ペンギンが泳ぐ水槽の下に、人が歩くトンネルを通す。北海道旭川市の旭山動物園では、来園者は水中を見上げる位置から、ペンギンの泳ぎを観察できる。2000年9月に開いた「ぺんぎん館」の仕組みだ。[1]

自分たちが持つ価値を、顧客が自分で発見できるようにするには、何を設計すればよいのか。同園の「行動展示」から学べるのは、能力が表れる環境と、それを見られる位置を組にするという考え方だ。動物のための空間、見る人の動き、現場の説明をつなげて、その具体化を考える。

掲載写真は旭川市フォトライブラリーの配布素材を利用規約に基づいて使用している。今回訪問して撮影したものではない。

ペンギンの泳ぎを、下から見られる場所へ

旭山動物園が掲げる理念は「伝えるのは、命」。動物が本来持つ能力や行動、感性を発揮できる環境をつくり、それを見せる方法を目指す。その展示方法が、いつしか「行動展示」と呼ばれるようになったと園は説明している。理念は園が伝えたいこと、行動展示はそれを実現する方法として分けて読める。[2]

ペンギンが泳ぐ能力を見てもらうために、どんな施設が必要か。ぺんぎん館には360度を見渡せる水中トンネルがあり、ペンギンが飛んでいるように泳ぐ姿を観察できると、公式の施設紹介にある。[1] 水槽を外から眺める位置に加え、泳ぐ姿の下へ人が入る位置をつくった。

ぺんぎん館の水中トンネルに立つ来園者と、その上を泳ぐペンギン
水槽の下へ入る人の位置が分かる、ぺんぎん館の水中トンネル。旭川市の提供写真。 — 写真提供:旭川市フォトライブラリー。©旭川市。利用規約に基づく使用。

泳ぐペンギンを下から見れば、翼や腹側、体の向きが視野に入る。上の写真でも、来園者のいるトンネルの上をペンギンが通っている。生き物の名前や外見を知るだけでなく、その体が水中でどう働くかを見られる配置である。

ここでは、動物を入れる水槽と、見る人の位置を一緒に設計している。何をしている姿を見せたいかを決め、その姿が見える場所に人をどう置くかを考える。商品やサービスの企画でも、「性能を伝える」と決めた次に、顧客が何を見ればその性能を確かめられるかを考える手がかりになる。

アザラシの動きに、水槽の形を合わせる

2004年6月に開いた「あざらし館」には、大水槽と、円柱状の水槽「マリンウェイ」がある。園はこれを、アザラシの特徴的な泳ぎを観察できる場所として紹介している。[3] 下の提供写真では、透明な円柱の中にアザラシが入り、その脇に観覧用の通路がある。

円柱状の透明な水槽を泳ぐ二頭のアザラシと、その脇を通る観覧用の通路
あざらし館のマリンウェイ。円柱水槽と見る側の位置関係が分かる。旭川市の提供写真。 — 写真提供:旭川市フォトライブラリー。©旭川市。利用規約に基づく使用。

円柱の側面からは水中での体の向きを見られる。同じアザラシでも、水面に顔を出している姿と、水中を移動する姿では、見える動きが変わる。動物の何に注目してほしいかを選び、その動きと水槽の形を対応させていると読める。

ぺんぎん館では見る人が水槽の下へ入り、マリンウェイでは泳ぐ動物が円柱の中を通る。二つを比べると、見たい行動と、それが見える角度を合わせる考え方が分かる。近さを追うだけでは決まらない、行動ごとの見せ方である。

一方、あざらし館の屋外は北海道の漁港をイメージし、小さな漁船やテトラポットを置いている。[3] 館内の一つの仕掛けに加え、周囲の環境も含めて展示をつくる。どの行動を、どんな環境の中で見られる場所なのか。水槽とその周囲を一緒に考えることで、コンセプトを施設全体へ具体化していると読める。

