クリエイターの価値は、フォロワー数だけでは測れなくなっている。動画を見た人が商品を買う。ブランドとの企画へ参加する。チケットを取り、同じ場所へ足を運ぶ。次の作品にも戻ってくる。画面上の注目を、こうした行動へつなげられるかが事業の持続性を左右する。

世界でコンサート興行やTicketmasterを展開するLive Nation Entertainmentは2026年10月1日、Creator Nationという新会社への資本支援を発表した。同社は、クリエイター管理会社と周辺事業を買収し、コンテンツ、商品、ブランド提携、ライブ体験を横断して支える計画である。最初の買収は今後数か月の予定で、投資額や買収先はまだ公表していない。1

重要なのは、人気クリエイターを集める新しい事務所ができたことだけではない。Live Nationは、会場、興行、チケット、スポンサーという現実世界の接点をすでに持つ。その基盤へクリエイターの管理会社をつなぎ、SNS上で「借りている注目」を、購買と来場を伴う関係へ変えようとしている。ただし、一社でつながる便利さは、契約、データ、選択肢が集中するリスクと表裏一体である。

Creator Nationは「新しいクリエイター事務所」だけではない

Creator Nationの直接の顧客は、個々のクリエイターだけではない。Live Nationの発表では、クリエイターを支える管理会社と周辺事業を買収し、資本と運用能力を加えて拡大する。採用中の機能は、クリエイター戦略、コマース、ツアー、データ、オペレーション、マーケティングにまたがる。1

共同創業者はScott FisherとAlexis Fisherである。Scottが創業したSelect Management Groupは500組を超えるクリエイターを抱え、合計オーディエンスは10億超とLive Nationは説明する。Alexisが創業したTimeline Managementは、クリエイターや番組出演者のブランド、管理、ツアーを手がけ、Live Nationが2024年から支援してきた。1

ただし「10億」は、重複を除いた利用者数でも、購入者数でもない。複数アカウント、複数プラットフォームを合算したオーディエンス規模であり、何人が実際に動くかは別に測る必要がある。Creator Nationの公式サイトも現時点では予告ページで、Live Nationとの合弁会社であることを示す一方、提供プランや実績は載せていない。3

創業者への公式Q&Aは、クリエイターが動画投稿者から、商品、番組、ブランド案件、ツアーを持つ会社へ変わったと説明する。2 独立報道のNet Influencerによれば、構想はすべてを独占管理する一枚岩の契約ではなく、管理会社やクリエイターがツアー制作、コマース、ブランド相談など必要な機能を選ぶ形だという。6

つまりCreator Nationが買おうとしているのは、フォロワーそのものではない。フォロワーを支える小規模な管理会社と、その先の企画・販売・運営を回す能力である。

Live Nationが買うのは、フォロワーと会場のあいだの運用である

Live Nationの2025年年次報告書によると、同社はコンサートとチケットの基盤を通じて55カ国で8億500万人へ接続し、年間5万5000公演に1億5900万人が来場した。保有、運営、独占予約権、持分のいずれかを持つ会場は460。Ticketmasterは2025年に6億4600万枚を発券し、顧客は1万500社だった。4

売上の内訳も、この狙いを示す。2025年の全社売上252億ドルのうち、コンサートが209億ドル、チケットが31億ドル、スポンサー・広告が13億ドルだった。会場での飲食、商品、プレミアム体験を増やし、会場とデジタルのスポンサー企画を広げることは、同社が年次報告書に書いた成長戦略そのものである。4

SNS上のフォロワーから、視聴、商品購入、ブランド参加、チケット購入・来場、再訪へ進む流れと、その間を支える運用を示した概念図。
Creator Nationが発表した支援範囲を、受動的なフォローから継続行動までの工程として整理した概念図。実績値ではない。 — CONTEXT編集部作成(出典:[1][2])

ここで「フォロワーをファンへ変える」は、気持ちの強さだけを意味しない。見る、買う、参加する、来場する、もう一度選ぶという異なる行動へ分解できる。Creator Nationは、その間にコンテンツ企画、商品開発、ブランド営業、ツアー制作、データ、運営を置こうとしている。

