カバー写真:グランドキャニオン・ビジターセンター/National Park Service(撮影:Michael Quinn/NPS)。

冊子を受け取り、公園で活動し、職員のもとへ戻ってバッジを受け取る。米国アリゾナ州のグランドキャニオン国立公園には、「Junior Ranger(ジュニアレンジャー)」という体験型の学習プログラムがある。自然や歴史を学び、宣誓して、公園を守る仲間としての役割を受け取る仕組みだ。2 5

今回の「今日のコンセプト」で考えるのは、理念を知ってもらう施策を、参加者が自分で動く体験へどう変えるかである。この事例を編集部の言葉で要約するなら、見る人に、観察して守る小さな役割を渡す設計だ。NPSの公式タグラインではなく、活動と認定の関係から導いた分析である。

バッジという記念品だけを見ると、参加のご褒美に見える。だが、何をした証しとして渡すのかを追うと、課題のつくり方、職員の関わり方、帰宅後へのつなぎ方が見えてくる。魅力的な景品を決める前に、参加者へ任せる行動を考えるための事例だ。

任せる役割から、課題と認定をつなぐ

Junior Rangerを運営する米国国立公園局(NPS)には、自然・歴史資源を保全し、将来の世代も楽しめる状態で残す使命がある。1916年の設置法にさかのぼるこの役割から見ると、公園を紹介することと、訪れた人に保護へ関わってもらうことは切り離せない。1

Junior Rangerは、子どもと家族が公園の人、場所、物語に触れる入口になる。NPSの全国向け案内は子どもと家族を想定しつつ、年齢や能力を問わず参加を歓迎するとしている。グランドキャニオンの現行案内は、活動冊子の受取先としてビジターセンターや協力団体の書店などを挙げている。4 2

大きな地図のあるグランドキャニオン・ビジターセンター内で、来訪者が案内カウンターの職員と話している
2012年4月23日撮影。グランドキャニオン・ビジターセンターの案内カウンター。出典:National Park Service。 — NPS photo by Michael Quinn / Public domain. No claim to original U.S. Government works. 縮小・WebP変換して掲載。

現行ページが配布するPDFは、表紙に2018年3月を示す「3/18」と記した4歳以上向けのSouth Rimの冊子だ。公園南側のエリアを対象に、家族が取り組む課題と認定の手順がまとまっている。3

冊子は、職員のプログラムへの参加または公園の映画の鑑賞、年齢に応じた四つの活動、職員らとの確認という三つの要件を示す。4〜7歳、8〜10歳、11歳以上の印で取り組む課題を分け、活動後は冊子を持って戻るよう案内している。3

活動から認定までに用意された三つの要件
冊子が求めること参加者がすることコンセプトとの対応
プログラムか映画に触れる学んだことを記す公園の知識に触れる入口をつくる
年齢に合う四つの活動見る、描く、記録する自分の発見を持つための行動を決める
冊子を職員らと確認する活動を振り返り、認定を受ける体験したことと、与える役割をつなぐ

要件は冊子に基づき、右列は編集部の分析である。他の国立公園でも同じ課題数・年齢区分とは限らない。NPSも参加先の公園ごとの案内に従うよう求めている。4

ここで家族に渡されるのは、膨大な知識の一覧だけではない。何を見つけ、何を残せば、活動を終えられるかという手がかりだ。提供者の「自然や歴史を知ってほしい」という思いを、参加者が実行できる大きさへ分けている。

観察と保護を、同じ課題へ組み込む

South Rimの冊子では、観察する課題に、採集や接近を避ける条件も組み込まれている。たとえば「Canyon Bingo」は、絵にある物を探し、採集はしないよう指示する。岩を調べるページには次の来訪者も見られるよう、その場に残すことが添えられている。3

ビンゴのマスに印を付けるために必要なのは、物を持ち帰ることではなく、見つけることである。遊びを進めるための行動と、守りたい状態をそろえている。

野生動物を扱うページも動物の姿を見ることに加え、足跡や食べ跡などの痕跡を記録する課題を用意する。同時に、餌を与えたり近づいたりしないよう明記している。動物を間近で見るという結果だけを求めず、離れた場所から分かることにも、取り組む理由を与えている。3

企業の参加施策でも、欲しい行動と、避けたい行動を一緒に考えられる。たとえば写真の枚数だけを競わせる企画では、撮ることが現場の迷惑につながる場合がある。何を撮るか、どこから観察するか、何を記録として認めるかまで決めれば、参加条件そのものに企画の価値観を入れられる。これは本事例から考えた応用であり、NPSが企業の撮影企画を検証した成果ではない。

