運転席に人がいないタクシーが目の前に止まったとき、乗るかどうかは「事故を起こさないと思えるか」だけで決まるのだろうか。

Ipsosが2026年10月23日に公表した米国調査では、ロボタクシーを使う前に技術をもっと信頼したい人が70%いた。同時に、66%は「使う理由がない」と答えた。1

ここから見えるのは、安全を証明すれば利用が自然に増えるという単純な道筋ではない。技術を信頼できるか、いまの移動より便利な場面があるか、失敗の負担を抑えて一度試せるか。この三つを別々に設計し、測る必要がある。

この記事の要点

  • 米国では70%が技術への信頼を求める一方、66%はロボタクシーを使う理由がないと答えた。
  • 信頼は平均値だけでなく、誰をどんな場面で運ぶかによって変わる。安全データにも比較条件が必要である。
  • 日本では2027年中の東京商用化が計画されている。安全説明に加え、終電後や移動制約など具体的な利用場面と試乗後の行動を確かめる必要がある。

米国の数字は「怖い」だけでなく「必要ない」を示した

Ipsos Consumer Tracker Wave 150は、2026年10月20〜21日に米国の18歳以上1,085人へ英語で行ったオンライン調査である。ロボタクシーについて、70%が「利用前に技術をもっと信頼する必要がある」、67%が「自分に合うかを決める前に、もっと肯定的な体験談を聞く必要がある」と答えた。1

不安だけを見れば、必要なのは安全の説明だと思える。しかし、同じ調査では66%が「ロボタクシーを使う理由がない」と回答した。51%は役立つ状況があると答え、56%は好奇心から一度試すとしたが、「今日使う」は40%だった。1

ロボタクシーの利用意向を、信頼の根拠、利用する理由、試す行動に分けた図。
Ipsos Consumer Tracker Wave 150を基にCONTEXT編集部作成。複数の文を個別に評価する設問で、同じ回答者が複数項目に当てはまり得る。合計100%の内訳や利用までの順番は示さない。 — CONTEXT編集部作成。出典:Ipsos Consumer Tracker Wave 150

この六つは別々の質問項目である。同じ人が「使う理由はない」と「一度は試したい」の両方に当てはまる場合もある。したがって、70%から40%へ順に減る利用ファネルとしては読めない。それでも、安全への信頼、用途の発見、実際の利用が同じ質問ではないことは分かる。

例えば、空港へ行くときに既存の鉄道や有人タクシーで困っていない人は、技術を信頼してもロボタクシーを選ばない。反対に、終電後や運転できないときに移動手段がなければ、完全には安心できなくても試したい人がいる。利用しない理由をすべて「技術への恐怖」とまとめると、説明すべき相手と改善すべきサービスを取り違える。

調査は意向を聞いたもので、予約や乗車の実績ではない。回答者が提供地域に住むか、実際に乗った経験があるかも公開toplineでは分からない。Ipsosが示すdesign-effect調整済みのcredibility intervalは±5.1ポイントである。70%と66%の4ポイント差を、信頼の方が必ず大きな障壁だと順位付けする材料にはできない。

安全の証明は平均値より用途と条件で読む

信頼を得るには、ロボタクシーが安全だと一度説明するだけでは足りない。Ipsos調査では67%が自分に合うかを決める前に、もっと肯定的な体験談を聞く必要があると答えた。1 しかし、他人の体験談と、安全性能を比較できるデータは役割が違う。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、自動運転システムが衝突前30秒以内に使われていた一定の事故を事業者へ報告させ、データを公開している。2 ただしNHTSA自身が、会社ごとに事故を把握する方法や車両データへのアクセスが違い、同じ事故の重複報告もあり得ると注意している。件数が多い会社を、それだけで危険だと比べることはできない。

雨の日の混雑した道路で子どもを運ぶことと、短い決まった経路で一人が移動することでは、失敗したときの影響も、利用者が必要とする説明も違う。事故率の平均だけでなく、運行地域、天候、時間帯、乗客、遠隔支援、停止後の対応まで分けて示す必要がある。

企業が示す走行距離や事故減少率も、対象地域、比較する人間の運転、事故の定義、重症度を読まなければならない。安全データは、利用者が自分の場面へ当てはめられる条件と一緒に示すことで、判断材料になる。ブランドイベント参加者の信頼は5倍。ただし「イベントが効いた」とは限らないで扱ったように、参加者と未参加者の差は、その体験だけが原因だとは限らない。