これまで管理会社がブランド案件の仲介を中心にしていたなら、収入は広告主の予算とプラットフォームの表示ロジックに左右されやすい。Xが「独自投稿」と認めた表示だけへ報酬を払う制度が示すように、プラットフォーム内の収益条件は運営側の定義で変わる。会場や商品へ広げれば、収益源を分けられる可能性がある。一方で、フォロワーの多さから来場を推定するだけでは危険だ。地域、価格、開催時期、会場規模、購入の反復、キャンセル率まで見なければ、実需は読めない。

Live Nation全体の8億500万人や460会場は、Creator Nationの実績ではない。すべてのクリエイターが全基盤を使えるとも発表されていない。今回確認できるのは、既存インフラを背景に、管理会社の買収と横断支援を始める計画までである。

一社でつながる便利さは、選択肢とデータの集中も生む

管理、商品、ブランド、会場、チケットがつながれば、クリエイターは案件ごとに別会社を探す手間を減らせる。ブランド側も、投稿の表示回数だけでなく、チケット購入や来場後の接点まで設計しやすくなる。複数の管理会社に共通のデータ、法務、制作、販売機能を提供できれば、小さなチームが単独で持てなかった能力を共有できる。

しかし、つながるほど確認項目も増える。誰がファンのメールアドレスや購買履歴を持つのか。クリエイターが別の管理会社や会場へ移るとき、データを持ち出せるのか。Live Nation系の会場、Ticketmaster、スポンサーを優先する義務はあるのか。商品とライブが赤字でも、他部門の利益で続けるのか。これらは、10月1日の発表では説明されていない。

この論点は抽象的な懸念ではない。米司法省と一部州は、Live NationとTicketmasterが会場、興行、チケットをまたいで競争を妨げたとして争ってきた。2026年6月に示された提案判決には、第三者のチケット販売を可能にする技術、独占契約の緩和、代替販売者の利用、社内情報の遮断、一定の会場支配の売却、将来買収の通知が含まれる。5

これはCreator Nationが反競争的だという証拠ではない。新会社の買収はまだ始まっていない。ただ、統合の価値を評価するとき、効率だけでなく、クリエイターと管理会社に残る選択肢も同じ表へ置くべきだということだ。

ブランド担当者にとっても、窓口が一つであることを成果とみなしてはいけない。表示、購入、来場、再購入を別々に測り、どのデータを誰が持ち、どの契約が次の施策を縛るのかを確認する必要がある。

日本でも、動画からイベント・商品へ広げる動きは始まっている

日本のクリエイター事業も、動画広告だけには収まらない。クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、2024年の国内市場を2兆894億円と推計した。2021年からの年平均成長率は約15.5%で、モノ/グッズ、動画投稿に関連する広告・マーケティング、スキルシェアが市場の約7割を占める。7

この2兆894億円は、Live Nationの売上と比べられる数字ではない。日本側はクリエイター活動による収入と支援サービスへの支出を合計した市場推計、Live Nation側は一社の連結売上で、対象と計算方法が異なる。比較できるのは金額の大小ではなく、作品・広告に加え、商品、つながり、運用支援へ価値の接点が広がっている方向である。

Live NationとCreator Nationの米国構想と、日本で確認できるクリエイター支援の実例を、出発点、既存基盤、広げる接点、確認段階で比較した図。
米国の新会社構想と日本の確認例を同じ軸で整理。国全体の市場構造や優劣を示す図ではない。 — CONTEXT編集部作成(出典:[1][4][7][8][9])

日本の具体例として、UUUMは1万5000超のYouTubeチャンネルを支援し、広告、グッズ、イベントへ事業を広げている。2026年8月にはエスコンフィールドHOKKAIDOで「UUUM DAY in Fビレッジ」を開催し、会場イベントとYouTube、TikTok、Twitchでの配信を組み合わせた。9月4日の自社発表では、配信アーカイブの総視聴は200万回を超え、来場者アンケート回答者の95%が「また来場したい」と答えた。8

ただし、アンケートの回答数、回答率、来場者総数は発表にない。200万回も3プラットフォームのアーカイブ総視聴で、ユニーク視聴者やチケット購入者ではない。ここでも、オンラインの規模と来場・再訪の行動は分ける必要がある。

