大きなボタンのあるコントローラーを使えても、その箱を開けられるとは限らない。Microsoftが2018年に発売した「Xbox Adaptive Controller」は、体の動かし方に合わせて外部スイッチなどを組み合わせるゲーム用の機器だ。開発チームは本体に加え、包装も身体を動かしにくい利用者と検討した。[1][2]
「使いやすい」という製品の約束を、購入後のどこまで具体化するか。この事例から学べるのは、箱を開け、機器を取り出して接続するまで、利用者の動作を追って約束の範囲を決める方法だ。「箱も製品の約束に含める」はCONTEXTによる要約であり、Microsoftの公式コンセプト文言ではない。
公式製品ページ/Microsoftによる開発記録。本稿は2018年の設計を中心に扱い、現在の製品条件とは分けて記す。
カバー写真:Microsoft Story Labs。© Microsoft. Original photography: Andrew Kist, Brian Smale, Daniel Victor & Swanson Studio(元記事の集合クレジット)。Used with permission from Microsoft. 利用条件。
手の形に合わせた一台より、つなぎ方を変えられる一台
一般的なゲーム用コントローラーは手で持ち、指でボタンやスティックを操作する。動かせる部位や可動域が違えば、同じ持ち方では遊べない。Xbox Adaptive Controllerは外部のボタン、スイッチ、ジョイスティックなどをつなぐハブとして、操作する部品や置き場所を変えられるようにした。すべての人に同じ形を渡すこととは、異なる解き方である。[1]
この開発は、利用者がすでに行っていた工夫につながっている。公式記録によれば、2014年にMicrosoftのエンジニアが、支援団体Warfighter Engagedによる自作コントローラーの写真を見たことが発端の一つだった。2015年の社内ハッカソンなどを経て、利用者や支援団体と試作を重ねたという。[1]

つなげるだけでも、十分ではない。背面の19個の入力端子は上下に重ねず、一列に並べた。上面の後ろ側には端子に対応する記号を付け、各端子の上にはプラグを導く溝を設けている。機器を持ち上げたり裏返したりせず、接続先を確かめられるようにする意図だと、Microsoftは説明する。[1]
ここには、本体の大きな二つのボタンと同じ考え方が見える。ボタンを押す場面だけでなく、遊ぶ前に配線する人の動作も設計に含める。利用者自身が接続する場合も、家族や支援者が配置を調整する場合も、準備をしやすくする余地がある。誰がどんな姿勢で操作や準備をするかを決めれば、部品の大きさと端子の並べ方を結び付けて検討できる。
歯を使わずに、封を開けるには
本体を体に合わせて配置できても、包装の封をつまめなければ、そこへ届かない。公式の開封設計の説明では、利用者が日常的に歯を使って物を開けていると聞き、「no teeth」を原則にしたとしている。どの動作を利用者へ要求しないかを定める、具体的な条件だった。[2]
対策は一カ所に大きな取っ手を付けるだけでは終わらなかった。配送箱の開封から中身の取り出しまで、主な工程に輪を設けた。製品箱の封には二つの輪があり、異なる方向から引ける。ふたを開ける輪、説明書やケーブルを収めた部材を取り出す輪もあり、公式説明では一連の工程に五つの輪を用いている。[2]

輪は指先で小さな端をつまむ以外の開け方を用意する部材だ。Microsoftはさらに、ふたを一つの支点で開く構造とし、本体の下に空間を設けたと説明している。本体を上へ持ち上げる以外に、滑らせて取り出す方法も想定した。握力だけでなく、力を加える向きや取り出し方も変えている。[2]
一方で、箱の外観はXboxの製品群とのつながりを保った。利用しやすくするための工夫と、同じXboxの製品を手にした感覚を両立させたかったという。これは制作側の意図であり、利用者の帰属意識が高まったという測定結果ではない。[2]
成功の基準に、開ける人を加える
包装には輸送中に製品を守り、ブランドを伝え、費用を抑える仕事もある。現在公開されているMicrosoftの包装ガイドは、従来の成功基準に保護、ブランド表現、開封体験、仕上げの品質を挙げる。そのうえで、Xbox Adaptive Controllerを機に、包装も本体と同様にアクセスしやすくする必要に気づき、基準を見直したと振り返っている。[6]
