テレビCMの間にスマートフォンを見る。動画広告を数秒で飛ばす。広告のないプランへ料金を払う。画面には表示されていても、いつの間にか見なくなる。これらはすべて、広告を避ける行動になりうる。

米Omnicom Mediaが2026年10月6日に配信した調査では、米国の消費者の65%が、程度の差はあれ広告を回避していると答えた。一方、広告ブロッカーを積極的に使う人は6%だった[1][2]。二つの数字の差が示すのは、広告回避が技術的な遮断だけでは測れないということである。

本稿では、広告が配信されてから注意、理解、信頼へ進む途中で、どこに離脱が起きるかを分ける。日本の調査とも照合すると、表示回数を確保することと、見てもらい信頼されることは別の仕事だと分かる。

この記事の要点

  • 米調査の65%は回避の自己評価であり、広告ブロッカー利用率ではない。
  • 回避は、広告なしへの課金、スキップ、ミュート、別画面、スクロール、無意識の無視まで含む。
  • 日本ではネット広告を「信頼できる」が18.3%。ただし米国の65%とは設問が違い、直接比較できない。
  • 実務では配信、視認、注意、理解・信頼、行動を同じ指標で代表させない。

米国65%の内訳は「ブロッカー利用者」ではない

Omnicom Media Intelligenceが2026年8月に行ったオンライン調査では、広告を「非常に/極めて積極的に」避ける人が25%、「ある程度積極的に」避ける人が40%だった。合計した65%が、今回公表された「広告を回避する米国消費者」の数字である[2]。

調査対象は18〜72歳の1,136人で、実施期間は8月6〜11日。ここで尋ねたのは、広告ブロッカーを入れているかだけではない。広告なしの配信サービスを選ぶ、広告を飛ばす、音を消す、スクロールで通り過ぎる、閉じる、CM中に別の画面を見るといった行動まで、能動的・受動的な回避として捉えている。

具体的な行動をみると、広告を避けるため有料サブスクリプションを使う人は41%、広告ブロッカーを積極的に使う人は6%だった[2]。41%と6%は人の重なりがありうる別項目であり、65%へ足し上げる数字ではない。それでも、回避の中心を「ブロッカーを入れた少数の人」だけに置くと、広告へ接触する前後に起きる大部分の選択を見落とすことは分かる。

広告回避は、広告ブロッカーだけではない。米調査では25%が強く、40%がある程度回避し、具体行動には広告なし課金41%、ブロッカー6%、表示後の離脱がある。
65%は回避の強度、41%と6%は具体行動に関する別の数字である。重なりうるため合計しない。 — CONTEXT編集部作成(出典:[1][2])

広告は、配信できても注意を得たとは限らない

広告回避を実務へ移すには、「広告がどこで失われたか」を分ける必要がある。編集部では、少なくとも四つの段階に整理できる。

第一は、接触前の遮断である。広告なしプランへの課金や広告ブロッカーによって、広告を出せる機会そのものが減る。ここでは配信可能な人数や在庫が変わる。

第二は、接触後の物理的な回避である。スキップ、閉じる、ミュート、スクロール、チャンネル変更が該当する。インプレッションが記録されても、広告を読む時間がほとんどなければ、伝えたい内容は届いていない。

第三は、認知的な回避である。画面に広告が残っていても、別の画面を見る、別の作業をする、見慣れた配置を無意識に読み飛ばす。表示や視認可能性だけでは捉えにくい。

第四は、理解・信頼・行動の離脱である。見られても、誰の広告か分からない、内容を信じられない、次の行動に必要な情報がない場合がある。ここは注意時間と同じではない。

この分解が大切なのは、同じ対策を当てても効かないからだ。配信前の遮断には媒体や課金モデルの選択が関わる。スキップには冒頭の役割、認知的な無視には頻度や文脈、信頼には広告主の明示、表現、掲載先の品質が関わる。

たとえば、CONTEXTで以前扱ったマクドナルドの注文後画面を使うMedia Networkは、広告枠を増やす話であると同時に、注文を終えた直後という場面を選ぶ話だった。枠の新しさより、その時点で客が何を知りたいか、広告が体験を邪魔しないかが問われる。

プロダクトプレースメントも、単独の解決策ではない

Omnicomは、従来の中断型広告に加え、作品内の商品露出、ブランド統合、スポンサードコンテンツ、ARなどを組み合わせることを提案している。行動研究では、18歳以上の米国消費者1,200人が4本の動画クリエイティブを見た。非標準形式を「革新的」とした割合は72〜80%、従来のテレビCMは50%だった[2]。

しかし、この結果から「商品を作品へ入れれば避けられない」「購入が増える」とは言えない。テストしたのは4本の動画であり、個別ブランド、商品分野、露出時間、配置、統計的な差の詳細は配信リリースから確認できない。新鮮さへの反応が長期に続くか、売上へつながるかも別の問いである。