水槽の形から、アザラシが通る頻度や、来園者の理解度までは分からない。目の前を通った一瞬の写真と、いつでも同じ体験ができるという約束は区別したい。

コンセプトを日々の飼育で更新する

この展示の背景には、飼育現場で考え続ける仕事がある。園が施設整備の原点とするのは、飼育スタッフが理想の動物園について話し合った時期に描かれたスケッチだ。多くの絵のうち現存するものが「14枚のスケッチ」と呼ばれ、その一部が後の施設として実現したという。[2]

完成後も、飼育スタッフは動物の能力や行動を引き出す方法を日々研究する。来園者に直接説明するガイドや、スタッフが手作りする看板も、その仕事に含まれる。[2] 動きが見えた人に、何に注目すればよいかを伝える役割がある。

2026年8月の公式日記にも、環境を具体化する判断が記されている。増築したマヌルネコ舎では、高低差が連続する不規則な岩場と、周囲を一望できて風通しのよい休息場をつくることを、第一の目標にしたという。活動する場所と休む場所を、どちらも考えている。[4]

同じ日記は老朽化した給排水設備の改修もあり、建設費が1億円を超えたと説明する。[4] この額はその増築・改修を含む施設の話であり、行動展示全体の費用ではない。コンセプトを実現し続けるには、見える部分をつくる費用に加え、基盤となる設備の更新も必要になる。

ぺんぎん館やあざらし館の開設から、20年以上後の日記へと時期は離れている。それでも、どんな能力が表れる環境にするかを考え、場所に落とすという問いが続いていると読める。理念を保ちながら、その時点の動物や設備に合わせて環境をつくり直している。

自社で確かめる、見える価値の条件

行動が見える環境を用意しても、見る側がいつでも望む動きを引き出せるわけではない。旭山動物園の利用案内は動物を驚かせたり食べ物を与えたりしないこと、フラッシュ撮影をしないことを求める。また、人の流れを止める撮影も禁止している。[5] 観察を成立させるには、見る人の振る舞いも関係する。

本稿で確認できたのは、園が説明する展示の狙い、施設の形、現場で続く工夫である。展示によって来園者の理解や保全行動がどれだけ変わったかは、今回の資料では測れていない。入園者数が増えた時期があっても、広報、観光の動き、施設の新設などを分けずに、行動展示だけの効果とすることはできない。

自社の企画へ応用するなら、まず、伝えたい価値を観察できる行動へ言い換える。たとえば収納用品の「片付けやすい」なら、物を取り出し、元へ戻す動作だ。完成した収納の写真を見せることに加え、初めて使う人がその動作を試せる売り場を考えられる。

次に、試す人の位置と、試せる条件を決める。店員の手元が見えるだけで十分か、自分で戻すところまで確かめる必要があるか。参加する人に説明や操作をどこまで求めるかも、提供する体験の一部になる。これは編集部の応用例であり、旭山動物園で検証された販売施策ではない。

見える価値をつくる確認項目
企画で決めること具体化する問い試作で確かめること
見てほしい価値どんな動きがあれば、その価値が分かるか初めて見る人が、注目する点を見つけられるか
起きる環境と見る位置その動きが生まれ、見える配置は何か見えない時間や混雑、参加する人の負担がないか
続けるための仕事誰が状態を観察し、説明と環境を変えるか維持の手間を含め、約束した体験を保てるか

顧客の接点全体を一つの約束から考える方法はブランド体験の解説で、つくる工程を見せる例は丸亀製麺のコンセプト設計で扱っている。

旭山動物園に固有なのは、動物の暮らしを支える飼育の専門性と、そこで積み重ねられた観察である。水槽の形をそのまま別の事業へ移すより、価値が表れる場面、その場面が見える位置、現場で調整する仕事の三つを、自社の実物から考えたい。既に持っている価値を顧客の発見につなぐには、その価値が見える条件をつくる必要がある。

Sources / 参考資料