UUUMは2025年、ライブコマース支援会社Cellestとの提携も発表した。UUUMのインフルエンサーマーケティングと、Cellestの商品販売・配信運用を組み合わせる。9 日本でも、広告案件、商品、イベント、配信をつなぐ方向は確認できる。

違いは、接続の仕方である。Creator Nationは、グローバルな会場、興行、Ticketmaster、スポンサー基盤を持つLive Nationが、管理会社を買収して内側へ取り込む構想だ。日本で今回確認した例は、クリエイター会社が会場運営者、スポーツ事業者、コマース会社と案件ごとに組む。この違いは、米国が進み日本が遅れているという序列ではない。市場規模、会場網、チケット慣行、契約、ファンの行動が異なるため、同じ形を移す必然性もない。

フォロワー数の次を設計する3つの学び

1. 関係の深さを、行動の階段で測る

フォロワー数や表示回数を最終成果にしない。視聴、保存、メール登録、商品購入、チケット購入、来場、再購入を分け、どこで人数が減り、どこで戻ってくるかを見る。Creator Nationの発表が示す変化は、リーチを捨てることではなく、リーチの先を複数の行動へつなぐことである。

まずは既存施策で、フォロワーから購入・来場までの一段だけを選び、転換数と費用を測る。大規模な会場や商品を先に用意する必要はない。

2. 一体運用の前に、権利と出口を分けて書く

窓口が一つになるほど、コンテンツの利用権、顧客データ、収益分配、契約終了後の扱いを分けて決める。誰がチケット購入者へ連絡できるか。別の会場や管理会社へ移ったとき、何を持ち出せるか。独占の範囲はどこまでか。便利さを採用理由にするなら、離脱可能性も同時に確認する。

企業がクリエイターと組む場合も、投稿一本の納品条件だけでなく、イベント、商品、二次利用へ広げるたびに権利と責任を更新する。YouTubeが公開済み動画のスポンサー枠を差し替える仕組みでも、本編、提供部分、国、契約期間を分ける必要があった。接点を増やすほど、利用条件は細かくなる。

3. フォーマットではなく、自分の不足機能から選ぶ

Live Nation型の垂直統合を、そのまま日本へ移す必要はない。必要なのが商品開発なのか、会場運営なのか、販売データなのか、法務・経理なのかを先に特定する。UUUMとCellestのような提携、会場ごとの共同企画、限定商品の小規模販売でも、不足機能は補える。

Creator Nationが本当にフォロワーを持続的な事業へ変えられるかは、最初の買収と実績を待たなければわからない。次に確かめるべきは、買収額の大きさではなく、クリエイターの収入源が分散したか、ファンが繰り返し参加したか、契約後も選択肢が残ったかである。


資料確認日:2026年10月4日。Creator Nationの買収先、投資額、料金、収益分配、契約、データ共有、成果は未公表。Live Nationの発表画像、Creator Nation公式サイトの写真、UUUMのイベント写真は、記事転載の個別条件または第三者権利を確認できなかったため転載していない。X上の検証可能な公式原投稿と反応数は取得できず、話題性を採用根拠にしていない。

Sources / 参考資料

Live Nation Entertainment:1 Live Nation Backs Creator Nation To Build The Next Generation of Creator-Led Business
Live Nation Entertainment:2 5 Questions With Scott and Alexis Fisher, Co-Founders of Creator Nation
Creator Nation:3 Creator Nation
Live Nation Entertainment / U.S. Securities and Exchange Commission:4 Form 10-K, fiscal year ended December 31, 2025
U.S. Department of Justice:5 U.S. and Plaintiff States v. Live Nation Entertainment, Inc. and Ticketmaster L.L.C.
Net Influencer:6 Live Nation Funds New Creator-Management Venture Co-Founded by Scott & Alexis Fisher
一般社団法人クリエイターエコノミー協会 / 三菱UFJリサーチ&コンサルティング:7 2025年版 国内クリエイターエコノミー調査結果
UUUM:8 「UUUM DAY in Fビレッジ」イベントレポート
UUUM:9 UUUMとCellestがソーシャルコマースおよびライブコマース事業で包括業務提携