広告研究団体Advertising Research Foundation(ARF)が2026年6月に公表した4キャンペーンの検証では、注意指標は、視線、時間、推定確率、感情反応、文脈適合など、測定手法によって別の側面を捉えていた。注意が高い媒体ほどブランドリフトが高いという単純な一対一関係も確認されなかった[3]。

したがって、「注意を獲得した秒数」を新しい万能指標に置き換えても不十分である。配信量、到達、頻度、注意、想起、好意、購入はつながりうるが、同じものではない。まずキャンペーンの目的を決め、その目的に最も近い指標と、途中の失敗を見つける診断指標を分ける必要がある。

同じことは広告の経済効果にも当てはまる。CONTEXTのTikTok経済効果の記事で整理したように、広告費、広告経由の売上、産業全体への波及は別の数字である。広告回避でも、配信された数、見られた可能性、実際の注意、成果を一つへ畳まないことが出発点になる。

日本では「回避率」より、信頼と苦情から境界が見える

日本には、今回のOmnicom調査と同じ質問、同じ年齢範囲、同じ時期で広告回避を測った資料を確認できなかった。そこで国別の大小を比べるのではなく、広告接触の後に何が失われているかを別の一次資料から見る。

日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が2026年2月に、15〜69歳でインターネットをほぼ毎日使う3,591人へ行ったWeb調査では、インターネット広告を「信頼できる」とした人は18.3%だった。2025年の21.6%から下がり、「信頼できない」は40.7%だった[4]。

一方、日本広告審査機構(JARO)がまとめた2025年度の広告苦情は12,589件で、設立以来の最多となった。媒体別ではインターネットが60.9%を占め、前年度の1.7倍。インターネット広告の表現への苦情は前年比241.2%、閉じられない、オプトアウトしても繰り返すといった掲載手法への苦情は199.8%だった[5]。

米国の65%は広告回避、日本の18.3%はネット広告への信頼、日本の60.9%は苦情に占めるネットの構成比であり、同じ物差しでは比較できない。
三つの数字は対象、設問、母数、時期が違う。国別順位ではなく、回避・信頼・苦情という別の地点を示す。 — CONTEXT編集部作成(出典:[2][4][5])

18.3%は広告回避率ではなく、60.9%は日本人の6割が苦情を言ったという意味でもない。後者はJAROへ寄せられた広告苦情の媒体別構成比である。米国65%と棒グラフで横並びにすれば、正確さを失う。

それでも、日本の実務への示唆はある。ネット広告の量が増えるほど、掲載先と広告表現の相互作用が大きくなる。JIAA調査では、不快・不適切な広告が表示されると掲載サイトやアプリの評価も下がり、信頼できる広告であっても不適切な掲載先では広告評価が下がる傾向が示された[4]。

これは広告主だけの問題ではない。媒体は広告品質で自らの信頼を失い、広告主は掲載先の体験でブランド評価を失う可能性がある。以前扱った米FTCとなりすまし広告の記事が示したように、クリック率を高める最適化と、悪質な広告を止める責任は同じではない。接触を増やす設計と、接触してよい広告・場面を守る設計を分けて持つ必要がある。

注意を奪う前に、三つの学びを実務へ移す

1. 回避した人ではなく、回避された地点を測る

「広告を見る人/見ない人」の二分だけでは、41%の広告なし課金、6%のブロッカー、表示後のスキップや無視を同じ原因として扱ってしまう。媒体別に、配信前の遮断、表示後の離脱、注意、信頼、行動のどこが弱いかを一つずつ確認する。まず一つの施策で、表示回数と動画完了率だけでなく、頻度別の反応、想起、否定的フィードバックを並べるところから始められる。

2. 成果指標と診断指標を分ける

注意時間は途中の状態を知る診断に役立つが、売上や信頼そのものではない。売上を目的にするなら購入や増分、理解を目的にするなら内容想起や誤解、信頼を目的にするなら信頼評価と苦情を置く。そのうえで、どこで失敗したかを見るために視認、注意、完了率、頻度を使う。次に確かめる問いは「高い注意が、目的の成果へ本当に続いたか」である。

3. 割り込まない形式より、選べる接触を試す

プロダクトプレースメントやスポンサードコンテンツも、作品の意味を壊せば新しい侵入になる。大規模に置き換える前に、読者が自分で開く解説、役に立つ比較、番組や記事の文脈に合う協賛など、小さな選択型の接触を試す。従来広告と同じ対象・期間で、想起、理解、信頼、離脱を比べれば、「新しい形式だから効く」という循環論を避けられる。

広告回避は、広告が消えた瞬間だけに起きているのではない。画面に残りながら、注意、理解、信頼から外れていく。米国65%という数字を日本へそのまま移す必要はない。移すべきなのは、配信できたかではなく、どの地点で見る理由を失ったかを問い直す方法である。


資料確認日:2026年10月8日。Omnicom調査の質問全文、回答者割付、ウェイト、4本の動画素材、個別ブランド、統計検定の詳細は公開資料から確認できない。Xの検証可能な公式原投稿と反応数も確認できず、話題規模の根拠には使用していない。

Sources / 参考資料