ブランド担当者が学べるのは、優れた箱の形だけではない。「製品を保護しているか」に加え、「届いた人が使い始めるまで進めるか」を、包装の評価に含めた点だ。本体と箱を別々に評価すれば、本体の機能は合格しても、取り出す工程の難しさは残りうる。
ただし、この箱も誰にとっても同じ容易さを保証するわけではない。2018年、Ars Technicaの記者はMicrosoftの広報オフィスで開封し、ふたのナイロン帯を扱いにくい部分として挙げた。これは記者一人の観察で、さまざまな身体条件の利用者を比較した試験ではないが、輪を付けた後にも、力の加え方を確かめる余地があるとわかる。[5]
費用と設定にも条件がある。米国での発売価格は2018年9月時点で99.99ドルだったが、これは本体の価格である。現行の公式製品ページでは、接続する外部機器は別売りと明記されている。利用者に合う部品の選択や配置、設定まで、一台の購入ですべて完了すると受け取るべきではない。[3][4]
公開資料から確認できるのは、利用者と設計を検討した経緯、採用した構造、販売された製品の条件だ。今回読んだ資料では、包装の変更によって開封の成功率や所要時間がどれだけ変わったか、売上や継続利用にどう影響したかは確かめられなかった。また、支援を頼むことを失敗と決めつければ、本人が望む使い方を見落とす。誰の助けを借りてどこまで自分で進めたいかも確認したい。
自社の約束を、動詞で確かめる
自社で応用するなら、まず「簡単」「誰でも」といった表現を、利用者が行う動作へ書き換えてみる。商品が届く、封を開ける、取り出す、説明を読む、組み立てる、使い終えて片付ける。そのどこまでをブランドが約束する体験として扱うのかを決める。
たとえば、組み立てやすさを掲げる家庭用品なら、部品を取り出す袋が固く、細かい部材を机に広げなければならない時点で、別の負担が生じるかもしれない。これはXboxの実例ではなく、自社で検討するための仮定だ。説明書の文章を直す前に、どこで止まり、何を持ち替え、誰に何を頼むのかを観察することで、直す対象を選べる。
次に、難しさに直面する人と試作を試す。Microsoftの現行ガイドは、当事者を初期から設計に含め、現実に近い環境で検討し、繰り返すことを勧めている。最後に完成品を見せて感想を求めるだけでは、材料や構造を変える余地が小さい。[6]
試す際は「好きか」だけでなく、途中で進めなくなった工程、持ち替えた回数、支援を求めた理由などを記録できる。本人が望む方法で進めたかも聞く。この記録方法は本稿からの提案であり、Microsoftが当時使った評価指標と同一だと確認したものではない。
そのうえで、保護性能、輸送、費用との両立を確かめる。ゲーム機器の重さや形に合う箱を、別の商品へそのまま移すことはできない。Microsoftの設計・試験体制も、どの会社にもそのまま備わっている条件ではない。応用できるのは、約束と利用者の動作を結び付け、途切れる工程を企画の範囲へ戻すという考え方だ。箱の輪をまねる前に、自社では誰が、何をするところで止まるのかを確かめたい。
コンセプトの言語化から整理する場合は「ブランドコンセプトとは」、複数の接点を通じた体験を考える場合は「ブランド体験とは」も参照できる。
Sources / 参考資料
2. Microsoft News Centre:Accessible Unboxing of the Xbox Adaptive Controller(2018年7月26日)
3. Xbox Wire / Gabi Michel:Gaming Gets More Inclusive with the Launch of the Xbox Adaptive Controller(2018年9月4日)
4. Xbox:Xbox Adaptive Controller(現行製品ページ)
5. Ars Technica / Sam Machkovech:Forward-box: Xbox Adaptive Controller’s packaging is a good Microsoft move(2018年7月25日)
6. Microsoft Inclusive Design:Creating Accessible Packaging(現行ガイド)