もちろん、ルールが書かれていることと、全員が守ることは別だ。今回の資料からは、課題によって接近や採集がどれだけ減ったかまでは確認できない。評価できるのは、保護の理念が末尾の標語に留まらず、参加者の具体的な行動条件に落ちている点である。

職員の確認と宣誓で、体験を持ち帰る

Junior Rangerでは、活動後に人のもとへ戻る工程がある。South Rimの冊子は職員らと内容を確認するよう案内し、認定欄には本人と職員の署名欄を置く。支援団体Grand Canyon Conservancyの現行説明でも、活動を終えた後、職員と宣誓してバッジを受け取る流れを示している。3 5

グランドキャニオンを背に、冊子やバッジを持つ子どもたちと二人の公園職員が手を挙げて宣誓している
2008年6月20日撮影。グランドキャニオンでのJunior Rangerの宣誓。出典:National Park Service。 — NPS photo by Michael Quinn / Public domain. No claim to original U.S. Government works. 縮小・WebP変換して掲載。

冊子の宣誓が求めるのは、公園について学び、発見を他の人へ伝え、公園を楽しみ守るという約束である。バッジを受け取る時点で、活動の完了だけでなく、その後どう関わるかにも言葉を与えている。3

ここでは、物としての記念品と、そこへ至る手順を分けて考えたい。同じ形のバッジでも、受け取る前に自分で見つけたことがあれば、その体験を説明するきっかけになる。認定の言葉、確認する相手、残る物がそろうことで、役割を受け取る場面をつくっている。すべての参加者が同じ長さの対話をする、同じ感情を持つという意味ではない。

知識を家族や友人へ伝えることは主催者が期待する行動であり、今回確認した資料だけでは、帰宅後の実践率や再訪への影響は分からない。バッジを集めたい気持ち、旅先の景観、同行者との時間も参加の理由になりうる。役割の設定だけで人が長く関わるようになったと、原因を一つに絞ることはできない。

来られない人と、支える人の条件も設計する

グランドキャニオンの現行案内は、現地のバッジを受け取るには来園が必要で、冊子やバッジを郵送できないと明示する。その一方で、家庭から取り組めるVirtual Junior Rangerを別に用意している。現地に来る人と来られない人へ、同じ物品を約束しているわけではない。2

オンライン版でも、四つの活動を終え、宣誓の映像を見て、バッジ画像をダウンロードする。4〜7歳向けの課題には、外や窓辺で10分間、見える物や聞こえる音などを記録する活動がある。8歳以上向けにも身近な木を調べる課題などがあり、遠くの公園へ行けなくても、自分の周囲を観察する行動を残している。6 7

現地用冊子には画面読み上げや入力に対応したPDFも案内されている。ただし、それで移動、言語、時間などの負担がすべて解消されたとは言えない。年齢や能力を問わず歓迎する方針を、各人が実際に参加できる条件へ変える仕事は残る。2 4

提供者の負担もある。Grand Canyon Conservancyは支援者によってプログラムを支えていると説明し、NPSの全国案内は、多くの公園では現地のプログラムしか維持できないと説明する。教材の郵送依頼には応じられないという。冊子をつくるだけでなく、活動を案内し、確認し、認定する人と資金が必要になる。今回の資料では一人当たりの経費や職員の確認時間までは分からない。5 4

自社で試すなら、まず参加者に任せたい役割を一つ選ぶ。その役割を果たす行動、行動したことが分かる記録、それを受け止める担当者を決め、少人数で一周させてみる。景品を渡した数に加え、どこで困ったか、何を自分で発見したか、スタッフの作業がどれだけ増えたかを確かめる。これは編集部が提案する検討手順である。

参加に伴う負担と返礼を考える際は、参加型ブランド体験を扱った記事が参考になる。その体験を選ぶ原則へまとめる段階では、ブランドコンセプトの役割と作り方にもつながる。

国立公園の自然・歴史と、職員への信頼は、この事例に固有の条件だ。名前やバッジだけを借りても同じ関係は生まれない。応用できるのは、伝えたい理念から、参加者へ任せる小さな行動を選び、その発見を受け止めるところまで設計する方法である。Junior Rangerが示すのは、コンセプトを説明の言葉で終えず、参加者が果たせる役割へ変えるという選択だ。

Sources / 参考資料