とエグゼクティブプロデューサーも担う。『The Knock』はR.H.ステイヴィスが企画・監督し、約700万人のフォロワーを持つアダム・ローズらが出演する。いずれもTikTokと短編ドラマ用アプリPineDramaで配信する計画である。12

ここで重要なのは、有名クリエイターを俳優として置くだけではない点だ。TikTokは視聴者との接点と推薦面を持つ。クリエイターは、短い時間で人物や葛藤を伝える技術と既存の観客を持つ。制作会社は脚本、監督、撮影、シリーズ管理を担う。三者を同じ企画へ入れ、フィード上の偶然の発見を連続視聴へ変えようとしている。

長編ドラマは、作品名を知っている人が配信サービスを開き、一覧や検索から再生することが多い。TikTokの縦型ドラマは逆で、普段の短編動画に混じって最初の1話が現れる。視聴者は作品を探す前に作品と出会う。この「発見が先、作品認知が後」という順番が、単に画面を縦にしたテレビドラマとの違いである。

縦型ドラマが、発見、初回視聴、連続視聴、収益化、次作とIP展開へ進む五つの工程を示す図。
短い動画の到達規模と、連続作品として育つことは同じではない。各段階に別の指標が要る。 — CONTEXT編集部作成(出典:TikTok、TheWrap、ProdPro)

5.8億回は「IPになった」証明ではない

TikTokは、イッサ・レイ率いるHOORAEと制作した既存作『Screen Time』が、2026年4月の公開以降、TikTokとPineDramaで世界累計約5.8億回視聴され、両サービスで最も高い成績の番組になったと説明する。1 この数字は、短編の連続ドラマが大きな到達を得られることを示す。ただし、これはTikTok自身の集計であり、視聴回数の定義、ユニーク視聴者数、全話完走率、制作費、収益は発表文にない。

5月時点のTheWrapの取材は、別の角度を見せる。『Screen Time』の最初の27話は各話がおおむね1分で、第1話は当時約2,200万回、第27話は約240万回視聴されていた。3 公開時期や露出条件が違うため単純な離脱率にはできないが、シリーズ全体の累計と終盤までの継続視聴は分けて見る必要がある。

制作現場での定着も、視聴数ほど速くない。制作情報会社ProdProがベンダーとフリーランスのクルーに尋ねた2026年版調査では、2025年に縦型・マイクロドラマ案件へ関わらなかった回答者が、サプライヤーの79%、フリーランスの92%だった。関わった回答者の63%も、仕事量に占める比率は1割未満と答えた。2026年にこの領域への投資や注力を増やす予定のサプライヤーは12%である。4

この調査は回答者数を公開版で示しておらず、米国制作業界全体の比率とはみなせない。それでも、再生の急増と、制作会社・人材・予算が継続的に動くことの間に距離があるという反証にはなる。IPとして評価するなら、総再生回数だけでなく、少なくとも初回から次話への遷移、終盤到達、再訪、1話当たりの収益、制作陣への還元、二次展開を追うべきだ。

クリエイターと制作会社の分業が変わる

従来のインフルエンサー施策では、ブランドや制作会社が作った企画へクリエイターが出演し、自分のフォロワーへ届ける形が多かった。今回の『Player』では、ストッキングが共同原案とエグゼクティブプロデューサーを兼ねる。視聴者を連れてくる人が、物語と制作判断にも入る設計だ。1

これは、クリエイターの勘だけでドラマを作るという話ではない。TikTokの視聴文脈、クリエイターの人物像、脚本家や監督のシリーズ制作能力を組み合わせる試みである。発表に名前が出る脚本家、監督、プロデューサーの層は、スマートフォン向け作品でも分業が必要なことを示す。一方で、発表文は原作権、映像化権、広告収益の分配、視聴データへのアクセス、続編の決定権を明らかにしていない。

この未開示部分は小さくない。フィードで当たった作品を、他の配信先、長編、商品、イベントへ展開するとき、誰が判断し、誰が利益を受け取るのか。クリエイターを「顔」として借りるだけなのか、共同所有する企画者として扱うのかで、IPの持続性は変わる。共同制作という言葉だけで対等な関係を推定してはいけない。

日本のFOD SHORTと比べると、同じ1分でも入口が違う

日本では、フジテレビのFOD SHORTが、1話約1分の縦型ドラマをスマートフォン向け専用アプリで配信している。67 冒頭の無料話に続き、毎日5話まで無料で見られるほか、アプリ内通貨「FOD SHORT ゴールド」と週額・月額の見放題プランを用意する。専用アプリの中に連続視聴と対価の経路を置く設計だ。6

2026年10月7日、フジテレビはFOD SHORTの提供地域を米国、カナダ、英国とアジア10地域へ広げた。単に日本作品へ字幕を付けるのではなく、表示や作品情報を地域に合わせ、視聴データを次の制作と宣伝へ使う計画も示した。5 発見力の強いSNSから専用サービスへ寄せるTikTok側と、専用アプリを海外へ広げるFOD側では、同じ縦型・短尺でも起点が反対である。

TikTokとFOD SHORTの縦型ドラマ事業を、入口、制作、継続、対価の四つの軸で比較した図。
TikTokはフィードでの発見、FOD SHORTは専用アプリでの視聴と課金を起点にする。 — CONTEXT編集部作成(出典:TikTok、FOD SHORT、フジテレビ)

TikTok側は、日常的に開くフィードへ作品を置けるため、新規接触を生みやすい。反面、作品を見に来たわけではない人を次話まで導く必要があり、発表時点で課金や権利の条件も見えない。FOD SHORT側は、毎日の無料話、アプリ内通貨、定額という対価が明確で、テレビ会社が持つ制作網や既存IPを使いやすい。反面、専用アプリを入れてもらい、継続して開いてもらう負担がある。

したがって、日本の事業者が学ぶべきなのは「米国で縦型が伸びたから同じ画面比率にする」ことではない。すでに日本にも同じ形式はある。見直すべきは、発見を担う場所、次話へ進む動機、制作と権利の分担、対価の取り方、視聴データを次作へ戻す方法である。たとえばYouTubeでも、視聴体験とスポンサー枠を分けて設計する動きがある。YouTubeの差し替えスポンサー枠の記事 プラットフォームの統合が進む一方で、クリエイターが買い手との交渉力をどう持つかは別問題だ。Skydanceの合併記事

縦型ドラマから学べる三つのこと

1. 到達と継続を同じ数字で語らない

5.8億回という累計は、入口の大きさを示す。しかしIPの強さを確かめるには、初回から第2話、終盤、再訪、別作品への移動を分けて見る必要がある。自社で短編連載を試すなら、総再生回数の目標だけを置かず、「何話目で誰が残るか」を先に定義するとよい。

2. クリエイターを配信面ではなく制作工程へ入れる

今回の提携では、主演者の一部が原案や制作判断にも加わる。応用できる原則は、フォロワー数を借りるだけでなく、視聴者がその人に期待する語り方を脚本・演出・公開順へ反映することだ。ただし、権利、データ、収益分配まで合意できているかを、肩書だけで判断してはいけない。

3. 形式より「発見から次作まで」の経路を設計する

TikTokとFOD SHORTは、どちらも約1分の縦型ドラマを扱うが、入口と対価の設計が違う。まずSNSで見つけてもらうのか、専用アプリへ来てもらうのか。無料枠、都度のアプリ内通貨、定額会員をどう組み合わせて制作費を戻すのか。小さく試すなら、一本の動画を作る前に、視聴後にどこへ進んでほしいかを一枚の図にする。その経路が描けなければ、短く縦にするだけではIPにはならない。

Sources / 参考資料