ロサンゼルスの道路で利用者を運ぶ白いWaymoの自動運転車。
Waymoがロサンゼルスで提供する無人配車サービス。実運行の拡大だけでは地域全体の利用意向や用途別の信頼を証明しない。 — Source: Waymo. https://waymo.com/media-resources/

東京の2027年商用化で先に決める利用場面

日本では、Waymo、GO、日本交通が2027年中に東京で完全無人の商用タクシーを始めることを目指している。計画は段階的に約100台へ広げ、GOとWaymoの両アプリから呼べるようにするものだ。ただし、国と自治体の許認可、技術と共同運行の検証が条件であり、開始日や運行地域は確定していない。34

Waymoは終電後や会議後の移動を利用場面として挙げる。日本交通は将来の乗務員不足への対応を説明する。3 どちらも考えられる使い方だが、企業の計画上の説明である。誰が、何時に、どの距離で、既存のどの手段に代えて使うかは、商用化後の予約と乗車で確かめる必要がある。

今回確認したWaymoとGOの発表には、東京の一般利用者が何を理由に使うか、どの不安で利用を見送るかを直接尋ねた需要調査は示されていない。同じ共同計画を日米双方が発表したもので、二つの独立した需要の裏付けでもない。約100台という供給計画だけから、利用場面や需要の大きさは判断できない。

2027年のサービスでは乗車前に何が不安だったか、どの説明を読んだか、乗降やルート変更で困ったか、緊急時に誰へ連絡できたか、次にどの場面なら自分で予約するかを測る。体験後も使わない人の理由を残せば、安全、価格、時間、提供地域、既存手段への満足のどこを直すべきかが分かる。

試乗の目的を「好きになってもらう」に置くと、肯定的な感想だけを集めやすい。乗車前に何が不安だったか、どの説明を読んだか、乗降やルート変更で困ったか、緊急時に誰へ連絡できたか、次にどの場面なら自分で予約するかを測る。体験後も使わない人の理由を残せば、安全、価格、時間、提供地域、既存手段への満足のどこを直すべきかが分かる。

東京での現地化は道路を走れることだけでは終わらない。アプリの言語、決済、乗降場所、問い合わせ、忘れ物、事故時の連絡、車いすや子どもの利用条件までつながる必要がある。ユナイテッド航空の日本語アプリ。翻訳だけではない「現地化」の4層と同じく、利用者から見える言葉と、裏側の運用条件を一緒に合わせて初めて現地化になる。

  • 米国・Ipsos|2026年10月、成人1,085人|信頼、用途、試用の自己申告|実利用と乗車経験は分けていない
  • 日本・Waymo/GO/日本交通|2027年中、東京で約100台を目指す|商用化計画|許認可と検証が条件

米国の意向調査と日本の商用化計画は、対象も指標も違う。どちらの国が進んでいるかを順位付けする表ではない。日本で確認できるのは商用化計画までで、東京の一般利用者の需要は未確認である。

技術受容を進める三つの学び

1. 「安全か」と「必要か」を別の質問にする

新技術を使わない理由を一つの満足度や信頼度へまとめると、改善策がぼやける。まず、技術を信頼できるか、役立つ場面があるか、いま使うかを別々に聞く。信頼は高いが必要性が低い人には利用場面を示し、必要性は高いが不安な人には、場面に合う安全条件と支援方法を説明する。

2. 平均の安全性を、利用場面の条件へ翻訳する

利用者が判断したいのは、全走行の平均だけではない。自分の地域、時間帯、天候、同乗者で使えるかである。運営側は対応地域、運行停止条件、遠隔支援、事故・忘れ物・乗降トラブルの連絡先を一つの利用案内へまとめる。公開する数値には比較対象と対象期間を付ける。

3. 試乗数ではなく、次の自発利用まで追う

試乗者数や肯定的な感想だけでは、好奇心を日常利用へ変えられたか分からない。試乗前の不安、試乗中のつまずき、試乗後に自分で予約した割合、選ばれた時間帯と目的、再利用しなかった理由を追う。無料体験と有料利用も分ければ、興味、信頼、必要性のどこで止まったかを確かめられる。

ロボタクシーを広げる仕事は、安全を説明して不安を消すことだけではない。どの移動なら既存手段より役に立つかを決め、低い負担で試せる入口をつくり、体験後の行動を読み戻すことまで含む。米国の70%と66%が同時に存在するからこそ、信頼と用途を一つの数字に畳まず、別々に直す必要がある。

Sources / 参考資料